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[SGL22-P12] 北海道東部,阿寒カルデラ噴出物ボーリングコア中に認められたMatuyama-Brunhes逆転境界
キーワード:阿寒カルデラ、Matuyama-Brunhes逆転境界、定方位ボーリングコア
北海道東部の阿寒火山は,第四紀前期更新世のカラブリアン期から同中期チバニアン期にかけて100万年間以上の長期にわたって約40回の火砕噴火を繰り返し,大型の阿寒カルデラ(24 km x 13 km)を形成した(Hasegawa et al., 2022).約40回の噴火堆積物は,層序が連続し,かつマグマ組成が類似する17の噴火グループにまとめられる(上位から,Ak1~Ak17)(Hasegawa and Nakagawa, 2016).著者らは,古地磁気学的手法によって大規模火砕噴火の継続時間を定量的に見積もることを目的に,阿寒カルデラ南東方の鶴居村で掘削長100 mにおよぶ一連の阿寒カルデラ噴出物の定方位ボーリングコアを採取した(西来ほか,2022).今回,定方位コアからの一連の古地磁気分析の中で,Ak8~Ak9の層準において明瞭なMatuyama-Brunhes逆転境界を見出したので,その結果と意義について報告する.
本研究では、半裁した掘削長100 mの定方位コアから,特に細粒な粒子からなる火砕堆積物層および溶結凝灰岩層に着目し,計129層準から,コアピッカーおよび専用の治具・キューブを用いて精度よく定方位サンプリングを行った.それぞれのサンプル(ミニコア20個,アルミキューブ89個,プラスチックキューブ20個)について,約630°C(一部600℃)までの段階熱消磁および100mT程度までの段階交流消磁を行って,磁化方位を測定した.消磁曲線において,概ね原点へ向かって直線的に減衰する,連続した5段階以上の磁化ベクトル終端点に対して主成分解析を適用し,得られた方位のうち最大角分散15°未満のものを各試料の特徴的残留磁化方位とした.
測定の結果,定方位コアの掘削深度20.59 mと掘削深度21.30 mでそれぞれ採取した細粒火山灰層の間に,伏角が65.1°から-44.3°に変化する明瞭な地磁気逆転境界を見出した.層序・層相および含まれる軽石礫の岩石学的特徴から,掘削深度20.59 mはAk8,掘削深度21.30 mはAk9を構成する噴火堆積物に対比できる.既報の年代測定値や火山灰編年などにより,Ak8は0.76 Maより古く,Ak9は1.0 Maより新しいとされていることから(Hasegawa and Nakagawa, 2012),上記の間にMatuyama-Brunhes逆転境界が存在すると判断できる.今回の定方位コアから得られた地磁気逆転境界付近では,既報のMatuyama-Brunhes地磁気極性トランジションで認められる明瞭な前兆あるいはリバウンドを示すような古地磁気方位の変化は検出できなかった.逆転境界を挟む両火山灰層は,いずれも降下軽石層から連続的に漸移する火山灰層で,両噴火堆積物の間には不整合や再堆積物などは認められず層厚10 cmの火山灰質土壌層が介在するのみである.Ak8~Ak9の層準は,陸上の多数の露頭でもよく観察できるので,今後は,Matuyama-Brunhes地磁気極性トランジションにおける本質物質(噴出火山岩)の数値年代測定や高解像度の古地磁気測定(方位・強度)などを行うことで,Matuyama-Brunhes地磁気極性トランジションに関する新たな情報(例えば逆転に要した時間や絶対古地磁気地磁気強度の変化など)を取得できる可能性が考えられる.
本研究は原子力規制庁,茨城大学及び海洋研究開発機構の共同研究「大規模噴火現象の時間進展プロセスに関する研究」の一部として実施したものである.
本研究では、半裁した掘削長100 mの定方位コアから,特に細粒な粒子からなる火砕堆積物層および溶結凝灰岩層に着目し,計129層準から,コアピッカーおよび専用の治具・キューブを用いて精度よく定方位サンプリングを行った.それぞれのサンプル(ミニコア20個,アルミキューブ89個,プラスチックキューブ20個)について,約630°C(一部600℃)までの段階熱消磁および100mT程度までの段階交流消磁を行って,磁化方位を測定した.消磁曲線において,概ね原点へ向かって直線的に減衰する,連続した5段階以上の磁化ベクトル終端点に対して主成分解析を適用し,得られた方位のうち最大角分散15°未満のものを各試料の特徴的残留磁化方位とした.
測定の結果,定方位コアの掘削深度20.59 mと掘削深度21.30 mでそれぞれ採取した細粒火山灰層の間に,伏角が65.1°から-44.3°に変化する明瞭な地磁気逆転境界を見出した.層序・層相および含まれる軽石礫の岩石学的特徴から,掘削深度20.59 mはAk8,掘削深度21.30 mはAk9を構成する噴火堆積物に対比できる.既報の年代測定値や火山灰編年などにより,Ak8は0.76 Maより古く,Ak9は1.0 Maより新しいとされていることから(Hasegawa and Nakagawa, 2012),上記の間にMatuyama-Brunhes逆転境界が存在すると判断できる.今回の定方位コアから得られた地磁気逆転境界付近では,既報のMatuyama-Brunhes地磁気極性トランジションで認められる明瞭な前兆あるいはリバウンドを示すような古地磁気方位の変化は検出できなかった.逆転境界を挟む両火山灰層は,いずれも降下軽石層から連続的に漸移する火山灰層で,両噴火堆積物の間には不整合や再堆積物などは認められず層厚10 cmの火山灰質土壌層が介在するのみである.Ak8~Ak9の層準は,陸上の多数の露頭でもよく観察できるので,今後は,Matuyama-Brunhes地磁気極性トランジションにおける本質物質(噴出火山岩)の数値年代測定や高解像度の古地磁気測定(方位・強度)などを行うことで,Matuyama-Brunhes地磁気極性トランジションに関する新たな情報(例えば逆転に要した時間や絶対古地磁気地磁気強度の変化など)を取得できる可能性が考えられる.
本研究は原子力規制庁,茨城大学及び海洋研究開発機構の共同研究「大規模噴火現象の時間進展プロセスに関する研究」の一部として実施したものである.