日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG42] 北極域の科学

2024年5月30日(木) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:島田 利元(宇宙航空研究開発機構)、堀 正岳(東京大学大気海洋研究所)、川上 達也(北海道大学)、柳谷 一輝(宇宙航空研究開発機構)

17:15 〜 18:45

[ACG42-P06] 大規模アンサンブルモデルデータセットを用いた北極温暖化増幅時における下部対流圏の水蒸気移流の役割の評価

*堀 正岳1吉森 正和1、浮田 甚郎1 (1.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:極温暖化増幅、水蒸気移流

全球平均気温に比べ温暖化が早く進行する北極温暖化増福は、下部対流圏の水蒸気に対して大きな影響を与えている。温暖化の進行にともない、水蒸気の南北勾配や風速といった広域な場の変動と、海氷減少にともなう潜熱フラックスの変化といったローカルな変動がみられるが、本研究ではそうした場の変化に対する大気の水蒸気移流がどのように応答するかについて、地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース(d4PDF)を用いた調査を行った。本データセットは観測の海面水温(SST)を元にした過去実験と、そこからトレンドを除去し温室効果ガス濃度などの外部強制因子を産業革命前の条件に固定した非温暖化実験がそれぞれ100メンバ存在する。また、全球平均温度が2Kあるいは4K上昇した将来予測実験におけるSSTを用いた実験がそれぞれ54メンバと90メンバ存在する。ここでは非温暖化実験(HPB-NAT)を基準とし、それに対して気候値の場が過去実験(HPB)と将来実験(HFB-2K / 4K)に変化した際の水蒸気移流の変化を調査した。また、本研究では移流を平均場の変化に伴う項目と擾乱成分とに分解し、平均場の変化項をさらに風の場の変化に伴う力学的効果、水蒸気勾配の変化にともなう熱力学的効果、およびそれぞれの高次項の寄与に分解して評価した。夏季において水平水蒸気移流は中緯度側で負、北極域で正の偏差となっており、このことは温暖化とともに大陸上で蒸発が活発化し、非定常擾乱の効果によって相対的に乾燥している北極域に水蒸気が運ばれる効果を示している。冬季の北大西洋域では蒸発によって海面から水蒸気が供給される効果で水平移流は負となるが、温暖化の進行とともに海氷減少域が拡大し蒸発がさかんになる影響でこの傾向はさらに強まり、移流によって対流圏下層が乾燥化する結果が得られた。対流圏下層の水平移流の偏差が負になる一方、中・上層の水平移流と鉛直移流は温暖化とともに強まり、鉛直積算したカラムの水蒸気量の増加における海面からの蒸発の寄与が増えていることが示された。