日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG41] 海洋表層-大気間の生物地球化学

2024年5月28日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:亀山 宗彦(北海道大学)、岩本 洋子(広島大学大学院統合生命科学研究科)、野口 真希(国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球表層システム研究センター)、小杉 如央(気象研究所)

17:15 〜 18:45

[ACG41-P03] 「波の花」から探る大気―海洋境界の微生物・有機物動態

*浜崎 恒二1、兼利 天河1、黄 燦1、小林 陽子1、岡本 諭賢1岩本 洋子2 (1.東京大学大気海洋研究所、2.広島大学大学院統合生命科学研究科)

キーワード:エアロゾル、微生物、波の花

海洋上で観測されるエアロゾルには、海塩粒子だけでなく有機物や微生物粒子が時として大きな割合で含まれ、その割合によってエアロゾルの雲特性が変化するため、有機物や微生物の動態に強い関心が寄せられている。実際に、有機物を構成する官能基の種類や炭素骨格数など、その構造によって雲核活性が変化することが理論モデルと実験の両方で示されている。海洋表層やエアロゾル中の微生物叢の変化や、有機物の分解は、こうした化学構造変化に伴うエアロゾルの雲特性変化を引き起こしているはずだが、海洋の微生物活動とエアロゾル組成の関係は十分に明らかとなっていない。これまでの研究により、海面での泡の破裂と飛沫化で生じるエアロゾルいわゆるSea spray aerosol (SSA)の生成時において、バクテリアの濃縮や選択が起きること、さらにはそうした現象に有機物粒子へのバクテリア付着の有無が関与していることが示唆されているが、明確な答えは得られていない。海水中の有機物粒子は、海中にできた泡に捕捉(スキャベンジ)されて上昇し、海表面で破裂した泡の飛沫と共に大気へと放出される。その際に、有機物粒子に付着した微生物も一緒に放出されていると考えられる。そこで本研究では、海水泡沫からのSSA生成過程において、泡によるスキャベンジングとそれに続く泡の破裂でどのような微生物選択が起こるのかを明らかにすることを目的とした。泡によるスキャベンジングの効果を検証するため、能登半島真浦海岸で冬季(2022年12月)に発生した泡の集合体である「波の花」を材料として分析と実験を行った。波の花は、海水中の有機物濃度が極端に高い環境で、海水が激しく攪拌されることによって発生する。海水と波の花の微生物群集構造を解析することにより、どのような海洋微生物が泡によるスキャベンジを受けやすいのかを調べた。波の花は、12/20、12/22、12/24の3回、海水はこれに12/21を加えた4回のサンプリングで採集した。海水と波の花を2種類の孔径のフィルターで濾過することで、粒子付着性細菌(>3.0μm)と自由生活性細菌(0.22-3.0μm)に分画し回収した。これらのフィルター試料からDNA抽出を行い、16S rRNA遺伝子の部分領域をPCR増幅し、解読した配列情報からデータベースに参照して分類群ごとの相対出現頻度を決定した。また、波の花から分離した細菌株(Vibrio atlanticus, Microbacterium algeriense, Verrucomicrobia sp.)と人工的に作成した粒子(アルギン酸ゲル)を用いたバブリング実験により、粒子の存在がエアロゾルへの細菌の濃縮を促進するかどうかを検証した。SSAとしてフィルターにトラップされた細菌細胞数を、蛍光顕微鏡を用いて経時的(1、3、6、12、24時間)に計数し粒子の有無による違いを比較した。海水と波の花の群集構造解析の結果を元に、同日に採集したサンプル毎に、優占度の高い細菌分類群(上位12綱)の割合を比較したところ、自由生活性として多く分布することが報告されているAlphaproteobacteriaは波の花よりも海水に多く含まれていた。一方、付着性としてより多く分布するBacteroidiaGammaproteobacteria、Planctomycetesは、波の花サンプルの方に多い細菌分類群であることが示された。これらの結果は、粒子のスキャベンジングによってこれに付着する細菌が濃縮されていることを示唆している。波の花から単離した細菌培養株を用いたバブリング実験では、細菌細胞単独でもSSAとして大気へ放出されることが示された。さらに、ゲル状粒子を形成するアルギン酸ナトリウムを添加した場合には、放出細菌数が大きく上昇した。V. atlanticusでは約4倍、M. algerienseでは約2.8倍、Verrucomicrobia sp.では10倍以上に増加した。アルギン酸ゲルのような自然海水中のゲル状の有機物粒子が、細菌のSSAへの濃縮を手助けする一つの要因であることが示唆された。