17:15 〜 18:45
[ACG41-P04] 海洋生態系モデルで見られる植物プランクトンの台風応答
台風に伴う強風は、海洋と大気の熱エネルギー交換、混合や湧昇の効果によって、海洋表層の水温を低下させる。この台風による混合や湧昇は、深部の冷たく栄養豊富な海水を栄養が枯渇した表層にもたらし、海面での植物プランクトンの成長を促進することにより、海洋一次生産を増大させると考えられている。
近年、BGC-Argoプロファイリングフロートにより、日本南方における海洋内部の台風に対する応答が観測された。その結果、台風Trami通過後に観察された海面植物プランクトンのブルーミングは、海洋での混合による亜表層クロロフィル極大の再分布に起因しており、水柱全体で積算した植物プランクトン量の純増加は生じなかったことが明らかになった。しかし、BGC-Argoによる観測は、フロート位置のデータしか取得することができず、海域による台風応答の違いは明らかになっていない。そこで本研究では、台風発生から日本付近へ到達するまでの台風経路上における海洋表層の台風応答を調べるために、海洋生態系モデル(OFES-NPZDモデル)の計算結果を使用した。このモデルは、超高解像度海洋大循環モデル(OFES)に、低次生態系モデル(NPZD)が組み込まれたもので、大気再解析データJRA55-doで駆動されている。
今回解析対象とした台風Tramiは、2018年9月21日に熱帯西太平洋(北緯15度、東経143.7度)で発生し、徐々に移動速度を落としながら北西の方向へ進み、9月27日に北緯22度、東経128度付近に達した後、台風存続期間内で最もゆっくり北上した。その後移動速度を速めながら、9月29日に北緯25度、東経127度付近で北東へ進路を変え、鹿児島沖(北緯30度、東経130度)へ移動した。その後日本を横断したのち、10月1日に温帯低気圧へと変わった。なお、9月25日に最大風速55m/sおよび台風中心の最低気圧915hPaを記録した。
台風Trami経路に沿って、緯度1度ごとに台風応答を評価するために、モデルで再現された水温、植物プランクトン量、栄養塩の時間鉛直断面図を作成した。台風の勢力が弱かった北緯15-18度では、水温の鉛直分布の台風通過前後での変化は確認できなかった。北緯19-24度では台風の通過後、等温線の上方への変位とともに、上層200mすべての深度で水温低下がみられた。また、同様の場所で、栄養塩も等値線の上方への変位がみられた。これら水温および栄養塩の等値線の上方への変位は、台風による湧昇の効果であると考えられる。植物プランクトンについては、台風通過後に北緯19度以北では、海面の植物プランクトン量が増加する一方で、亜表層クロロフィル極大では、台風通過直後に植物プランクトン量が一旦減少し、その後回復した。特に、北緯19-26度では台風通過後亜表層クロロフィル極大が台風前よりも強化されていた。
次に、台風通過前後の変化の場所による違いを定量的に比較するために、上層200mの積算水温、積算植物プランクトン量、積算栄養塩それぞれの変化を緯度ごとに見積もった(図1)。台風通過前後の水温変化は、ほぼすべての場所で低下を示した。水温低下は、北緯21度で最も大きく、それ以北・以南では徐々に小さくなっていた。一方、栄養塩と植物プランクトン量変化は、北緯19-29度において増加しており、特に北緯22-23度で最も増加量が多く、その以北・以南では徐々に変化量は小さくなっていた。緯度に対する水温変化の違いは、台風の移動速度の違いと類似している一方、栄養塩や植物プランクトン量の変化は、台風の移動速度と逆位相であることが確認できる。この結果から、台風の移動速度が遅いほど大きな水温低下がみられ、より多く上方へ栄養塩が輸送される、つまり台風の移動速度が遅いほど台風応答が誘発されやすいことが推測される。また、積算植物プランクトン量変化は栄養塩変化と類似していることから、栄養塩の上方への輸送が多いほど植物プランクトン量は増加する傾向にあると言える。
先行研究のBGC-Argo profiling floatの観測結果では、float位置で台風Trami通過中および通過後に植物プランクトンバイオマスの純増加は見られなかった。しかし、モデルで再現された台風通過前後の変化においては、台風の移動速度が遅く、大きく水温低下し、栄養塩が上層へ輸送された場所で、台風通過後に植物プランクトン量の純増加がみられた。今後植物プランクトンの成長に寄与する放射照度なども考慮しながら議論を続けていきたい。
近年、BGC-Argoプロファイリングフロートにより、日本南方における海洋内部の台風に対する応答が観測された。その結果、台風Trami通過後に観察された海面植物プランクトンのブルーミングは、海洋での混合による亜表層クロロフィル極大の再分布に起因しており、水柱全体で積算した植物プランクトン量の純増加は生じなかったことが明らかになった。しかし、BGC-Argoによる観測は、フロート位置のデータしか取得することができず、海域による台風応答の違いは明らかになっていない。そこで本研究では、台風発生から日本付近へ到達するまでの台風経路上における海洋表層の台風応答を調べるために、海洋生態系モデル(OFES-NPZDモデル)の計算結果を使用した。このモデルは、超高解像度海洋大循環モデル(OFES)に、低次生態系モデル(NPZD)が組み込まれたもので、大気再解析データJRA55-doで駆動されている。
今回解析対象とした台風Tramiは、2018年9月21日に熱帯西太平洋(北緯15度、東経143.7度)で発生し、徐々に移動速度を落としながら北西の方向へ進み、9月27日に北緯22度、東経128度付近に達した後、台風存続期間内で最もゆっくり北上した。その後移動速度を速めながら、9月29日に北緯25度、東経127度付近で北東へ進路を変え、鹿児島沖(北緯30度、東経130度)へ移動した。その後日本を横断したのち、10月1日に温帯低気圧へと変わった。なお、9月25日に最大風速55m/sおよび台風中心の最低気圧915hPaを記録した。
台風Trami経路に沿って、緯度1度ごとに台風応答を評価するために、モデルで再現された水温、植物プランクトン量、栄養塩の時間鉛直断面図を作成した。台風の勢力が弱かった北緯15-18度では、水温の鉛直分布の台風通過前後での変化は確認できなかった。北緯19-24度では台風の通過後、等温線の上方への変位とともに、上層200mすべての深度で水温低下がみられた。また、同様の場所で、栄養塩も等値線の上方への変位がみられた。これら水温および栄養塩の等値線の上方への変位は、台風による湧昇の効果であると考えられる。植物プランクトンについては、台風通過後に北緯19度以北では、海面の植物プランクトン量が増加する一方で、亜表層クロロフィル極大では、台風通過直後に植物プランクトン量が一旦減少し、その後回復した。特に、北緯19-26度では台風通過後亜表層クロロフィル極大が台風前よりも強化されていた。
次に、台風通過前後の変化の場所による違いを定量的に比較するために、上層200mの積算水温、積算植物プランクトン量、積算栄養塩それぞれの変化を緯度ごとに見積もった(図1)。台風通過前後の水温変化は、ほぼすべての場所で低下を示した。水温低下は、北緯21度で最も大きく、それ以北・以南では徐々に小さくなっていた。一方、栄養塩と植物プランクトン量変化は、北緯19-29度において増加しており、特に北緯22-23度で最も増加量が多く、その以北・以南では徐々に変化量は小さくなっていた。緯度に対する水温変化の違いは、台風の移動速度の違いと類似している一方、栄養塩や植物プランクトン量の変化は、台風の移動速度と逆位相であることが確認できる。この結果から、台風の移動速度が遅いほど大きな水温低下がみられ、より多く上方へ栄養塩が輸送される、つまり台風の移動速度が遅いほど台風応答が誘発されやすいことが推測される。また、積算植物プランクトン量変化は栄養塩変化と類似していることから、栄養塩の上方への輸送が多いほど植物プランクトン量は増加する傾向にあると言える。
先行研究のBGC-Argo profiling floatの観測結果では、float位置で台風Trami通過中および通過後に植物プランクトンバイオマスの純増加は見られなかった。しかし、モデルで再現された台風通過前後の変化においては、台風の移動速度が遅く、大きく水温低下し、栄養塩が上層へ輸送された場所で、台風通過後に植物プランクトン量の純増加がみられた。今後植物プランクトンの成長に寄与する放射照度なども考慮しながら議論を続けていきたい。