日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG26] 農業残渣焼却のもたらす大気汚染と健康影響および解決への道筋

2024年5月26日(日) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:林田 佐智子(総合地球環境学研究所/奈良女子大学)、Patra Prabir(Research Institute for Global Change, JAMSTEC)、山地 一代(神戸大学)

17:15 〜 18:45

[HCG26-P05] 北西インドにおける農業残渣焼却による大気汚染定量化のための集中観測キャンペーンの概要

*安富 奈津子1Patra Prabir1林田 佐智子1松見 豊2,1中山 智喜1,3、荒木 晶1梶野 瑞王4山地 一代5Poonam Mangaraj1、Biswal Akash1今須 良一6、村尾 るみこ1 (1.総合地球環境学研究所、2.名古屋大学、3.長崎大学、4.気象研究所、5.神戸大学、6.東京大学)

パンジャーブ州からデリーにかけての北西インド地域では、毎年、パンジャーブ地域でのコメ収穫後に大量に稲わらを焼却することに起因して発生する大量の大気汚染物質が、50㎞~200㎞離れたデリー地域に到達すると指摘されている。総合地球環境学研究所Aakashプロジェクトでは、2022ー23年のコメ収穫期(9ー11月)に、小型計測機器(CUPI-G)32台を同地域に設置し、PM2.5と大気汚染ガス(CO, NOx, O3)を観測し、汚染物質がデリーでの大気汚染にどの程度影響するかを定量化することを目的とする、集中観測キャンペーンを実施した。

気象要素(降水量、風向風速、境界層高度)・火災検知によるわら焼きの分布とPM2.5の高濃度イベントの関連性を、2022-23年に起きたいくつかの高濃度イベントに着目して分析した。
観測データの分析結果については、準リアルタイムにAakashプロジェクトホームページにて更新した。2022年秋(9月-11月)のPM2.5の日平均データについては、csvファイルをAakashプロジェクトのホームページで公開している。2023年のデータに関しても成果出版の進捗状況に合わせて公開準備を進める予定である。

さらに、観測データは大気化学輸送モデルのValidationにも用いられる。農業残渣焼却は、コメの収穫後に小麦を播種するまでの短い期間に行われる。大気汚染物質のエミッションは衛星による火災検知を基にしているが、1日2回の衛星観測では短時間の稲わら焼きを十分に検知できない。また、地上の可視画像を用いた焼却面積の推計も観測頻度が少ないと精度が劣る場合もある。そのため、プロジェクトでは、農家へ残渣焼却の割合や時期、時間帯などの聞き取りも行っている。
これらの情報を総合的に用いて、大気化学輸送モデルでの計算に必要なエミッションの補正を試みている。

本セッションの個別の発表で、衛星観測データを用いた残渣焼却量・面積の推計、気象要素から解析した大気汚染物質の輸送状況、気象イベントとPM2.5高濃度イベントとの関連性、PM2.5の高濃度イベントに対する二次生成の影響、大気化学輸送モデルシミュレーションの解析結果等、本キャンペーンの成果を詳細に紹介する。

この集中観測キャンペーンには、日本・インドの多くのAakashプロジェクトの研究者およびパンジャーブ地域で活動するNPOのCIPTの協力を得ている。

なお、本研究は総合地球環境学研究所Project No.14200133(Aakash)の研究支援を受けている。