日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS06] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2023年5月23日(火) 13:45 〜 15:00 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:澤井 みち代(千葉大学)、金木 俊也(産業技術総合研究所)、奥脇 亮(筑波大学)、浦田 優美(産業技術総合研究所)、座長:澤井 みち代(千葉大学)、奥脇 亮(筑波大学)


14:30 〜 14:45

[SSS06-14] The brittle-plastic transition of simulated quartz shear zone : insight from microstructual observation

*宮副 真夢1,2岡崎 啓史1,2サルカール デュティ1 (1.広島大学、2.海洋研究開発機構高知コア研究所)


キーワード:脆性-塑性遷移領域、微細構造、断層レオロジー、剪断実験

断層における岩石の変形機構は,深さ(温度・封圧)により異なる.浅部は低温であるため,地震を伴う脆性変形が卓越する.脆性変形領域では,せん断強度はByerleeの法則に従い,深くなるほど封圧の増加により大きくなる.一方で,深部では温度が上昇することにより,地震を伴わない塑性変形が卓越する.塑性変形領域ではせん断強度は流動則に従い,温度が高いほど小さくなる.この変形機構の入れ替わりが脆性-塑性遷移である.脆性-塑性遷移が起こる深さ領域(脆性-塑性遷移領域)は脆性領域の下限部にあたり,せん断強度が高くなるため,しばしば巨大地震の震源となる.しかし,巨大地震が発生する脆性-塑性遷移領域における岩石の変形メカニズムはよくわかっていない.そのため,これまでにも様々なモデルが提案されているが,その多くが実験の力学データや数値計算によるものであり,微細組織が脆性-塑性遷移によりどのように移り変わっていくのかについて系統的に調べられていない.そこで,本研究では脆性-塑性遷移領域の条件下でせん断実験を行い,回収試料の微細構造から脆性変形によるせん断歪量と塑性変形によるせん断歪の割合の変化を見積もり,既存モデルとの比較を行った.
せん断実験はGriggs型固体圧式高温高圧三軸変形試験機(Griggs型試験機)を用いて行い,試料には地殻内の断層や沈み込み帯プレート境界を想定し,大陸地殻および海洋堆積物の主要鉱物である石英多結晶体を用いた.実験条件は封圧1000 MPa,せん断歪速度2.5*10-4 /sの一定条件にして,温度条件を石英の脆性-塑性遷移領域を含むとされる400-1000 ℃の範囲とした.実験中には力学データを測定し,回収した試料は薄片に加工し,微細組織をEBSDと自作の画像解析プログラムを用いて解析した.解析では粒子の長軸方向の角度,アスペクト比を測定し,このデータからReinen(1992)とNoda(2021)のモデルをそれぞれ用いて塑性せん変形による歪量と脆性変形によるせん歪量を算出した.
微細組織からの計算の結果,地殻の構成鉱物を用いて,温度変化による脆性-塑性遷移の割合の変化を連続的に再現することに成功した.また,力学データでは400-700 ℃でByerleeの法則に従う脆性強度を,800 -1000 ℃で流動則に従う塑性強度を示し,脆性-塑性遷移領域は700-800℃であると考えられる.これはNoda and Shimamoto (2014)で提案された脆性-塑性遷移領域の構成則よりも温度範囲が狭く,せん断強度が高い結果となった.一方で,微細組織から求められた脆性変形と塑性変形の割合は,Reinen(1992)とNoda(2021)のモデルで計算結果の差はあるものの,どちらのモデルにおいても400-1000 ℃の間では完全に遷移が完了せず,力学データよりも広い温度範囲で脆性-塑性遷移領域をとり,1000 ℃でも脆性変形が起きている結果となった.また,微細組織から分析結果と力学データとの間には,脆性-塑性遷移領域の温度範囲の広さに大きな違いが見られた..このことから,微細組織の分析に比べて,力学データだけでは脆性-塑性遷移領域を詳細に再現できない可能性がある.また,脆性変形はより深くで,塑性変形はより浅い領域で起こっていることから現在考えられている地震発生帯は変動する可能性がある.これを明らかにするためには,今後脆性-塑性遷移領域でのせん断強度の速度依存性調べる必要がある.