15:30 〜 15:53
[U09-04] 持続可能性から共生へ−生物科学分野の取り組み−
★招待講演
キーワード:生物多様性、自然史、博物館、国際生物科学連合
科学は人類発展の基盤であることに疑いはない。また、人類がこれまで達成してきた進歩に貢献してきた技術は科学の賜物であって、それが現在の経済成長を支えている。しかし、人口増加、エネルギー源の枯渇、食料問題、温暖化などの環境問題が深刻化したことで、「持続可能性」が人類共通の課題となった。残念なことに、この「持続可能性」はいまだに経済的な発展を前提として思考されている感がある。科学も技術も経済が良好でなければ順調な発展は望めないのは事実だが、そもそも科学・技術・経済のいずれも、人類の安全な生存が保証されることを前提としている。
生物の1種として地球に住む人類は、生態系の一員として生存しており、生存に必須である日々の食も農林水産業の基盤となる生態系が健全でなければたちまちその供給が絶たれる。生命誕生後、約40億年を費やして成立した現在の生態系の機能は、地球上の水や大気の循環にも大きく影響し、その変動は生態系の機能へとフィードバックされる。このつながりを支えているのは、生物多様性であることも当たり前のことなのだが、この最も重要な要素についての認識は、いまだに社会的理解が浅い。SDGsを支える根幹は生物多様性と生物が利用している地球の環境であることの理解を進めることは、生物学分野のみならず、科学全体が意識し、積極的に貢献すべきである。
持続可能性への基礎科学の貢献というIYBSSD原案が日本学術会議にもたらされたとき、その内容にはまだ生物多様性や生態系への言及が不足していた。また、基礎科学全般の貢献を謳いながら、文系科学への展開も不十分であった。学術会議内の作業委員会が作られたときに、最初に重視したことのひとつは、「基礎科学」を代表する学術会議の3つの部を横断した組織でなければいけないということであった。それが実現し、様々な分野で協力が進んだことは幸いであったが、全国津々浦々にIYBSSDのロゴが翻ったわけでないのは残念である。このような本質的な問題は当たり前すぎて、積極的に貢献を発想しなければ、簡単に見過してしまうものかもしれない。IYBSSDへの協力を学術会議が呼びかけたときに、反応の有無や強弱には分野特性があるだろうということは予想できた。それを別にすれば広範な分野から協力が得られたことは、日本の基礎科学がまだ広い裾野と良識を持っていることの証かもしれないが、一方で、その存続に危機感を抱いていることの反映かもしれない。
学術会議第二部の中で、生物学分野は基礎生物学と統合生物学という2つの委員会が代表しており、IYBSSDへの協力団体となっている学会の多くが関わっている。また、生物科学学会連合や自然史学会連合も賛同している。地球史、生命史を包含する地球惑星科学連合の活動は、まさにこのシンポジウムとして反映されている。大小の学会や組織が独自にイベントや活動を行っているが、ここでは2つを紹介する。
一つは、2,019年に設立100周年を迎えた、国際生物科学連合IUBS総会の日本開催である。IUBSの国内対応組織である学術会議のIUBS分科会が中心となって、第34回総会を日本で初めて招聘し、2023年3月に開催した(大会ロゴ参照)。テーマはUnifying Biology for Changing Earth and Human Beingsであった。IUBSはIYBSSDの協賛団体でもあり、大会においてIYBSSDと合同シンポジウム“Biological Science for Sustainable Living”を開催し、同時に講演会「生物が支える人と地球」を一般向けに公開した。
第二は、IYBSSD以前から学術会議の複数の分科会が提案してきた、国立沖縄自然史博物館設立計画が沖縄県の賛同のもとで進行中ということである。自然史科学や自然史で扱う事象は、科学的好奇心への入口だけではない。将来の地球で生きる世代にとって必要な、自然と生物に対する好ましい意識を教育するために不可欠な素材である。この運動は、学術会議のメンバーから派生した、(公社)国立沖縄自然史博物館設立準備委員会(IYBSSD登録団体)が引き継いで情報発信している。
およそIYBSSDとはかけ離れた野蛮な活動が世界では拡大を続けているように見える。これは、利己的な持続可能性のみを追求して自然界や他の集団から資源の収奪を続けてきた人類史そのままのようである。しかし、地球規模の環境破壊や生物多様性の喪失を見れば、地球全体が生態学的転換点Tipping Pointにさしかかっていることは明らかである。各国独自の経済や食料の安全保障を唱える前に、もはや共存を目指す方向に舵取りするべきで、基礎科学は口をそろえてそのような提言をすべきである。
生物の1種として地球に住む人類は、生態系の一員として生存しており、生存に必須である日々の食も農林水産業の基盤となる生態系が健全でなければたちまちその供給が絶たれる。生命誕生後、約40億年を費やして成立した現在の生態系の機能は、地球上の水や大気の循環にも大きく影響し、その変動は生態系の機能へとフィードバックされる。このつながりを支えているのは、生物多様性であることも当たり前のことなのだが、この最も重要な要素についての認識は、いまだに社会的理解が浅い。SDGsを支える根幹は生物多様性と生物が利用している地球の環境であることの理解を進めることは、生物学分野のみならず、科学全体が意識し、積極的に貢献すべきである。
持続可能性への基礎科学の貢献というIYBSSD原案が日本学術会議にもたらされたとき、その内容にはまだ生物多様性や生態系への言及が不足していた。また、基礎科学全般の貢献を謳いながら、文系科学への展開も不十分であった。学術会議内の作業委員会が作られたときに、最初に重視したことのひとつは、「基礎科学」を代表する学術会議の3つの部を横断した組織でなければいけないということであった。それが実現し、様々な分野で協力が進んだことは幸いであったが、全国津々浦々にIYBSSDのロゴが翻ったわけでないのは残念である。このような本質的な問題は当たり前すぎて、積極的に貢献を発想しなければ、簡単に見過してしまうものかもしれない。IYBSSDへの協力を学術会議が呼びかけたときに、反応の有無や強弱には分野特性があるだろうということは予想できた。それを別にすれば広範な分野から協力が得られたことは、日本の基礎科学がまだ広い裾野と良識を持っていることの証かもしれないが、一方で、その存続に危機感を抱いていることの反映かもしれない。
学術会議第二部の中で、生物学分野は基礎生物学と統合生物学という2つの委員会が代表しており、IYBSSDへの協力団体となっている学会の多くが関わっている。また、生物科学学会連合や自然史学会連合も賛同している。地球史、生命史を包含する地球惑星科学連合の活動は、まさにこのシンポジウムとして反映されている。大小の学会や組織が独自にイベントや活動を行っているが、ここでは2つを紹介する。
一つは、2,019年に設立100周年を迎えた、国際生物科学連合IUBS総会の日本開催である。IUBSの国内対応組織である学術会議のIUBS分科会が中心となって、第34回総会を日本で初めて招聘し、2023年3月に開催した(大会ロゴ参照)。テーマはUnifying Biology for Changing Earth and Human Beingsであった。IUBSはIYBSSDの協賛団体でもあり、大会においてIYBSSDと合同シンポジウム“Biological Science for Sustainable Living”を開催し、同時に講演会「生物が支える人と地球」を一般向けに公開した。
第二は、IYBSSD以前から学術会議の複数の分科会が提案してきた、国立沖縄自然史博物館設立計画が沖縄県の賛同のもとで進行中ということである。自然史科学や自然史で扱う事象は、科学的好奇心への入口だけではない。将来の地球で生きる世代にとって必要な、自然と生物に対する好ましい意識を教育するために不可欠な素材である。この運動は、学術会議のメンバーから派生した、(公社)国立沖縄自然史博物館設立準備委員会(IYBSSD登録団体)が引き継いで情報発信している。
およそIYBSSDとはかけ離れた野蛮な活動が世界では拡大を続けているように見える。これは、利己的な持続可能性のみを追求して自然界や他の集団から資源の収奪を続けてきた人類史そのままのようである。しかし、地球規模の環境破壊や生物多様性の喪失を見れば、地球全体が生態学的転換点Tipping Pointにさしかかっていることは明らかである。各国独自の経済や食料の安全保障を唱える前に、もはや共存を目指す方向に舵取りするべきで、基礎科学は口をそろえてそのような提言をすべきである。