日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL22] 年代層序単元境界の研究最前線

2023年5月26日(金) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (4) (オンラインポスター)

コンビーナ:星 博幸(愛知教育大学自然科学系理科教育講座地学領域)、高嶋 礼詩(東北大学総合学術博物館)、黒田 潤一郎(東京大学大気海洋研究所 海洋底科学部門)、岡田 誠(茨城大学理学部理学科)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/26 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[SGL22-P10] 漸新世ルペリアン期/チャッティアン期境界における年代と古海洋のレビュー

*松井 浩紀1 (1.秋田大学大学院 国際資源学研究科)

キーワード:漸新世

古第三紀漸新世(33.9 Maから23.03 Ma)はルペリアン期とチャッティアン期に区分され,その境界の年代値は27.82 Maである(国際年代層序表,v2022/10).Coccioni et al. (2018)によると,イタリアのMonte Cagnero(MCA)セクションが同境界のGSSP地点であり,2016年に承認された.また,GSSP層準は浮遊性有孔虫化石Chiloguembelina cubensisの終多産出層準と一致し,石灰質ナンノ化石帯NP24,渦鞭毛藻シスト化石帯Dbi,そしてクロンC9nに含まれる.MCAセクションには黒雲母に富む火山砕屑物の層が複数認められ,GSSP層準の上位と下位でそれぞれ放射年代が得られている.同セクションの帯磁率について地球の軌道要素とのチューニングが行われ,GSSP層準について上述の27.82 Maの年代が与えられている.
しかしながら,同じくCoccioni et al. (2018)によると,放射年代や軌道要素チューニングに不確実さが存在しており,異なるチューニングに基づく境界の年代値として27.41 Maも併記されている.また,GSSP層準がクロンC9nの下部に対比されることから,地磁気極性年代尺度において27.29 Maの境界年代値も与えられている(Speijer et al., 2020 in Gelogic Time Scale 2020).すなわちルペリアン期/チャッティアン期境界の年代値について,最大で約50万年のずれが生じており,注意が必要である.加えて,浮遊性有孔虫化石C. cubensisの終多産出層準(減少層準)は化石群集の相対頻度に基づく基準面であり,終産出層準(消滅)とは異なることに注意を要する(King and Wade, 2017).
古海洋の観点からは,ルペリアン期/チャッティアン期境界付近で寒冷化が生じており,底生有孔虫の酸素同位体比の急激な正のシフトを伴う(Pälike et al., 2006; Coccioni et al., 2018).また,同時期に赤道太平洋の浮遊性有孔虫化石Paragloborotalia opimaの殻サイズが増大し,生物生産の高まりが示唆されている(Wade et al., 2016).寒冷化や生物生産の高まりに応答して,クジラ類が多様化した可能性も指摘されている(Berger, 2007).しかし,始新世-漸新世境界や漸新世-中新世境界に生じた寒冷化に比較して,ルペリアン期/チャッティアン期境界付近の寒冷化の詳細は明らかでない.南極氷床の発達の規模や大気中の二酸化炭素分圧などについて,今後の研究が待たれている.