日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG51] ハイブリッド年代学−ジルコン年代学の次へ−

2023年5月25日(木) 09:00 〜 10:15 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:仁木 創太(東京大学理学系研究科地殻化学実験施設)、岩野 英樹((株) 京都フィッション・トラック)、座長:仁木 創太(東京大学理学系研究科地殻化学実験施設)、岩野 英樹((株) 京都フィッション・トラック)

09:00 〜 09:15

[SCG51-01] レーザーアブレーションICP質量分析法を用いた第四紀モナズ石の年代測定

*仁木 創太1小杉 周平1岩野 英樹1,2檀原 徹2平田 岳史1 (1.東京大学理学系研究科地殻化学実験施設、2.(株)京都フィッション・トラック)


キーワード:モナズ石、LA-ICP-MS、年代学

これまでの年代学研究はウラン濃集鉱物であるジルコンに対するウラン–鉛年代測定法に依拠してきた。ジルコンのウラン–鉛年代は局所同位体分析法を用いて迅速に取得することができ、個々の粒子や粒子内部の累帯構造を区別して年代測定を実施することができることから、これまで膨大なジルコン年代の解析を通じて様々な地質現象対して時間の目盛りが刻まれてきた。
しかしながら、若い年齢のジルコンほどその正確な年代測定は困難となるという問題がある。それは放射壊変に由来する微量な娘同位体の検出が困難になるだけでなく、ウラン系列の中間生成物には230Thおよび226Raという長半減期の放射性同位体が存在し、特にジルコン結晶化時の230Th含有量推定に付随するに不確かさに伴って年代値に系統的な偏差が生じるからである[1]
この問題を解決するためにジルコン年代学の次を目指す手法が必要であり、この問題は特に第四紀の火成活動を研究する上で障壁となる。これまでの研究では火山岩に産するジルコンの結晶化年代頻度分布を用いて数万から数十万年スケールのマグマ滞留時間の制約がなされてきた[2]。しかしながら、マグマ溜まり内部の過程、例えばマグマの生成、マグマ溜まりの定置、マグマの冷却および分化を詳細に解明するにはさらに高い時間分解能の年代情報を得る手段が求められている。
本研究ではウランと同様に放射性元素であるトリウムに着目し、トリウム濃集鉱物であるモナズ石に対する年代測定法を提案する。天然に存在するトリウムの同位体は主として232Th と230Thである。232Thはトリウム壊変系列の起点であり、230Thはウラン壊変系列の中間生成物である。トリウム壊変系列にはウラン壊変系列と異なり長寿命な中間生成物は存在しない。したがってトリウム壊変系列を用いた232Th–208Pb年代測定法は208Pb/232Thを年代値に換算する時に放射非平衡の影響を無視でき、正確な年代測定を実施できるという利点を有する[3]。また230Thはそのα壊変により半減期1600年の226Raが生じ、226Ra/230Thの測定を通じて完新世試料の年代分析が可能となる。モナズ石は結晶化時にウランよりもトリウムを卓越して濃集し、その主成分としてトリウムを含有する。したがって232Th および230Thを用いた高時間分解能年代分析の対象として最適な鉱物である。
しかしながら、第四紀の年齢を有するモナズ石に対して年代分析を行うことはこれまで困難であった。鉱物中に含まれる208Pb、226Raおよび230Thを局所同位体分析法に基づき分析する場合、微量同位体測定に高い感度が必要となるだけでなく、試料マトリクスに由来する多原子イオンや232Thに由来するテーリングが干渉として問題となる。ジルコンの分析でも同様に生じるその干渉に関して、本研究ではコリジョンセルによる多原子イオンの除去[4]と2段階の質量分離による優れたアバンダンス感度を実現可能なトリプル四重極方式のICP質量分析法(ICP-MS/MS)を用いて解決した。また、ICP-MS/MSと組み合わせる局所サンプリング法にはフェムト秒レーザーアブレーション法を採用し、分析の迅速化と元素分別の低減を図っている。
本発表では、年代値既知の参照物質として洞爺軽石(噴出年代約110 ka[5])から分離されたモナズ石に対して年代分析を実施し、その結果をもとに分析法の正確性や分析精度を評価する。また本手法の応用として、神津島天上山流紋岩から分離した完新世モナズ石試料に対して年代分析を行った結果を報告する。

[1] Schärer, U., 1984, EPSL. [2] Reid, M. R. et al., 1997, EPSL. [3] Sakata, S. et al., 2017, Quat. Geochronol. [4] Niki, S. et al., 2022, GGR. [5] Tomiya, A. and Miyagi, I., 2020, Kazan.