14:00 〜 14:15
[SSS06-12] 入力仕事率に依存する石英質砂岩の摩擦・摩耗特性
★招待講演
断層を構成する岩石の摩擦特性は断層のすべり挙動をコントロールする一要素であり,地震発生機構の理解に欠かせない情報である.また,岩石の摩耗率は地震に伴う断層コアの成長速度に影響を与えることから,地震の発生履歴を精度良く推定するための指標となる.これらの理由により,岩石の摩擦・摩耗特性を明らかにするための実験研究が盛んに行われてきた(e.g., Di Toro et al., 2011; Hirose et al., 2012; Boneh et al., 2013).しかし,日本列島を構成する主要岩石の1つである砂岩の摩擦・摩耗特性に関しては未だに不明な点が多く,室内実験による解明が現在も進められている.著者らは砂岩の中でも地殻の主要構成鉱物である石英を多く含む石英質砂岩を対象とした回転剪断摩擦実験を行い,その特性についての調査を行ってきた.本講演では石英質砂岩を用いた回転剪断摩擦実験について,これまでの調査結果に加え,走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた剪断面の微細構造観察を踏まえながら,その摩擦・摩耗特性についての議論を行う.
本研究では防災科学技術研究所が保有するサーボ式高速剪断摩擦試験機(Mizoguchi and Fukuyama, 2010; Yamashita et al., 2014)を使用した.調査対象はインドラジャスタン州カラウリで採取された砂岩で,基質量からアレナイトと分類される.実験条件は室温条件下において法線応力が0.5–1.5 MPa,すべり速度が1.2×10-3–1.7×10-1 m/sの範囲で,それぞれの組み合わせごとに約200–300 mの距離をすべらせた.実験中は法線応力,剪断応力,すべり速度,温度,軸方向の変位を記録した.温度データは赤外放射温度計(KEYENCE IT2-02, IT2-50)を用いて岩石試料側面の剪断面近傍を計測した.また,摩耗率の推定を行うために実験後に回収した摩耗物の質量を計量した.
実験後に剪断面を目視で観察した結果,入力仕事率(法線応力とすべり速度の積)の増加に伴い,1)剪断面全体に鏡面が発達,2)鏡面の一部が破壊,3)剪断面全体に摩耗痕が発達,4)摩耗痕と鏡面の両構造が発達,と剪断面の状態が4つのフェーズに遷移した(前田・他, 2021, SSJ).また,入力仕事率が0.06MW/m2以下(フェーズ1)では,入力仕事率の増加に伴い平均摩擦係数が低下し,ガウジもほぼ生成されなかったのに対し,入力仕事率が0.06MW/m2以上(フェーズ2以降)では摩擦係数と摩耗率が入力仕事率に対し正の相関を示した(前田・他, 2022, SSJ).
このような石英質砂岩の入力仕事率に対する摩擦・摩耗特性の急激な転換機構を明らかにするために,SEMを用いて実験後の剪断面の微細構造を観察した.その結果,フェーズ1ではナノ粒子の生成およびそれに伴う空隙の充填,そしてナノ粒子の凝集による面構造の形成が見られた.そしてフェーズ2以降では面構造の破壊によるマイクロサイズの角張った粒子の生成が,フェーズ4以降ではナノスケールの溶融が開始していることが明らかとなった.また,フェーズ1と2の境界では,計測温度の最大値と平均値はおおむね100℃および80℃であった.
この剪断面近傍の温度計測と微細構造の観察結果から,フェーズ1における入力仕事率に対する摩擦係数の弱化機構および極めて低い摩耗率は,ナノ粒子およびシリカゲルによる潤滑の可能性が示唆された.一方で,フェーズ2以降における摩擦強化機構および摩耗率の増加は,剪断面近傍の温度が少なくとも80℃を上回っていたことと実験後の剪断面に溶融構造が見られたことから,石英の熱膨張によるクラックの生成および初期の溶融に起因すると考えられる.
本研究で確認された摩擦・摩耗現象が石英質砂岩内に発達する自然断層で発生した場合,剪断面に鏡面が発達している状態では,断層のすべり量が数百mに達しても断層コアは成長せず,鏡面の破壊開始とともに断層コアが急成長することが予想される.また,本実験でフェーズ1から2以降に遷移する際の摩擦弱化および摩擦強度の回復が入力仕事率に応じて連続的に生じるならば,フェーズ2以降ではすべりの成長を抑制する可能性があるといえる.本研究で行った入力仕事率に対する平均摩擦係数や摩耗率の変化は定常的な摩擦・摩耗特性の一例として今後石英質砂岩のすべり挙動や断層コアの成長様式に関して貢献することが期待される.
本研究では防災科学技術研究所が保有するサーボ式高速剪断摩擦試験機(Mizoguchi and Fukuyama, 2010; Yamashita et al., 2014)を使用した.調査対象はインドラジャスタン州カラウリで採取された砂岩で,基質量からアレナイトと分類される.実験条件は室温条件下において法線応力が0.5–1.5 MPa,すべり速度が1.2×10-3–1.7×10-1 m/sの範囲で,それぞれの組み合わせごとに約200–300 mの距離をすべらせた.実験中は法線応力,剪断応力,すべり速度,温度,軸方向の変位を記録した.温度データは赤外放射温度計(KEYENCE IT2-02, IT2-50)を用いて岩石試料側面の剪断面近傍を計測した.また,摩耗率の推定を行うために実験後に回収した摩耗物の質量を計量した.
実験後に剪断面を目視で観察した結果,入力仕事率(法線応力とすべり速度の積)の増加に伴い,1)剪断面全体に鏡面が発達,2)鏡面の一部が破壊,3)剪断面全体に摩耗痕が発達,4)摩耗痕と鏡面の両構造が発達,と剪断面の状態が4つのフェーズに遷移した(前田・他, 2021, SSJ).また,入力仕事率が0.06MW/m2以下(フェーズ1)では,入力仕事率の増加に伴い平均摩擦係数が低下し,ガウジもほぼ生成されなかったのに対し,入力仕事率が0.06MW/m2以上(フェーズ2以降)では摩擦係数と摩耗率が入力仕事率に対し正の相関を示した(前田・他, 2022, SSJ).
このような石英質砂岩の入力仕事率に対する摩擦・摩耗特性の急激な転換機構を明らかにするために,SEMを用いて実験後の剪断面の微細構造を観察した.その結果,フェーズ1ではナノ粒子の生成およびそれに伴う空隙の充填,そしてナノ粒子の凝集による面構造の形成が見られた.そしてフェーズ2以降では面構造の破壊によるマイクロサイズの角張った粒子の生成が,フェーズ4以降ではナノスケールの溶融が開始していることが明らかとなった.また,フェーズ1と2の境界では,計測温度の最大値と平均値はおおむね100℃および80℃であった.
この剪断面近傍の温度計測と微細構造の観察結果から,フェーズ1における入力仕事率に対する摩擦係数の弱化機構および極めて低い摩耗率は,ナノ粒子およびシリカゲルによる潤滑の可能性が示唆された.一方で,フェーズ2以降における摩擦強化機構および摩耗率の増加は,剪断面近傍の温度が少なくとも80℃を上回っていたことと実験後の剪断面に溶融構造が見られたことから,石英の熱膨張によるクラックの生成および初期の溶融に起因すると考えられる.
本研究で確認された摩擦・摩耗現象が石英質砂岩内に発達する自然断層で発生した場合,剪断面に鏡面が発達している状態では,断層のすべり量が数百mに達しても断層コアは成長せず,鏡面の破壊開始とともに断層コアが急成長することが予想される.また,本実験でフェーズ1から2以降に遷移する際の摩擦弱化および摩擦強度の回復が入力仕事率に応じて連続的に生じるならば,フェーズ2以降ではすべりの成長を抑制する可能性があるといえる.本研究で行った入力仕事率に対する平均摩擦係数や摩耗率の変化は定常的な摩擦・摩耗特性の一例として今後石英質砂岩のすべり挙動や断層コアの成長様式に関して貢献することが期待される.