日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC33] 火山の監視と活動評価

2023年5月26日(金) 10:45 〜 12:00 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:高木 朗充(気象庁気象研究所)、宗包 浩志(国土地理院)、大湊 隆雄(東京大学地震研究所)、座長:高木 朗充(気象庁気象研究所)、寺田 暁彦(東京工業大学火山流体研究センター)

11:15 〜 11:30

[SVC33-09] 有珠山の噴火警戒レベル判定基準改善の取り組み

*不破 智志1、宮村 淳一1 (1.気象庁 札幌管区気象台)

キーワード:火山監視、噴火警戒レベル、前兆地震、地震波エネルギー放出率

有珠山は1663年以降、数十年間隔で噴火を繰り返している、北海道内で最も活動的な火山の一つである。噴火直前に激しい有感地震活動及び顕著な地殻変動を伴う特徴があり、地元では明瞭な前兆現象を活用した早期の避難行動を防災対策の柱としている。気象庁は2008年に有珠山に対して噴火警戒レベルの運用を開始した。2020年3月に公表した現行の判定基準は、過去の噴火事例における前兆現象の時間的推移に基づき、主に地震回数による設定となっている。今回は物理観測データを用いた判定基準定量化の取り組みについて報告する。
 不破・宮村(2022)は、井口・他(2019)による桜島のマグマ貫入速度に基づく噴火事象分岐論理を有珠山の1977年噴火以降の事例に適用した。彼らはマグマが深さ数kmの浅部マグマだまりから山頂火口原に向かって深さ2km前後まで上昇する噴火前兆初期段階におけるマグマ貫入速度が噴火事象(山頂噴火・山麓噴火・噴火未遂)によって異なることを明らかにした。この結果を活用して有珠山の噴火警戒レベル判定基準の定量化を試みる。
 火山監視の現場においては、地殻変動データによるマグマ貫入量のリアルタイム推定が技術的に困難なことから、不破・宮村(2022)による地殻変動データ等から推定したマグマ貫入量と前兆地震の地震波エネルギー積算値との相関関係を参考に、地震波エネルギー放出率を定量的指標として活用することを考えた。地震振幅データが活用可能な噴火2事例(1977年噴火、2000年噴火)及び地震増加3事例(2010年・2015年・2021年)の合計5事例について、地震活動(噴火2事例では前兆初期段階)の地震波エネルギー放出率(前2時間の地震波エネルギー放出量を1日あたりに換算)を推定し、それらの時間発展を比較検討した。その結果、地震増加が始まって最短で噴火発生に至った1977年噴火事例では地震波エネルギー放出率が最も大きく、それよりも遅いペースで活動が進行した2000年噴火事例の地震波エネルギー放出率はそれよりも2桁小さいことが分かった。また、噴火発生に至らなかった2021年などの地震増加3事例では地震波エネルギー放出率がさらに小さかった。
 以上の結果から、地震波エネルギー放出率と噴火事象の経験則を現行のレベル4(噴火発生の可能性の高まり)及びレベル5(噴火の切迫)の判定項目に追加し、現行の判定項目を含めた複数項目のうちいずれかひとつが基準に達した場合は即座にレベル引上げを行うこととする。このほか、レベル4及び5の現行判定項目「体に感じる地震」の検出を補強するためのマグニチュードの活用ならびにレベル4の現行判定項目「膨張性の地殻変動」の検出に傾斜計記録の活用についても検討する。