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[SVC31-11] 2016年熊本地震後に続く阿蘇カルデラ内の沈降は火山起源か? -粘性変形、余効すべり、火山性地殻変動の検討-
キーワード:地殻変動、2016年熊本地震、阿蘇山
1.はじめに
阿蘇山は、2021年10月にも噴火をするなど、常時活動が活発な火山である。その長期的な活動予測のためには、地殻変動を通じてマグマだまりの体積変化を継続的にモニターすることが有効である。しかしながら、2016年熊本地震の後、阿蘇山を含む九州の広い地域において地震の余効変動(粘性変形、余効すべり)が見られ、火山性地殻変動の評価が困難になっている。
2016年熊本地震の後、阿蘇カルデラ内では顕著な沈降が続いた。この沈降は阿蘇山のマグマだまりの収縮を意味しているのだろうか。それとも沈降の主な原因は地震後の余効変動であり、マグマだまりの体積には大きな変化がないのであろうか?阿蘇山の長期的な活動予測に直結するこの問題を明らかにするため、本研究では、2016年熊本地震の余効変動とマグマだまりの体積変化を定量的に評価し、沈降の原因を明らかにすることを試みる。
2.手法
まず、電子基準点で観測された地殻変動データについて、2012年1月から2016年3月のデータから線形速度を推定し、テクトニックな変動として補正した。なお、阿蘇山の周辺の観測点については、空間の5次関数を用い、周囲の観測点の線形速度から内挿して補正した。
2016年熊本地震の余効変動のうち、粘性緩和については、Pollitz (2017)の二次元モデルを用いて補正した。粘性変形の計算にはVisco2.5D(Pollitz et al., 2014)を用いた。次に、補正後の地殻変動データを用い、余効すべりとマグマだまりの体積変化の同時推定を行った。余効すべりについては、熊本地震の地震断層(Kobayashi et al., 2023)のうち、滑り量の大きかった5枚の断層(阿蘇カルデラ内の2枚を含む)を選定し、断層の拡大面を小断層で離散化した上で、それぞれの小断層における余効すべりを推定した。また、マグマだまりを先行研究(e.g. Nobile et al., 2017)に従って草千里が浜の北部、深さ約4kmに設定し、体積変化を推定した。
3.結果
図1に、阿蘇カルデラ内の2枚の断層面における余効すべりの分布を示す。両者ともに、深さ4km~8kmあたりで正断層性のすべりが推定されている。図2に阿蘇カルデラ内の観測点における地殻変動時系列を示す。地震直後から継続的に沈降が観測されているが、その主な要因は余効すべりであることがわかった。図3にマグマだまりの体積変化を示す。2016年熊本地震をはさんでマグマだまりの体積変化に大きな傾向の違いは見られないこと、2015-2016、2019、2021年の火山活動の高まりに対応して、マグマだまりの体積増加が見られることなどが明らかになった。
4. 結論
2016年熊本地震後に阿蘇カルデラ内で見られた顕著な沈降の原因を明らかにするため、地震に伴う粘性変形を補正した上で、余効すべりとマグマだまりの体積変化の同時推定を行った。その結果、顕著な沈降は阿蘇カルデラ内の断層面の余効すべりによるものであり、マグマだまりの体積変化には地震をはさんで大きな傾向の違いが見られないことが分かった。
引用文献:
Nobile, A. et al (2017) Bull. Volcanol., 79, 32, https://doi.org/doi:10.1007/s00445-017-1112-1
Kobayashi et al. (2023) under review.
Pollitz (2014), F., Post-earthquake relaxation using a spectral element method: 2.5-D case, Geophys. J. Int., doi: 10.1093/gji/ggu114 .
Pollitz, F. et al. (2017) Geophys. Res. Lett., 44. 8795—8803, https://doi.org/10.1002/2017GL074783
阿蘇山は、2021年10月にも噴火をするなど、常時活動が活発な火山である。その長期的な活動予測のためには、地殻変動を通じてマグマだまりの体積変化を継続的にモニターすることが有効である。しかしながら、2016年熊本地震の後、阿蘇山を含む九州の広い地域において地震の余効変動(粘性変形、余効すべり)が見られ、火山性地殻変動の評価が困難になっている。
2016年熊本地震の後、阿蘇カルデラ内では顕著な沈降が続いた。この沈降は阿蘇山のマグマだまりの収縮を意味しているのだろうか。それとも沈降の主な原因は地震後の余効変動であり、マグマだまりの体積には大きな変化がないのであろうか?阿蘇山の長期的な活動予測に直結するこの問題を明らかにするため、本研究では、2016年熊本地震の余効変動とマグマだまりの体積変化を定量的に評価し、沈降の原因を明らかにすることを試みる。
2.手法
まず、電子基準点で観測された地殻変動データについて、2012年1月から2016年3月のデータから線形速度を推定し、テクトニックな変動として補正した。なお、阿蘇山の周辺の観測点については、空間の5次関数を用い、周囲の観測点の線形速度から内挿して補正した。
2016年熊本地震の余効変動のうち、粘性緩和については、Pollitz (2017)の二次元モデルを用いて補正した。粘性変形の計算にはVisco2.5D(Pollitz et al., 2014)を用いた。次に、補正後の地殻変動データを用い、余効すべりとマグマだまりの体積変化の同時推定を行った。余効すべりについては、熊本地震の地震断層(Kobayashi et al., 2023)のうち、滑り量の大きかった5枚の断層(阿蘇カルデラ内の2枚を含む)を選定し、断層の拡大面を小断層で離散化した上で、それぞれの小断層における余効すべりを推定した。また、マグマだまりを先行研究(e.g. Nobile et al., 2017)に従って草千里が浜の北部、深さ約4kmに設定し、体積変化を推定した。
3.結果
図1に、阿蘇カルデラ内の2枚の断層面における余効すべりの分布を示す。両者ともに、深さ4km~8kmあたりで正断層性のすべりが推定されている。図2に阿蘇カルデラ内の観測点における地殻変動時系列を示す。地震直後から継続的に沈降が観測されているが、その主な要因は余効すべりであることがわかった。図3にマグマだまりの体積変化を示す。2016年熊本地震をはさんでマグマだまりの体積変化に大きな傾向の違いは見られないこと、2015-2016、2019、2021年の火山活動の高まりに対応して、マグマだまりの体積増加が見られることなどが明らかになった。
4. 結論
2016年熊本地震後に阿蘇カルデラ内で見られた顕著な沈降の原因を明らかにするため、地震に伴う粘性変形を補正した上で、余効すべりとマグマだまりの体積変化の同時推定を行った。その結果、顕著な沈降は阿蘇カルデラ内の断層面の余効すべりによるものであり、マグマだまりの体積変化には地震をはさんで大きな傾向の違いが見られないことが分かった。
引用文献:
Nobile, A. et al (2017) Bull. Volcanol., 79, 32, https://doi.org/doi:10.1007/s00445-017-1112-1
Kobayashi et al. (2023) under review.
Pollitz (2014), F., Post-earthquake relaxation using a spectral element method: 2.5-D case, Geophys. J. Int., doi: 10.1093/gji/ggu114 .
Pollitz, F. et al. (2017) Geophys. Res. Lett., 44. 8795—8803, https://doi.org/10.1002/2017GL074783