日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC26] 雪氷学

2024年5月29日(水) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:砂子 宗次朗(防災科学技術研究所)、谷川 朋範(気象庁気象研究所)、大沼 友貴彦(宇宙航空研究開発機構)、渡邊 達也(北見工業大学)

17:15 〜 18:45

[ACC26-P08] 氷河湖決壊予測における上流氷河表面温度の重要性

*髙橋 可愛1,9、徳植 啓康2,9松崎 絹佳3,9橋本 朝陽4,9堅田 凜平5,9川俣 大志6,9成瀬 延康7高橋 幸弘8,9 (1.大宮国際中等教育学校、2.名古屋大学 宇宙地球環境研究所、3.九州大学大学院 工学府 、4.筑波大学大学院 理工情報生命学術院 生命地球科学研究群 地球科学学位プログラム、5.明治大学大学院 農学研究科、6.北海道大学 大学院教育推進機構、7.滋賀医科大学 医学部医学科、8.北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻 、9.NPO法人 スーパーサイエンティストプログラムプラス )

キーワード:氷河湖決壊予測、氷河表面温度、衛星リモートセンシング

氷河湖の決壊は、下流域に洪水を引き起こし、人命やインフラに甚大な被害をもたらす。特に、アジア高山地帯には多数の氷河湖が存在し、洪水リスクが極めて高い。例えば、パキスタン北部HunzaにあるShisper氷河湖では、2019年から2022年までの毎年に大規模な決壊が発生し、下流河川の流量増加による橋梁崩壊や、数百キロ下流での洪水被害が生じている。こうした被害を軽減するためには、氷河湖決壊を数日前には予測し、高精度なアラートを発信する必要がある。

過去には、ヒマラヤ地域の衛星画像を用いて、モレーン堰止め氷河湖の決壊を高い精度で推定するリスク評価モデルが報告されている。このモデルでは、地形、流域面積、氷河湖面積から推定される水貯蓄量、氷河湖より下流の河川勾配などを考慮してリスク評価をしている、しかし、決壊のアラート発信を目的としたものではないため、決壊前に適切なアラートを発信するための時間分解能は有していない。最近、上流氷河の表面温度が顕著に上昇(約0.3℃/日)した数日以内に氷河湖の決壊が起こった例が別の研究グループにより示された。決壊のメカニズムには、他にも気象要因による氷河湖からの越水、暴発、氷や岩の湖へのなだれ込みなど、多数の要素と地域依存性がある。したがって、適切なアラートを出すために重要な気象的要素や決壊推定モデルの時間分解能が十分に理解されているとはいえない。

本研究は、モレーン堰止め氷河湖の決壊を数日前に予測可能な高精度の氷河湖決壊推定法の確立を最終目的とする。そのための最初の取り組みとして、モレーン堰止め氷河湖決壊と高い相関をもつとされる氷河湖面積に注目し、上流氷河の表面温度との相関を調べた。対象地域は、パキスタンのHunzaにあるShisper氷河湖と、この氷河湖の水の供給源と考えられるMuchuwar氷河とした。上流氷河は氷河湖と比べて広い面積をもつことから、氷河湖上空が雲に覆われて衛星画像解析できない場合でも、氷河の表面温度を見積もるだけで、氷河湖面積の拡大による決壊リスクを推定できるはずである。これは、アラート発信には重要な計測因子となり得る。

解析には、Shisper氷河湖の決壊が報告された2019年、2020年、2022年における、決壊約1ヶ月前から決壊当日までに撮影されたLandsat7、8の衛星画像(計11枚)を用いた。Muchuhar 氷河の表面温度は、Landsat7のband6 (10.40-12.50 µm)、Landsat8のband10 (10.6-11.19 µm) の画像から算出した。Shisper氷河湖の面積は、Landsat8の可視合成画像から算出した。氷河湖の上流端から2.5 km間隔で2.5-12.5 kmの範囲の氷河の表面温度と氷河湖の面積との相関関係を求めたところ、r = 0.65-0.90の高い相関示した。これらは、氷河湖決壊アラートを発信する上で、表面温度が高い精度を持つ指標であることを示しており、発表では、他地域の氷河湖へ適用についても議論する。

本研究の一部は、公益財団法人電気通信普及財団による「ICTとハンズオンを併用したSDGs課題解決能力を有する人材育成法の開発(滋賀医科大学、2022年度)」の助成および、NPO法人スーパーサイエンティストプログラムプラスによる支援を受けた。