日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC35] 次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト

2023年5月23日(火) 13:45 〜 14:45 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:中川 光弘(北海道大学大学院理学研究院自然史科学部門地球惑星システム科学講座)、上田 英樹(防災科学技術研究所)、大湊 隆雄(東京大学地震研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、座長:西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

14:00 〜 14:15

[SVC35-06] モニタリングとシミュレーションによる火山灰ハザードの予測

*井口 正人1中道 治久1為栗 健1瀧下 恒星1、Poulidis Alexandros5竹見 哲也1、山路 昭彦1丸山 敬1真木 雅之1石井 杏佳1田中 博2太田 雄策3清水 厚4 (1.京都大学防災研究所、2.筑波大学、3.東北大学、4.環境研究所、5.ブレーメン大学)

キーワード:火山灰、桜島、ブルカノ式噴火

桜島火山では1955年以降、南岳の山頂火口あるいはその東の昭和火口の山頂域においてブルカノ式噴火が繰り返されている。また、ストロンボリ式噴火や連続噴火の発生も見られる。これらの噴火様式は火山灰の放出を主体とする噴火活動であり、1970年代から1990年代初頭には年間1000万トンを超える火山灰が放出された。桜島の周辺においては降灰による被害が発生し、農業被害額は年間50億~90億円に達した。また、交通インフラへの影響は道路、鉄道、航空路に及んだ。このような、火山灰ハザードを評価するために、モニタリングとシミュレーションを結合させることによって降灰量を予測する研究を行った。
1)降灰観測の自動化
従来は、噴火のたびに現地において降灰採取による降灰量の観測を行っていたが、桜島の様に噴火の頻度が高く、長期化する噴火活動では降灰採取による降灰量の把握は現実出来ではない。火山灰粒子の粒径と落下速度を同時に計測できるディスドロメータを桜島に21台設置し、降灰観測を行った。採取により得られた降灰量と比較することにより、ディスドロメータにより観測される粒径・落下速度毎の粒子数から降灰量を求める経験式を得た。
2)リモートセンシングによる火山灰観測
噴煙を検知するリモートセンシング観測手法として、レーダ、光学ライダー、GNSSを用いた。ライダーは波長532nmと1064nmのレーザー光を発射し、エアロゾルの後方散乱を観測するものである。ライダーにより、目視できないような希薄な噴煙も捉えられた。レーダにはXバンドMPレーダーを用いた。レーダを南九州の霧島、桜島(2か所)、薩摩硫黄島、口永良部島、諏訪之瀬島に設置した。薩摩硫黄島を除くすべての火山において噴火に伴う噴煙を捉えることに成功した。XMPレーダの最大のメリットは、山頂が冠雲状態で噴煙を目視できない時でも噴煙を可視化できることにある。また、レーダは噴煙の移流・拡散過程をリアルタイムでモニタリングできる。噴煙の反射強度と降灰量の間の経験式、および噴煙の粒径分布の理論式を得た。レーダによる噴煙の移流・拡散と噴煙の反射強度と降灰量の間の式を使うことによりナウキャスト的に降灰を把握することができる。さらに、船舶レーダは噴煙の動態を高時間分解能で観測することを可能とした。GNSS観測と解析により得られる搬送波位相遅延量の空間分布は濃度の高い噴煙に対して有効であった。
3)火山灰拡散予測の高速化
降灰の重量分布は、主に火山灰放出量と風速場によって決定される。このうち、気象場については世界の気象官署から予測値を含めて公開されている。一方、火山灰放出量については、リアルタイムで得ることは難しかったが、桜島の昭和火口および南岳噴火に伴う火山性微動(2-3Hz)の振幅と地盤変動から得られる圧力源の体積変化量の線形結合から火山灰放出率を求める経験式を得た。経験式から得られた噴出率の1/4乗の上限は噴煙高度に比例し、Morton et al. (1956)などと整合的であるので、噴出率から噴煙高度を求めることができる。これらを初期条件としてPUFFをシミュレーションエンジンとしてリアルタイムで降灰を予測するシステムを開発した。
4)火山灰拡散予測の高精度化
1955年以降桜島において発生しているブルカノ式噴火のような小規模噴火では、火山周辺の風速場の複雑さの火山灰の移流に与える影響が顕著である。このような複雑さは気象官署から発表されている風速場では、十分再現できない。そこで、WRFを用いて風速場を水平空間分解能において100mのオーダーまで高解像度化した。得られた風速場は、火山体を迂回する風や、山頂を超えた風下側の下降流をうまく再現できる。また、風速場はドローンによるその場観測やドップラーライダー風速計によっても確認されつつある。高解像度化された風速場に基づいて、FALL3Dを用いた計算では、降灰分布の再現性が向上した。
5)火山灰拡散予測のためのオンラインシステム
桜島においては、従来、瞬間的に噴煙を放出するブルカノ式噴火の発生が注目されてきたが、ブルカノ式噴火後にも火山灰が長時間にわたり噴出することもあること、爆発的ではないものの数時間以上にわたり火山灰を放出する連続噴火はより多量の火山灰の放出することから、火山灰の移流・拡散・降下の予測には、火山灰の噴出率を連続量として取り扱い、火山灰の移流・拡散・降下のシミュレータを連続的に稼働するシステムを構築した。シミュレーションエンジンにはFALL3Dを用いた。火山灰噴出率については3)の手法を用いた。風速場については4)に記述した手法により高解像度化された風速場データベースを作成し、気象官署から発表される風速場と類似したものをデータベースから抽出した。
6)噴火発生前の確率的降灰予測
桜島の昭和火口および南岳においては頻繁にブルカノ式噴火が発生し、それに前駆して膨張ひずみが観測される。膨張ひずみの継続時間及び膨張量は、その後に発生する噴火の発生時刻と規模に関する予測を統計的に可能とするものである。膨張ひずみの継続時間及び膨張量の頻度分布はlog-logistic分布で近似可能である。log-logistic分布に基づいて、噴火の発生時刻と火山灰噴出量を確率的に与え、5)に記載したオンラインシミュレータに組み込めば、リアルタイムで確率的降灰分布を噴火発生前に求めることができる。
7)噴出物落下の影響評価
衝突実験により、火山灰よりも粒径の大きいレキについて屋根・ガラスなどへの影響を評価した。破壊が起きる衝突速度とレキの重量の関係が明らかになるとともに、軽石と緻密な溶岩片では破壊させる衝突速度に大きな違いがあった。
これらの一連の研究は火山観測から降灰ハザードのリアルタイム評価とそのリスク評価を可能とするものである。