日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS10] 防災リテラシー

2024年5月27日(月) 09:00 〜 10:15 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:高橋 誠(名古屋大学大学院環境学研究科)、木村 玲欧(兵庫県立大学)、座長:高橋 誠(名古屋大学大学院環境学研究科)、木村 玲欧(兵庫県立大学)


09:30 〜 09:45

[HDS10-03] 津波避難行動のリスク感受性とリスク精査態度に関連する脳領域の探索;シミュレーション課題を用いたfMRI研究

*田久保 将人1,2杉浦 元亮2,3、石橋 亮4、三浦 直樹5、田邊 亜澄2,3 (1.東北大学医学部医学科、2.東北大学加齢医学研究所、3.東北大学災害科学国際研究所、4.情報通信研究機構脳情報通信融合研究センター、5.東北工業大学工学部)

キーワード:防災、津波、避難行動、意思決定、fMRI

地震発生時の津波からの避難を促進する上で、ヒトの避難意思決定がどのように行われているかを解明することは、災害科学研究においても認知神経科学研究においても重要な課題であると言える。我々はこれまでの研究で津波避難シミュレーション課題(図1;A数値シナリオ, B感覚シナリオ)を開発し、津波避難行動には、リスク感受性(シナリオのリスクに関わらず避難する傾向)、リスク精査態度(リスクが高いシナリオで避難する傾向)、数値的情報より感覚的情報にリスクを感じる傾向がそれぞれ独立して寄与することを明らかにした。
本研究は、開発した津波避難シミュレーション課題を用いてfMRI実験を行い、実際に津波からの避難意思決定を行っている際の脳活動計測を試みることで、その根底にある神経基盤の解明を試みたものである。リスク感受性は行動実験で感情制御特性と正相関し、感情制御特性は感情反応領域(前帯状回(ACC), 島皮質(INS))で津波避難意思決定時の脳反応と負相関した(Takubo et al., in preparation)。そこで、リスク感受性については、感情反応領域(前帯状回(ACC), 島皮質(INS))と関連があるとの仮説を検証した。また、リスク精査態度については、数値的な情報に基づく意思決定では海馬(Hipp)が(Palombo et al., 2019)、感覚的な情報に基づく意思決定では感覚連合野(TPJ)が(Yomogida et al., 2014)、有意に活動しているとの先行研究があったことから、数値シナリオでは海馬(Hipp)が、感覚シナリオでは感覚連合野(TPJ)が関連するとの仮説を検証した。具体的には、開発した津波シミュレーション課題40問に統制用設問20問(図1C)を追加した計60設問の課題を設計し、津波避難意思決定を行う際に活動量が増える脳領域と各因子たちの相関を検討した。今回の解析では、特にリスク感受性、リスク精査態度と相関する脳領域を探索することを目的としたため、数値シナリオと感覚シナリオを分けて解析を行った。

方法:58名の20代成人(男性31名・女性27名;21.51±1.30(SD)歳)を対象としたfMRI実験を行った。参加者は、60試行の津波避難意思決定課題(数値シナリオ20問・感覚シナリオ20問・統制用シナリオ(図1C)20問;1避難するor2避難しない)を行い、その回答及び回答中の脳活動をfMRIにより計測した。統制用シナリオにおいて、正答率が60%以下の被験者については、不誠実回答者として解析から除外し、55名分のデータを解析対象とした。解析にはSPM解析を用い、感覚シナリオ・数値シナリオそれぞれで重回帰分析を行った。従属変数としては、画素ごとの脳活動(血流量変化)推定値を採用した。独立変数には、リスク感受性として各被験者の平均避難率を、リスク精査態度としてシナリオの平均避難率を標準化 したものを被験者の回答データとかけ合わせた行列積を感覚シナリオ・数値シナリオごとに算出し、採用した。
結果:数値シナリオにおける脳活動について、リスク精査態度と正に相関する有意な領域が海馬(Hipp)にて発見された(p=0.012)(図2)。リスク感受性と相関する有意な領域は発見されなかった。感覚シナリオにおける脳活動について、リスク感受性と負に相関する有意な領域が前帯状皮質背側部(dACC)に発見された(p=0.008)(図3)。リスク精査態度と相関する有意な領域は発見されなかった。

考察:リスク精査態度と数値シナリオにおける海馬の活動が正に相関したことは、これまでの認知神経科学研究と合致する。また、リスク感受性と前帯状皮質背側部(dACC)が感覚シナリオにおいて、負に相関している点は、我々の先行研究結果である感情制御特性とリスク感受性の負相関と一致している。この結果は、リスク感受性の背景に感情反応領域の低活動があることを示している。また防災リテラシーの醸成という観点においては、2つの異なる態度に対するアプローチが有効である可能性を示唆している。