10:45 〜 11:00
[SVC33-07] 気象庁マルチガスデータのリアルタイム補正と火山監視・評価への活用
キーワード:マルチガス、リアルタイム補正、ガスb値、吾妻山、草津白根山
はじめに
気象庁では、2015年以降、国内の4火山において、多成分火山ガス連続観測装置(以降、マルチガスと呼ぶ)を設置し(気象庁地震火山部火山課,2022)、火山ガスの濃度を観測している。この連続観測テレメータ観測システムは、プロトタイプの可搬型 Multi-GAS システム(Shonohara et al., 2005)から改良されたものである。
センサーの感度変化に対する補正手法の課題
マルチガスでは定電位電解式が用いられているガスセンサーがあり、使用を続けることで電圧感度の低下が生じ、特に硫化水素ではその変化量が大きい。これを解決するため、年に2回のセンサーの交換を行い、使用期間の前と後で校正を行い、使用期間中の感度変化率が一定であると仮定して、線形補正を行う手法を試みた(北川・他,2022)。しかし、この手法では校正を行うまで監視に利用できないため、リアルタイム補正手法の開発が望まれた。
リアルタイム補正手法の開発
リアルタイム補正を実現するためには、センサーの長期的連続的なガス曝露における特性を十分に把握する必要があった。このため、曝露ガス濃度と湿度の多様な条件下でセンサーを人工的に曝露させる実験を行い、センサーの感度変化の時間的な挙動を把握した。曝露実験の組み合わせは、硫化水素曝露濃度を0、5、10、15ppm、混合水蒸気濃度を0.5、1.0、1.5、2.0%(室温21度で湿度約10、30、50、80%に相当)の16通りで、硫化水素センサーを概ね120時間曝露させた。その結果、いずれの感度変化も曝露時間に依存した指数関数的な変化を示した。加えて、曝露濃度が高いほど、もしくは乾いた状態ほど感度は早く低下した。これらの曝露濃度依存性と湿度依存性は、指数関数に近似され、関数の係数は最小二乗法で決定され、曝露時間、曝露ガス濃度、湿度を変数とする感度変化関数でモデル化した。このモデル関数により、観測データを用いて逐次感度変化を計算することが可能となり、リアルタイム補正手法の開発が実現した。本手法を一連の観測データに適用したところ、センサー交換時のギャップはほぼ解消されたことを確認し、リアルタイム監視を行う見込みがたった。
火山活動の新たな監視・評価手法の可能性
連続的な火山ガス濃度データを利用することにより、これまでになかった新たな監視・評価の技術開発の可能性ある。
・多成分の濃度比による熱水系の理解を踏まえた火山活動評価
2種の火山ガスの濃度比に限らず、多種の濃度比を用いることで、火山活動の理解を行いながら活動評価が可能なことがある。3種のガス成分(CO2、H2S、SO2)の濃度割合を三角ダイアグラム(Stix and de Moor, 2018)に表現することで、火山活動がマグマ性か熱水性かを相対的に理解できる可能性がある。講演では2019年の吾妻山の活動の事例を示す。
・検知濃度別の頻度分布に基づくガスb値による活動評価手法案
マルチガスで観測されるガスは、風に流されてくるものなので、比較的低濃度である。しかし、毎秒得られる濃度の積算頻度分布から頻度勾配を解析することで、現在の活動は高濃度ガスの放出率が卓越している時期なのかそうでないのかを知る可能性がある。これは地震活動の評価指標として用いられるb値に似たものであるため、ここではガスb値とよぶ。この考え方に基づき、近年の草津白根山の事例を示す。
気象庁では、2015年以降、国内の4火山において、多成分火山ガス連続観測装置(以降、マルチガスと呼ぶ)を設置し(気象庁地震火山部火山課,2022)、火山ガスの濃度を観測している。この連続観測テレメータ観測システムは、プロトタイプの可搬型 Multi-GAS システム(Shonohara et al., 2005)から改良されたものである。
センサーの感度変化に対する補正手法の課題
マルチガスでは定電位電解式が用いられているガスセンサーがあり、使用を続けることで電圧感度の低下が生じ、特に硫化水素ではその変化量が大きい。これを解決するため、年に2回のセンサーの交換を行い、使用期間の前と後で校正を行い、使用期間中の感度変化率が一定であると仮定して、線形補正を行う手法を試みた(北川・他,2022)。しかし、この手法では校正を行うまで監視に利用できないため、リアルタイム補正手法の開発が望まれた。
リアルタイム補正手法の開発
リアルタイム補正を実現するためには、センサーの長期的連続的なガス曝露における特性を十分に把握する必要があった。このため、曝露ガス濃度と湿度の多様な条件下でセンサーを人工的に曝露させる実験を行い、センサーの感度変化の時間的な挙動を把握した。曝露実験の組み合わせは、硫化水素曝露濃度を0、5、10、15ppm、混合水蒸気濃度を0.5、1.0、1.5、2.0%(室温21度で湿度約10、30、50、80%に相当)の16通りで、硫化水素センサーを概ね120時間曝露させた。その結果、いずれの感度変化も曝露時間に依存した指数関数的な変化を示した。加えて、曝露濃度が高いほど、もしくは乾いた状態ほど感度は早く低下した。これらの曝露濃度依存性と湿度依存性は、指数関数に近似され、関数の係数は最小二乗法で決定され、曝露時間、曝露ガス濃度、湿度を変数とする感度変化関数でモデル化した。このモデル関数により、観測データを用いて逐次感度変化を計算することが可能となり、リアルタイム補正手法の開発が実現した。本手法を一連の観測データに適用したところ、センサー交換時のギャップはほぼ解消されたことを確認し、リアルタイム監視を行う見込みがたった。
火山活動の新たな監視・評価手法の可能性
連続的な火山ガス濃度データを利用することにより、これまでになかった新たな監視・評価の技術開発の可能性ある。
・多成分の濃度比による熱水系の理解を踏まえた火山活動評価
2種の火山ガスの濃度比に限らず、多種の濃度比を用いることで、火山活動の理解を行いながら活動評価が可能なことがある。3種のガス成分(CO2、H2S、SO2)の濃度割合を三角ダイアグラム(Stix and de Moor, 2018)に表現することで、火山活動がマグマ性か熱水性かを相対的に理解できる可能性がある。講演では2019年の吾妻山の活動の事例を示す。
・検知濃度別の頻度分布に基づくガスb値による活動評価手法案
マルチガスで観測されるガスは、風に流されてくるものなので、比較的低濃度である。しかし、毎秒得られる濃度の積算頻度分布から頻度勾配を解析することで、現在の活動は高濃度ガスの放出率が卓越している時期なのかそうでないのかを知る可能性がある。これは地震活動の評価指標として用いられるb値に似たものであるため、ここではガスb値とよぶ。この考え方に基づき、近年の草津白根山の事例を示す。