[B-CG06] 地球史解読：冥王代から現代まで

[BCG06-P14] 前期ジュラ紀海洋無酸素事変の終焉メカニズムとしての大気組成変化

★招待講演

*上倉 寛紀¹、ブリーデン ベンジャミン²、河端 康佑³、久保田 好美²、泉 賢太郎⁴、中川 友紀¹、池田 昌之¹ (1.東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻、2.国立科学博物館、3.山口大学理学部地球圏システム科学科、4.千葉大学教育学部理科教育講座)

キーワード：トアルシアン、豊浦層群、木炭、炭素同位体

前期ジュラ紀に発生したToarcian海洋無酸素事変（T-OAE; ~183 Ma）では、炭素循環の擾乱により海洋が貧酸素化し、海洋生物の大量絶滅が起こった。T-OAE末期にはテチス海において木炭が多産し、大気酸素濃度の増加によりOAEが徐々に終わりに向かったと解釈されたが、テチス海以外での報告はなく、全球的にこのような変化が生じたかどうかは定かではない。
本研究では、パンサラッサ海西岸で堆積した豊浦層群西中山層桜口谷セクションにて地質調査を行い、T-OAE前後の岩相、有機炭素同位体比、木炭量の変化を調べた。地質調査の結果、δ¹³C_org負異常の開始時期の露頭が欠如していた層準、および破砕帯と推定された層準の付近に新たな露頭や断層が発見された。
T-OAE前後のδ¹³C_org分析の結果、新たに発見された -7.5 mに位置する層準付近の負のシフトは、テチス域で報告されるδ¹³C_orgの3段階変化のうちの最初の負のシフトに対比された。このようなδ¹³Cの3段階変化はテチス域においても複数地点で確認されており、テチス海との対比精度の向上は、複数回にわたるCO₂の大規模な排出がT-OAEを引き起こしたことを支持する。
T-OAE前後の木炭量はδ¹³C_orgの正異常の初期に増加し、その後減少した。この結果はテチス海北部の傾向や数理モデルと整合的であり、全球的に山火事が増減していたことが示唆される。一方で、シルト層はT-OAE初期の負異常の層準から堆積し始めており、テチス海と異なりこの時期から既に木炭が増加し始めていることから、アジアにおける局地的な洪水増加が影響したと考えられる。従って、T-OAEの終焉時に、大気O₂濃度が増加し、CO₂濃度が減少したと推定され、このような全球的な大気組成変化がOAEの終焉メカニズムに関連した可能性がある。