日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG60] 断層帯浅部構造と地震ハザード評価

2023年5月21日(日) 09:00 〜 10:30 301A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:浅野 公之(京都大学防災研究所)、田中 信也(東電設計株式会社)、宮腰 研((株)大崎総合研究所)、三宅 弘恵(東京大学地震研究所)、座長:浅野 公之(京都大学防災研究所)、田中 信也(東電設計株式会社)、宮腰 研((株)大崎総合研究所)、三宅 弘恵(東京大学地震研究所)


09:30 〜 09:45

[SCG60-03] 地質・地形・地震活動情報からの震源断層パラメータの事前予測:2016年熊本地震を例に

★招待講演

*遠田 晋次1 (1.東北大学災害科学国際研究所)

キーワード:活断層、熊本地震、強震動

2023年2月6日に東アナトリア断層帯(EAF)で発生したトルコ,ガジアンテップ地震(M7.8)では,強震動が広域を襲い未曾有の被害となった.この地震では屈曲部を挟んで隣接する断層セグメントが連動し,総破壊長が約400kmにもおよんだ.この地域でM7.8地震は想定されておらず,より現実的な「震源断層を特定した地震の強震動予測手法」の必要性を再認識する地震となった.確率論的地震ハザード解析(PSHA)の観点からも,本震と約9時間後のM7.5地震の断層沿いのハザードは,相対的に地震活動が低調で周辺EAFよりも低く見積もられていた(Glulerce et al., 2017).我が国においては,主要活断層で発生した2016年熊本地震が,ある意味の「答え合わせ」である.本発表では,熊本地震後の断層調査や震源断層モデルを振り返り,内陸地震の長期予測,シナリオ地震構築(入倉・三宅,2001)における地質・地形・地震活動情報の生かし方について,最新の知見も踏まえて考察する.
1)巨視的断層パラメータ
活断層による内陸地震の断層モデル設定においては,震源断層長が最も重要である.長大な断層については,顕著な屈曲や不連続,断層姿勢と変位センスの変化,活動性・活動履歴の変化などを考慮してセグメント区分が行われ,隣接密集する断層群については離隔距離5kmを基準としてグルーピングが検討されてきた(松田,1990).横ずれ断層についてはWesnousky et al. (2006)によってその有効性が確認され,連動性の確率論的な検討もなされている(Biasi et al. 2017).熊本地震では,布田川断層帯は3セグメントに分けられ,布田川区間としての想定はMj7.0であった(地震本部, 2013).実際は,震源断層,地表地震断層ともに,西は日奈久断層帯北端に約5km,東は阿蘇カルデラ内に約5km,それぞれ「染みだし」,断層長は約35kmでMj 7.3(Mw7.0)となった.地震後の調査で,阿蘇カルデラ内の地震断層が約7300年前以降に複数回活動していたことがわかり(遠田ほか,2020).事前の断層分布把握の重要性が再認識された.
2)微視的断層パラメータ
地形・地質情報が有用となるのはアスペリティの位置である.地震断層をともなう地震では,概ね震源断層のすべり最大の位置で地震断層の変位も最大の場合が多い(例えば,関口ほか,2003).その位置は,非対称の三角形で示される変位分布パターンから,断層中心からどちらかにずれる場合が多い(Manighetti, 2005).最近の研究では,より断層が成熟している側(累積変位量が大)に偏るという報告もある(Perrin et al., 2016).熊本地震を振り返ると,地表右横ずれ変位量は震源断層西側の益城町堂園付近で最大となり,北東の阿蘇側に向かって減少する(震源断層ではやや西原村側,Asano and Iwata, 2021).阿蘇カルデラ側は何度も火山噴出物に被覆され未成熟とみられ,Perrin et al. (2016)らの考えと整合する.
3)その他の断層パラメータ
その他の断層パラメータとして,破壊開始点と破壊形態があげられる(地震本部,2020).破壊開始点は,中田ほか(1998)の断層分岐形態モデルが考慮されている.しかしながら,破壊は必ずしも断層中央部付近から分岐の多い末端に進行しない.地震トリガリング研究を総括すると,近傍の大地震や群発地震活動にともなって地震活動が励起された地点が次の大地震の破壊開始点となりやすい(遠田,2018).これを展開すると,活断層上で相対的に地震活動の高い部分が将来の破壊開始点になりやすいと予想される.熊本地震では,まさに28時間前に発生したM6.5の余震域内でM7.3の破壊が始まり,阿蘇カルデラまで破壊伝播が生じた.
4)確率論的地震ハザード解析(PSHA)の視点
熊本地震発生前の評価では,布田川断層の平均活動間隔は8,100~26,000年,最後の活動が約6,900年前~2,200年前で,30年確率が「ほぼ0~0.9%」とされていた(地震本部,2013).しかし,地震発生後の調査を総括すると,布田川断層の活動間隔は2,000〜3,000年程度で,最新活動が約2,000年前に発生したことはほぼ確実である(例えば,Ishimura et al., 2022).30年確率にすると最大約5%となる.費用対効果を考えると現実的ではないが,本震発生前に活断層調査を多地点で実施する意義は高い.また,2023年トルコ地震のように地震観測結果を活断層のPSHAに適用することは誤った評価をもたらす.あらためて地震地質・古地震調査の重要性が見直されるべきであろう.