日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS08] 地すべりおよび関連現象

2024年5月31日(金) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:王 功輝(京都大学防災研究所)、千木良 雅弘(公益財団法人 深田地質研究所)、今泉 文寿(静岡大学農学部)、齋藤 仁(名古屋大学 大学院環境学研究科)

17:15 〜 18:45

[HDS08-P05] 中部九州阿蘇火砕流台地上の未固結火山灰被覆層の層厚分布と特性―未固結火山灰堆積物の斜面崩壊リスク評価のための指標―

*下司 信夫1星住 英夫1宮縁 育夫2川畑 大作3 (1.産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門、2.熊本大学 くまもと水循環・減災研究教育センター、3.産業技術総合研究所 地質情報研究部門)

キーワード:火山、降下火砕物、未固結堆積物、阿蘇

傾斜した岩盤を覆う未固結の火山灰土(降下火砕物や火山灰を主体とする風成土など)は,地震動や豪雨により崩壊しやすく,しばしば土砂災害を引き起こしてきた.そのため,このような軟弱被覆層の分布は斜面崩壊のリスクを見積もるためには不可欠な情報である.しかし,従来の地質調査は基盤岩の岩相分布を示すことを主目的としてきたため,基盤岩を覆うこれらの被覆層は研究対象とされないことが多く,地質図幅でもこれらの降下火山灰からなる被覆層は図示されていないことが多い.そのため,従来の地質図からは軟弱被覆層の分布情報を得ることは困難であり,従来の地質図に提示された情報から斜面崩壊リスクを評価することが難しかった.本研究では,未固結火山灰土の崩壊による斜面災害のリスク評価手法開発のため,熊本県・大分県境付近に分布する阿蘇火砕流の溶結凝灰岩を覆う未固結の火山灰土を事例とし,その分布や層厚,その物性を明らかにし,それらを地理情報として地図上に図示することを試みた.
中部九州の阿蘇カルデラの東側には、主に約9万年前に噴出した阿蘇4火砕流の溶結凝灰岩が作る火砕流台地が広がっている.この火砕流台地の緩斜面は、阿蘇カルデラ中央火口丘から噴出した降下火砕物からなる未固結の火山灰土に被覆されている.本研究では火砕流台地を覆う火山灰土層の層厚を地表調査およびボーリング資料から求めた.その結果,火山灰土層全体の層厚や火山灰土層を構成する個々のユニットの層厚はいずれも,阿蘇カルデラ縁に近い火砕流台地の西側ほど厚く,阿蘇カルデラから東に離れるに従い減少する.また,多くの降下火砕物の分布軸は中央火口丘から東に向いているため,主軸から南北に離れるにつれ層厚は減少する.
火砕流台地を覆う火山灰土は成層しており,表層部数mは腐植に富む黒土層からなり,その下は褐色のローム層からなる.これらの中には複数の降下軽石層や火山砂層が挟在する.これらの降下火砕物はいずれも表層における風化作用を受け粘土鉱物化している.特に降下軽石層の大部分は著しく粘土化が進んでいる.これらの火山灰土層は,一般に埋没深度が増加すると土壌硬度が増加する.また,同一の露頭でも火山砂層は一般に土壌硬度が高く,粘土化した降下軽石層は極めて土壌硬度が低下している.また,マグマ水蒸気噴火の噴出物と考えられる成層した火山砂層はしばしば強く固結している.このような複数の堆積物が成層した火山土層は,強度的に成層した構造を持つ.火山灰層は降下物として堆積しているため斜面をマントルベディングしており,斜面の傾斜方向に沿って成層構造が傾斜する“流れ盤”構造をとることが多い.そのため,力学的な弱面にそって容易に崩壊する.火砕流台地を覆う火山灰土層の崩壊は,基盤をなす溶結凝灰岩と火山灰土層の境界をすべり面として崩壊する場合と,火山灰層中のユニットの境界や風化降下軽石層の層準をすべり面として崩壊する場合がみられる.そのため,火山灰土層の斜面崩壊のリスク評価のためには,火山灰土層全体やそれを構成する個々のユニットの層厚分布を考慮する必要がある.