日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG32] 中緯度大気海洋相互作用

2024年5月26日(日) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:桂 将太(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、安藤 雄太(九州大学大学院理学研究院)、王 童(海洋研究開発機構)、田村 健太(北海道大学大学院地球環境科学研究院)


17:15 〜 18:45

[ACG32-P03] 帯状の高海水温域が強化する日本海の帯状の雪雲

*舩橋 健朗1立花 義裕1 (1.三重大学 生物資源学部)

キーワード:北海道、帯状雲、領域気象モデル、圧力調整メカニズム、鉛直混合メカニズム

1.序論
 北海道空知地方の岩見沢では,冬季に西よりの風が吹くことで東に位置する石狩湾からの雪雲が流れ込みやすい.石狩湾を含めた北海道西岸の日本海では,冬季に帯状の雪雲が発達しやすいことが知られている.先行研究では間宮海峡から北海道西岸にかけて南北方向に伸びる帯状の雪雲と,沿海州の山脈の風下から北海道西岸にかけて,北西-南東方向に延びる雪雲が冬季に出現しやすいことが分かっている.これらの帯状の雪雲を以後それぞれ,岡林バンド,村松バンドと呼ぶ.これらの雪雲により北海道西岸で発達した雪雲はしばしば北海道日本海側に大雪をもたらし,岩見沢では年間の降雪量が平年値で624cmに達する.
こうした道内屈指の豪雪地帯である岩見沢は,2023年12月21日から23日ごろに観測史上最大の降雪量を観測する大雪に見舞われた.このとき,期間の前半を中心に岡林バンド,後半を中心に村松バンドに伴う帯状の雪雲が確認できた.また,北海道西岸の日本海では帯状の雪雲に対応するように平年より高い海水温域が帯状に分布していた.本事例のような帯状の高海水温域と日本海の帯状の雪雲に関して言及した先行研究は存在しない.そこで,本研究ではこの事例について,帯状の高海水温域が帯状の雪雲に対し与えた影響を明らかにすることを目的とする.

2.使用データと解析手法
 海面水温の雪雲への影響と積雪量の検証には領域気象モデルWRF ver.4.5を用いて数値実験を実行した.初期値・境界値には,ERA5を,下部境界値には OISSTを使用した.計算領域は北緯44°,東経140°を中心にして東西方向,南北方向にいずれも600kmで,水平解像度は 1 km,鉛直層数は 33層,計算期間は大雪の前日である20日0時から23日18時までとした.実際の海面水温で計算した結果(ctl実験とする)と,海面水温のみ1991年から2020年までの気候値に改変して積分した結果(clim実験とする)の比較を行った.

3.結果・考察
 21日0時から23日18時までの岩見沢の累積降雪量はctl実験で65cm, clim実験は50cmだった.ctl実験からclim実験を引いた累積降雪量の差はほとんどの地域が正で,特に石狩湾沿岸部から空知地方にかけては40cm以上に達している場所もあった.
 同じ期間で積算降水量,積算顕熱量,積算潜熱量でも比較を行った.岩見沢市付近の積算降水量はctl実験で50mmとclim実験に比べ10mm多くなっていた.また,岡林バンドや村松バンドが出現していた北海道西岸や石狩湾からその北西海域,石狩湾沿岸部から空知地方にかけてctl実験の降水量がclim実験を30mm以上多くなった.上向きの積算顕熱量や積算潜熱量は実験領域の日本海ほぼ全体でctl実験がclim実験を上回り,北海道西岸から北西方向では3割程度増加していた.
 次に,岡林バンド,村松バンドがそれぞれ明瞭だった12時間の下層水平収束を調べた.その結果,いずれもctl実験の方が帯状の雪雲に伴う下層水平収束が強化されていた.時間ごとの詳細な解析により,岡林バンドはctl実験の方が北海道西岸での持続時間が長く,東進して北海道上陸後不明瞭になるまでに時間を要した.また,村松バンドは時間当たりの収束が強化されていたことがわかった.
そこで,それぞれの帯状の雪雲の下層水平収束が強化された理由を下層の風速から考察する.岡林バンドが明瞭だった12時間の平均風速は,岡林バンド付近で帯状にctl実験の風速が減少していた.clim実験ではこの領域で西風が吹いており,帯状の高海水温域により東風偏差がつくられたことになる.これには海水温上昇によって低温である北海道陸上と高温な北海道西岸の東西方向の海陸熱コントラストが強化されたことによる圧力調整メカニズムによって引き起こされているのではないかと考察している.そして,この東風偏差により西風が打ち消されたことは,ctl実験の岡林バンドが東に移動するのに時間を要したことと整合的である.一方,村松バンドが明瞭だった12時間の平均風速は村松バンド付近で帯状にctl実験の風速が強化されていた.この結果は,海面水温が上昇し大陸からの寒気との鉛直方向の温度差が大きくなったことによる鉛直混合メカニズムがはたらいて風速が強まり,収束が強化されたのではないかと考察している.

4.結論と今後の展望
 本研究では,岩見沢で観測史上最大となった大雪事例で帯状の高海水温域が帯状の雪雲にどのような影響を与えたのか明らかにすることを目的に数値実験をした.その結果,帯状の高海水温域によって降雪量や降水量が2割から3割程度増加し,観測史上最大の大雪の一因になったことが明らかになった.さらに,帯状の高海水温域は圧力調整メカニズムによって岡林バンドの持続時間を長くし,鉛直混合メカニズムによって村松バンドを強化させたことを示唆する結果が得られた.今後は海面水温が帯状ではなく全体が高かった場合の実験との比較や,なぜ帯状の高海水温域が生じたのか,今後も起こりうる可能性があるのかについても検討を行う必要がある.