日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS09] 大気化学

2024年5月27日(月) 09:00 〜 10:30 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:入江 仁士(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、中山 智喜(長崎大学 大学院水産・環境科学総合研究科)、石戸谷 重之(産業技術総合研究所)、江波 進一(国立大学法人筑波大学)、座長:入江 仁士(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)

09:30 〜 09:45

[AAS09-03] 太陽発電パネルだけで駆動し、携帯電話回線でデータを自動転送する小型大気計測装置(PM2.5, CO, O3, NOx)の開発と、インドにおける長期の運転実績

*松見 豊1中山 智喜2谷本 浩志3、Naja Manish4 (1.名古屋大学、2.長崎大学、3.国立環境研究所、4.Aryabhatta Research Institute of Observational Sciences, India)

キーワード:大気計測器、PM2.5、小型、ローコスト、太陽光発電、日本大使館

最近の計測技術進歩と情報通信機器の発達により、小型でローコストな計測器が大気環境の計測において大きな役割を果たそうとしている。今日では, 大気中の微小粒子状物質 PM2.5 をはじめとして O3,CO, NOxなどの大気中の有害ガス成分を計測する小型のセンサが開発されており,1センサあたり数万円のコストで測定が一応できる段階にある。これまで大気環境のデータは1-2地点だけの高価な測定装置の観測結果しかなく、きめ細かな観測・対策は難しいのが実情だった。また、アジアの国の公設の計測サイトの観測装置はメンテナンスが十分されていないことがある。小型計測器のネットワーク観測により高密度なデータを容易に手に入れられると、大気環境研究や環境汚染対策のあり方も大きく変わる可能性が出てきている。松見・中山らは小型ローコストの大気計測器32台をインドの北西部に置き、観測ネットワークを構築して、稲わら焼きで排出される大気汚染物質の発生・拡散・輸送される様子を解析している[1,2]。我々は、通常の電源が無く、またメンテナンスやデータ回収が難しいアジアの田舎や森林地帯などでの活用を想定して、太陽発電を電力源としてデータを携帯電話回線でインターネットへ転送する大気計測装置を開発して、運用している。
添付の図の写真はインドのニューデリーの日本国大使館の屋上で、ほとんどメンテナンスなしで1年以上運用している我々の開発した太陽光発電駆動の小型大気装置(PM2.5, O3, CO, NOx)である。松見・中山はパナソニック(株)との共同研究により、手のひらに載る大きさの小型でリアルタイム計測が可能なPM2.5 計測器を開発してきた[3]。日本や世界各地で大型機と比較して、低濃度から高濃度(~1000 µg m-3)まで非常に精度の良い相関が得られている[3]。ガス状物質に関してはAlphasense社の電気化学センサを搭載している。遠隔地での測定データは、携帯電話回線を用いてインターネットのサーバに毎日自動的にアップロードされる。飛行機持ち込みやアジアの遠隔地へ設置ために1人で持ち運びが可能なように、比較的小型の太陽発電パネル(50W)と小型の鉛電池で駆動して24時間連続で数年のスケールで稼働させるために、センサ・CPU・携帯電話データ送信回路など全体として省電力(4W程度)にした。日本国大使館の隣に在インド米国大使館があり、そこでは大型のBAMでPM2.5を計測して、1時間値をインターネットで公表している[4]。添付の図に載せたグラフは1年余の観測データの一部であり、2023年11月の600 µg m-3もの高濃度なPM2.5が観測された時のデータである。我々のローコスト小型計測器の結果と米国大使館の大型標準観測器BAMの計測結果は、よく合っている。ニューデリーの日本国大使館での計測結果は、国立環境研究所の地球環境データベースの一つとして毎日公表している。
[日] https://db.cger.nies.go.jp/ged/ja/realtimedata/delhi_aq.html
[英] https://db.cger.nies.go.jp/ged/en/realtimedata/delhi_aq.html
在インド日本国大使館ニュース記事 https://www.in.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/index.html 
我々の大気環境観測データが、特に在インドの日本人の皆様の健康管理に役立つことを目指している。
[謝辞]
本研究の装置の設置と観測に関して、在インド日本国大使館の方々に協力いただき感謝している。また、観測データ処理とインターネット公表に関して国立環境研究所の須藤公子氏の協力を得ている。名古屋大学全学技術センターの山崎高幸氏と岡本渉氏が協力している。
[参考文献]
[1] Matsumi Y. et al. in Session H-CG26 “Impacts of Agricultural Residue Burning”, JPGU 2024
[2] Singh, Tanbir, Matsumi Y. et al., Scientific Reports (2023)
https://doi.org/10.1038/s41598-023-39471-1
[3] Nakayama T. et al. Aerosol Science and Technology, https://doi.org/10.1080/02786826.2017.1375078
[4] https://www.airnow.gov/international/us-embassies-and-consulates/#India$New_Delhi