日本地球惑星科学連合2023年大会

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[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG54] 地殻表層の変動・発達と地球年代学/熱年代学の応用

2023年5月25日(木) 15:30 〜 17:00 オンラインポスターZoom会場 (5) (オンラインポスター)

コンビーナ:長谷部 徳子(金沢大学環日本海域環境研究センター)、末岡 茂(日本原子力研究開発機構)、伊藤 久敏(財団法人電力中央研究所)、田上 高広(京都大学大学院理学研究科)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/25 17:15-18:45)

15:30 〜 17:00

[SCG54-P02] 地表試料と摩擦実験から推定される地震時の長石ルミネッセンス信号変化:布田川断層の例

*松岡 陽司1大橋 聖和1田村 亨2、塚本 すみ子3 (1.山口大学、2.産業技術総合研究所、3.Leibniz Institute for Applied Geophysics)

キーワード:ルミネッセンス、断層

【はじめに】
 ルミネッセンス年代測定法は,鉱物中の自然放射線に由来する捕獲電子が熱や光の刺激を受け再結合することを利用した年代測定法である(奥村・下岡, 2011).ルミネッセンス信号は地震性断層すべりに伴う摩擦熱によってリセットすることが実験室で明らかにされており(例えばOohashi et al., 2020),活断層の最新活動年代の特定に利用できる可能性が唱えられている.天然の断層帯で地震性断層すべりとルミネッセンス信号のリセットの関連性を明らかにするためには,(1) 最新活動時期,(2) 最新活動面の位置,(3)すべりパラメータ(速度やすべり量),(4)地震性断層すべりとは関係ない熱イベントがないこと,の以上4点がわかっているサイトで検証を行う必要がある.
本研究では,これらの情報が既知でテストサイトとしての条件を満たしている布田川断層の上陳露頭(大橋・田村, 2016)において断層試料および高速摩擦実験後試料のルミネッセンス年代測定を行い,長石ルミネッセンス信号の消失条件を推定したので報告する.

【布田川断層地表試料の年代測定】
 2016年熊本地震で約2 mの変位が認められた布田川断層上陳露頭において,露頭に暗幕をかけ,遮光状態で断層ガウジ試料,断層角礫試料,非変形の母岩である阿蘇-4火砕流堆積物を採取した.断層角礫試料はブロック状で採取し,暗室ですべり面からの距離に応じて1 cmごとにサブサンプリングを行った.試料は流水下でふるいにかけ73~120 μmの粒子を得た.次に,2.63 g/cm³の重液で重鉱物を,2.58 g/cm³の重液を用いて火山ガラスなどの軽鉱物を除去した.最後に,マグネティックセパレーターで磁性鉱物を分離して長石を抽出した.XRFおよびXRDより,抽出された長石は主にアルバイト・アノーサイトであった.
 ルミネッセンス測定は産業技術総合研究所のRisø TL/OSL reader を用い,pIRIR₂₂₅法で測定した.等価線量値は,pIRIR₂₂₅で約170~185 Gyの範囲で求められた.年間線量率は,試料のガンマ線測定,XRF測定,含水率測定結果に基づき,DRAC(Durcan et al., 2015)を用いて求めた.また,Kars et al. (2008)に基づきフェーディング補正を行った結果,全ての試料で77〜96 kaの年代値が求められた.得られた年代値がすべり面との距離に関係なく有意な差が見られなかったことから,2016年の熊本地震および古地震学的に求められている過去数回の活動で,ルミネッセンス信号の部分リセット及び完全リセットが起こっていなかったと考えられる.また77〜96 kaという年代値は,テフラの酸素同位体比(δ18O)の86~90 ka(Aoki, 2008),K-Ar法の89±7ka(松本, 1996) という阿蘇-4火砕流堆積物の年代と一致しており過去にもルミネッセンス信号がリセットするイベントはなかったと考えられる.

【高速摩擦試験に伴う信号変化】
 地下における地震時の長石ルミネッセンス信号変化を明らかにするため,高速摩擦試験を実施し,回収試料のルミネッセンス年代測定を行った.摩擦試験には地表試料の断層ガウジを使用し,ふるいがけによって初期粒径を73〜150 μm に揃えた.実験は,等価変位速度1 m/s,変位時間2 s,変位量2 m,垂直応0.5および3 MPa で実施した.実験後の試料は外周から7.5 mmまでの範囲の試料を回収した後に湿式ふるい分けで実験によって72 μm未満に粉砕された試料を除去した.その後,重液分離によって2.40〜2.81 g/cm³ の範囲の鉱物粒子を抽出した.
 ルミネッセンス測定の結果,垂直応力0.5 MPaの実験後試料の等価線量値は192.61± 6.07 Gy/kaと出発試料(185.68 ± 11.76 Gy)に比べて優位な差は認められなかった.一方,垂直応力3 MPaの実験では等価線量値が56.285 ± 4.43 Gy,地表試料と同様の手法で求めた年代値は33 ± 4.43 kaと有意に減少していた.垂直応力3 MPaの実験で年代値が若返った理由として,高速摩擦実験中の熱の影響(0.5 MPaで最大約108 ℃,3 MPaで最大約812 ℃)であると考えられる.

【リセット深度の推定】
 阿蘇-4火砕流の乾燥密度1.23 g/cm³(中澤ほか, 2017)に基づき,摩擦実験で加えた垂直応力と等価線量値の直線近似からルミネッセンス信号の完全リセット深度を推定した結果,深度約352 mであり垂直応力は4.25 MPaに相当する.以上より,地下において長石のルミネッセンスを用いた断層年代測定は実用可能であると考えらえる.

【参考文献】
Aoki,K. (2008). Revised age and distribution of ca. 87 ka Aso4 tephra based on new evidence from the northwest Pacific Ocean
Durcan, J.A., King, G.E., Duller, G.A.T., 2015. DRAC: dose rate and age calculator for trapped charge dating. Quat. Geochronol. 28, 54 - 61.
松本哲一. (1996). 若い火山岩のK-Ar年代測定ー初生比補正とその応用例ー. 地質ニュース, 501, 12-17.
中澤努・坂田健太郎・佐藤善輝・星住英夫・卜部厚志・吉見雅行.(2017). 2016 年熊本地震で甚大な被害を受けた益城町市街地の地下を構成する火山性堆積物の層序と分布形態. 地質学雑誌, 124, 347–359.
奥村輔・下岡順直. (2011). ルミネッセンス年代値を開始するための心得. 地質技術, 1, 5-17.
大橋聖和・田村友識. (2016). 2016年熊本地震で動いた布田川断層の活断層露頭. 地質学雑誌, 122.
Oohashi, K., Minomo, Y., Akasegawa, K., Hasebe, N., Miura, K., 2020. Optically stimulated luminescence signal resetting of quartz gouge during subseismic to seismic frictional sliding: a case study using granite-derived quartz. J. Geophys. Res. Solid Earth 125 (10) e2020JB019900.
R.H. Kars., J. Wallinga., Huot, S., and K.M. Cohen. (2008). A new approach towards anomalous fading correction for feldsparIRSL dating — tests on samples in field saturation. Radiation Measurements, 43, 786– 790.