17:15 〜 18:45
[HCG23-P06] 基盤岩強度を考慮した岩盤河川侵食モデリング:
福島県阿武隈川流域河川での検討
キーワード:粒度分布、stream power model、平衡状態
本研究では,阿武隈川流域河川において2 つの河川侵食モデルを適用し,基盤岩強度の違いによる侵食速度変化をそれぞれのモデルがどの程度まで再現できるかの検証を行った。山地の地形発達を制御する主要なプロセスの一つが河川による基盤岩の侵食作用である。これまで,この岩盤河川侵食作用を予測するモデルがいくつも提案されてきた。しかし,日本のようなプレート沈み込み帯では地体構造が複雑であり,強度の大きく異なる基盤岩が隣接している。このような地域では,基盤岩強度の影響を考慮することのできる河川浸食モデルが必要とされる。しかし,既存の侵食モデルの多くは基盤岩強度が一定であることを仮定しているため,日本のような変動帯において侵食モデルの適用は進んでいなかった。従来,最もよく用いられてきた河川侵食モデルは,侵食速度が水流のエネルギー損失率に比例すると仮定するStream power model である。Stream power model は勾配と流域面積以外の侵食に関わる様々な要因を一つの係数にまとめて取り扱う単純なモデルであるため,基盤岩強度の影響を独立に組み込むことは困難だが,近年になって経験的な補正係数を用いて基盤岩強度を考慮するモデルが提案されている。一方,河川侵食に関わる物理的素過程を考慮するモデルも考案されている。Sediment flux dependent model は河川で運搬される礫が基盤岩に衝突することで侵食が起きると仮定するモデルである。このモデルは粒径,岩石強度,掃流砂量などの侵食に関わるパラメーターを陽に含んでおり,実際の河川で計測した岩石の物性値をモデルパラメーターとして用いることができる。そこで,本研究は変動帯における多様な基盤岩強度を考慮できる侵食モデルを検討するため,基盤岩強度を考慮したStream power model とSediment flux dependent model を阿武隈川流域河川に適用し,一定勾配の河川が平衡状態にいたるまでの地形変化を計算した。そして,計算結果を実際の特性地形と比較することで,それぞれのモデルにおける地形再現性の違いを検討した。その結果,基盤岩強度を考慮したStream power model では,基盤岩強度の影響が平衡状態の河川勾配に大きく表れることが明らかになった。一方,Sediment flux dependent model では,基盤岩強度の影響は非平衡状態のときに強く表れるのに対し,平衡状態のときにはその影響は薄れることがわかった。さらに,両者の平衡状態での河床地形の計算結果を比較すると,より実際と近い形状が得られたのはSediment flux dependent model の計算結果であった。本研究の成果は,変動帯の多様な基盤岩強度により適した河川侵食モデルを開発するための基礎となる。今後は,底面粗度などの本研究で文献値を用いたパラメーターについて検討および改良を行い,更に侵食平衡および非平衡状態の河川における事例研究を重ねることにより,より実際の河川に適合した侵食モデルの開発が可能となるだろう。