17:15 〜 18:45
[AHW25-P01] 首都圏で進行する地下温暖化-都市化と地下水開発による地下熱環境変化
キーワード:地下温度、地下水流動、地下温暖化、都市化、地下水開発、首都圏
首都圏は世界有数の人口規模を有するメガシティであり,首都圏の中心である東京での気温の上昇は,世界のメガシティのなかでも顕著である。筆者らは,このような都市特有の熱環境や地球温暖化・気候変動の進行,都市域の地下水利用の変遷が地下環境に及ぼす長期的な影響を把握するため,首都圏に属する東京都および埼玉県を対象として,地下温度の観測を継続的に実施している。これまでに,両都県に整備されている地盤沈下・地下水位観測井網(以下,観測井)を活用して,2000年から現在まで地下温度プロファイルを繰り返し観測するとともに,2007年(埼玉県内4地点)および2012・2013年(東京都内6地点)から地下温度の高精度モニタリングを実施し,地下温度の連続的かつ微細な変化と,都市化の程度(都心部-近郊―郊外)や深度による温度変化の違いを調査してきた。本発表では,それらの観測結果に基づき,首都圏直下で進行している地下温暖化現象とその地域差の特徴について報告する。
筆者らの先行研究(宮越ほか,2010など)により,本地域の地下温度には明瞭な地域差が認められ,例えば高度に都市化された都心部では,その近郊や郊外よりも相対的に高温であることが明らかとなっている。本研究では,2003~2005年と2013~2015年の調査により得られた地下温度分布の比較により,地下浅部の温度上昇が広く生じていることや,上昇量に地域差のあることが明らかとなった。地下温度の上昇量は都心部で最も大きく,また都心部と近郊~郊外との温度差は経年的に増大している。他方,地下温度の上昇が認められる深度区間は時間の経過とともに地下深部に向かって拡大しているが,その規模や速度は必ずしも都市化の程度のみに依存しない。
地下温度のモニタリング結果から,都心~郊外のいずれの地域においても地下温度の継続的な上昇が認められたが,その上昇の傾向には地域差が認められる。地下温度の上昇が短期および長期に複雑に変動している地域は,主に地下水開発地域と一致する。例えば,都市郊外に属する武蔵野台地や荒川扇状地に位置する観測井では,深度30~50mの地下温度の上昇は日あるいは年単位よりも短周期の変動を伴う。これらは気温や土壌温度変化特有の周期とは異なっており,地表面温度変化の熱の伝導のみによって形成されたものではない。地下温度の変化は,水理水頭分布の経年変化の大きな地域や低水頭部において大きい傾向がみられることから,地下水利用による地下水流動変化に伴う熱移流量の経年的な変化が地下温度の長期変化の主要因の一つであると考えられる。
一方,都心部とその近郊では,日あるいは年単位の周期的な変動は認められないが,2000年以降の長期上昇トレンドは一様ではなく,2000年代よりも2010年代において上昇量が増大している。埼玉県南東部や東京都東部の観測井では,2020年以降,深度30m程度で0.01~0.02℃/年程度の上昇率が推定されたが(宮越ほか,2021),この値は郊外よりも数倍大きい。これらの地域では,過去の地下水揚水により大きく低下した水理水頭が1950年代以降の揚水規制により回復し,近年の地下水位は比較的安定している。また,水理水頭の回復に伴って水理水頭の深度差が小さくなり,鉛直方向の地下水流動に伴う熱移流の影響が相対的に小さくなっている。そのため,地下浅部の温暖化に対する地表面温度上昇の影響の相対的な度合いは,経年的に大きくなっていることが考えられる。また都心部のなかには,特定の深度において短周期の変動を伴いながら浅部よりも大きな温度上昇率を示す地点も認められ,地下構造物からの排熱の影響が予想される。地下熱環境には地上・地下環境変化の履歴が記録されており,各観測井の地下温度変化を都市化や地下水流動と併せて解析することで,首都圏における地下温暖化の形成メカニズムを明らかにできると期待される。
本研究の一部はJSPS科研費22K12410,22K05012の助成を受けた。本研究の一部は産業技術総合研究所・秋田大学・埼玉県による共同研究の一環として実施した。
筆者らの先行研究(宮越ほか,2010など)により,本地域の地下温度には明瞭な地域差が認められ,例えば高度に都市化された都心部では,その近郊や郊外よりも相対的に高温であることが明らかとなっている。本研究では,2003~2005年と2013~2015年の調査により得られた地下温度分布の比較により,地下浅部の温度上昇が広く生じていることや,上昇量に地域差のあることが明らかとなった。地下温度の上昇量は都心部で最も大きく,また都心部と近郊~郊外との温度差は経年的に増大している。他方,地下温度の上昇が認められる深度区間は時間の経過とともに地下深部に向かって拡大しているが,その規模や速度は必ずしも都市化の程度のみに依存しない。
地下温度のモニタリング結果から,都心~郊外のいずれの地域においても地下温度の継続的な上昇が認められたが,その上昇の傾向には地域差が認められる。地下温度の上昇が短期および長期に複雑に変動している地域は,主に地下水開発地域と一致する。例えば,都市郊外に属する武蔵野台地や荒川扇状地に位置する観測井では,深度30~50mの地下温度の上昇は日あるいは年単位よりも短周期の変動を伴う。これらは気温や土壌温度変化特有の周期とは異なっており,地表面温度変化の熱の伝導のみによって形成されたものではない。地下温度の変化は,水理水頭分布の経年変化の大きな地域や低水頭部において大きい傾向がみられることから,地下水利用による地下水流動変化に伴う熱移流量の経年的な変化が地下温度の長期変化の主要因の一つであると考えられる。
一方,都心部とその近郊では,日あるいは年単位の周期的な変動は認められないが,2000年以降の長期上昇トレンドは一様ではなく,2000年代よりも2010年代において上昇量が増大している。埼玉県南東部や東京都東部の観測井では,2020年以降,深度30m程度で0.01~0.02℃/年程度の上昇率が推定されたが(宮越ほか,2021),この値は郊外よりも数倍大きい。これらの地域では,過去の地下水揚水により大きく低下した水理水頭が1950年代以降の揚水規制により回復し,近年の地下水位は比較的安定している。また,水理水頭の回復に伴って水理水頭の深度差が小さくなり,鉛直方向の地下水流動に伴う熱移流の影響が相対的に小さくなっている。そのため,地下浅部の温暖化に対する地表面温度上昇の影響の相対的な度合いは,経年的に大きくなっていることが考えられる。また都心部のなかには,特定の深度において短周期の変動を伴いながら浅部よりも大きな温度上昇率を示す地点も認められ,地下構造物からの排熱の影響が予想される。地下熱環境には地上・地下環境変化の履歴が記録されており,各観測井の地下温度変化を都市化や地下水流動と併せて解析することで,首都圏における地下温暖化の形成メカニズムを明らかにできると期待される。
本研究の一部はJSPS科研費22K12410,22K05012の助成を受けた。本研究の一部は産業技術総合研究所・秋田大学・埼玉県による共同研究の一環として実施した。