17:15 〜 18:45
[ACC26-P09] マルチビームソナーによる南米パタゴニアのグレイ氷河湖の湖底地形測量マルチビームソナーによる南米パタゴニアのグレイ氷河湖の湖底地形測量
キーワード:氷河、マルチビームソナー、湖底地形
湖や海に流入するカービング氷河では急速に質量を損失し海水準上昇を引き起こしており、カービング氷河の急速な変動メカニズムの解明が求められている。カービング氷河は流入する湖・海の影響で急速かつ複雑に変動するが、急速な氷河後退には湖底地形が重要な役割を担っていることが指摘されている。近年、マルチビームソナーを用いた海底地形測量によって詳細な海底地形が取得され、氷河変動との比較解析が進められている。マルチビームソナーを搭載した船舶が氷河湖で運用された例は限られているが、海底地形と同様に、詳細な湖底地形には淡水性カービング氷河の変動メカニズムの解明に重要な情報が残されている可能性が高い。そこで本研究では、南米パタゴニア・チリの氷河が流入するグレイ湖において、マルチビームソナーを用いた湖底地形調査を行った。
グレイ氷河は3つに分岐した氷河末端がそれぞれグレイ湖に流入する、淡水性カービング氷河である。中央末端では1999年に2 km、東側末端では2017–2022年に1.5 kmの末端後退が報告されている。2017–2018年に実施したシングルビームソナーによる測深の結果、中央末端の急速な末端後退が生じた領域では400 m以深の湖盆地形が確認されている。
本研究では,マルチビームソナー(KONGSBERG社製,EM2040P)を用いて湖水中の氷河末端形状と湖底地形を測定した。現地では小型観光ボート(長さ約5 m,幅約2 m)に金属パイプやラッシングベルトを使って、ソナーの音響発信器、動揺センサ(IMU)、GPSアンテナを固定し、観測を行った。用いたソナーの発振1回当たりの最大測深点数は512、最大測定距離は550 m、発信周波数は200, 300, 400 kHzから選択可能である。ボート上の制御コンピューターから点群取得状況をリアルタイムで確認し、測定深度や必要とされる分解能に応じてビーム射出方向およびビーム幅、発信周波数を適宜変更しながら測定を実施した。現地では湖の状況(天候、湖面の波、氷山の分布)に合わせて2023年3月4, 5, 11, 14日にマルチビームソナー測定を実施した。取得したソナーデータは、グレイ湖畔の露岩に設置したGPS基準点データを用いたボート座標の干渉測位、10地点における音速度鉛直プロファイルを用いた音速度補正、およびパッチテスト(同一地形を用いたソナー発信機の設置角度校正)を行い、ソナーによる取得点群の位置精度を向上させた。さらに全スキャンの取得点群に対して目視で外れ値除去を行った。最終的に、得られた湖底のソナーデータから、空間分解能5 mの湖底地形の数値標高モデルを構築した。
4日間の調査の結果、12 km2にわたってグレイ湖の湖底地形測定に成功した。湖底測定の結果、起伏に富む湖底地形が広がっていることが明らかになり、以下のような特徴を有することが判明した。
・中央末端の1979年の末端位置より約2 km下流に水中モレーン(高さ:氷河側約100 m、下流側約20 m)、および東側末端の1979年の末端位置より約1 km下流に水中モレーンを確認した。地上/航空写真記録、衛星画像で確認できる最大前進位置よりも下流に位置するため、小氷期までさかのぼる痕跡と推定される。
・グレイ氷河中央末端の流入するグレイ湖最深部では0.5 km2にわたって平坦な湖底が分布することが判明した。氷河底面から供給される堆積物によると考えられる。
・グレイ氷河東側末端の流入する領域は深度300 mを超える谷地形が長さ1.5 kmにわたって伸びていることが判明した。2017年以降の急速な後退は底面地形が深い地域で生じていたことがわかった。
マルチビームソナーを用いて、パタゴニア・グレイ湖の詳細な湖底地形を得た。その結果、航空写真や衛星画像記録が残るよりも前の氷河末端変動を解析できる可能性が示された。
グレイ氷河は3つに分岐した氷河末端がそれぞれグレイ湖に流入する、淡水性カービング氷河である。中央末端では1999年に2 km、東側末端では2017–2022年に1.5 kmの末端後退が報告されている。2017–2018年に実施したシングルビームソナーによる測深の結果、中央末端の急速な末端後退が生じた領域では400 m以深の湖盆地形が確認されている。
本研究では,マルチビームソナー(KONGSBERG社製,EM2040P)を用いて湖水中の氷河末端形状と湖底地形を測定した。現地では小型観光ボート(長さ約5 m,幅約2 m)に金属パイプやラッシングベルトを使って、ソナーの音響発信器、動揺センサ(IMU)、GPSアンテナを固定し、観測を行った。用いたソナーの発振1回当たりの最大測深点数は512、最大測定距離は550 m、発信周波数は200, 300, 400 kHzから選択可能である。ボート上の制御コンピューターから点群取得状況をリアルタイムで確認し、測定深度や必要とされる分解能に応じてビーム射出方向およびビーム幅、発信周波数を適宜変更しながら測定を実施した。現地では湖の状況(天候、湖面の波、氷山の分布)に合わせて2023年3月4, 5, 11, 14日にマルチビームソナー測定を実施した。取得したソナーデータは、グレイ湖畔の露岩に設置したGPS基準点データを用いたボート座標の干渉測位、10地点における音速度鉛直プロファイルを用いた音速度補正、およびパッチテスト(同一地形を用いたソナー発信機の設置角度校正)を行い、ソナーによる取得点群の位置精度を向上させた。さらに全スキャンの取得点群に対して目視で外れ値除去を行った。最終的に、得られた湖底のソナーデータから、空間分解能5 mの湖底地形の数値標高モデルを構築した。
4日間の調査の結果、12 km2にわたってグレイ湖の湖底地形測定に成功した。湖底測定の結果、起伏に富む湖底地形が広がっていることが明らかになり、以下のような特徴を有することが判明した。
・中央末端の1979年の末端位置より約2 km下流に水中モレーン(高さ:氷河側約100 m、下流側約20 m)、および東側末端の1979年の末端位置より約1 km下流に水中モレーンを確認した。地上/航空写真記録、衛星画像で確認できる最大前進位置よりも下流に位置するため、小氷期までさかのぼる痕跡と推定される。
・グレイ氷河中央末端の流入するグレイ湖最深部では0.5 km2にわたって平坦な湖底が分布することが判明した。氷河底面から供給される堆積物によると考えられる。
・グレイ氷河東側末端の流入する領域は深度300 mを超える谷地形が長さ1.5 kmにわたって伸びていることが判明した。2017年以降の急速な後退は底面地形が深い地域で生じていたことがわかった。
マルチビームソナーを用いて、パタゴニア・グレイ湖の詳細な湖底地形を得た。その結果、航空写真や衛星画像記録が残るよりも前の氷河末端変動を解析できる可能性が示された。