17:15 〜 18:45
[HDS10-P03] 御嶽山における登山者参加型避難訓練2022・2023:アンケートとビデオ映像に基づく登山者の避難行動と防災対策の評価
キーワード:登山者参加型避難訓練、活火山、避難行動、御嶽山
1.はじめに
避難訓練は,避難者のパフォーマンスの評価と向上に有効な手段の一つである(e.x., Gwynne et al.,2020).御嶽山では,2014年9月27日(土)午前11時52分の噴火に伴って,山頂の剣ヶ峰(3067m)と火口周辺の登山道にいた登山者が犠牲となった.噴火後にハード対策が8年掛けて行われ,退避壕と防災行政無線および携帯電話無線基地局が地元の自治体によって整備された.また噴火で破壊された山小屋と神社に関しては,修繕や建てかえが行われた.これらの施設と設備は緊急時に,それぞれ避難施設および防災設備として機能する必要がある.そのため火山の地元の木曽町は,黒沢口を利用する登山者を対象に2022年9月17日(土)と2023年8月26日(土)に,それぞれ突発的な噴火を想定した避難訓練を実施した.本研究は,訓練に参加した登山者へのアンケートと当日撮影した映像に基づき,1)登山者の避難行動,2)防災対策の効果と課題,および3)避難訓練の意義を明らかにする.
2.避難訓練の実施方法
避難訓練は,標高約3000mの高所で安全第一を再優先に実施された.この訓練では,木曽町の職員が,役場の支所の防災行政無線機から御嶽山域に設置された3つの屋外拡声器からマニュアルに従ってサイレンを一斉吹鳴し,続いて噴火を想定して登山者に避難を呼びかけた.登山者には,訓練当日の朝,登山口にて5つの避難行動を記した訓練指示書を配布した.避難行動の内容は,以下①から⑤の順に,①頭部・背中の保護,②避難施設の視認,③避難壕や山小屋があれば歩いて避難,④近くに避難できる場所がなければ,その場にしゃがんでとどまる,および⑤訓練終了後に自分の位置を確認し,噴火時に自分ができることを考えるである.
3.結果
3.1.訓練の重要性:2022年と2023年のアンケート回収率はそれぞれ54.2%(約640人中347人)および49.5%(198人中99人)であった.当日,御嶽山へ登山に訪れた登山者の約半数が,この訓練に参加したと推定される.しかし,今回の避難訓練では,役場から防災行政無線機で呼びかけた避難放送の一部が,実際の現場で流れなかったトラブルが発生した.木曽町は訓練後,その原因がヒューマンエラーであったことを解明し,既に改善策を施した.したがって,避難訓練は防災対策の有効性と脆弱性を検証する上で極めて役立つことが明らかになった.また,訓練や研修,点検の実施が,災害発生時の対応におけるヒューマンエラー減らす上で基盤とされる.なお,今回の音声の問題は訓練の進行に大きな影響を与えなかった.
3.2.剣ヶ峰エリア:避難行動を映像で確認すると,ほとんどの登山者が,神社奥社の建物および避難壕に避難した.ただし,2022年の訓練をアンケートで確認すると,8人の登山者(56人中)が,避難施設の中ではなく,建造物の陰および岩の陰に避難していることが明らかになった.なお2023年の訓練では,神社の神職が登山者を避難させる誘導を行った.
3.3.登山道エリア:登山者の行動は,多様であった.2022年と2023年の調査では,それぞれ,その場に留まる人や避難しなかった人が31.0%および20.4%,岩の陰や建造物の陰に避難した人が32.9%および26.5%,建物や避難壕の中に避難した人が15.8%および22.4%,下山・登山を続けた人(登山を中止し,下山を含む)が19.0%および20.4%であった.2022年の調査では,避難しなかった理由として,「何をしたら良いのかが分からなかった」ことを20人(19.9%)が挙げている.避難壕に避難した人は,時間的に5分程度の距離であり,また山頂に避難壕があることを知っていたため,頂上を目指した.映像には,歩き続ける人,立ち止まる人,ヘルメットを被り始める人,周囲の様子を見計らう人が記録されていた.
3.4.山小屋エリア:アンケートによると,サイレン音が聞こえにくかった傾向が認定された.特に,石室山荘と二ノ池ヒュッテでは,サイレン音が聞こえなかったとの報告があった.
4.考察と結論
アンケートの結果から,山頂と山小屋周辺では,避難施設が良く見えたため,多くの人が施設内へ避難したと推定される.他方で,登山道では,避難施設が見えにくい傾向が導かれた.また登山道は自然の中にあり、登山者は不安や戸惑いを感じることが認められた.登山道では,身を隠す場所が少ないと考えられる.ほとんどの登山者は登山に集中しており,火山噴火のリスクを感じながら登山する人は半数程度と推定される.
避難訓練は,避難者のパフォーマンスの評価と向上に有効な手段の一つである(e.x., Gwynne et al.,2020).御嶽山では,2014年9月27日(土)午前11時52分の噴火に伴って,山頂の剣ヶ峰(3067m)と火口周辺の登山道にいた登山者が犠牲となった.噴火後にハード対策が8年掛けて行われ,退避壕と防災行政無線および携帯電話無線基地局が地元の自治体によって整備された.また噴火で破壊された山小屋と神社に関しては,修繕や建てかえが行われた.これらの施設と設備は緊急時に,それぞれ避難施設および防災設備として機能する必要がある.そのため火山の地元の木曽町は,黒沢口を利用する登山者を対象に2022年9月17日(土)と2023年8月26日(土)に,それぞれ突発的な噴火を想定した避難訓練を実施した.本研究は,訓練に参加した登山者へのアンケートと当日撮影した映像に基づき,1)登山者の避難行動,2)防災対策の効果と課題,および3)避難訓練の意義を明らかにする.
2.避難訓練の実施方法
避難訓練は,標高約3000mの高所で安全第一を再優先に実施された.この訓練では,木曽町の職員が,役場の支所の防災行政無線機から御嶽山域に設置された3つの屋外拡声器からマニュアルに従ってサイレンを一斉吹鳴し,続いて噴火を想定して登山者に避難を呼びかけた.登山者には,訓練当日の朝,登山口にて5つの避難行動を記した訓練指示書を配布した.避難行動の内容は,以下①から⑤の順に,①頭部・背中の保護,②避難施設の視認,③避難壕や山小屋があれば歩いて避難,④近くに避難できる場所がなければ,その場にしゃがんでとどまる,および⑤訓練終了後に自分の位置を確認し,噴火時に自分ができることを考えるである.
3.結果
3.1.訓練の重要性:2022年と2023年のアンケート回収率はそれぞれ54.2%(約640人中347人)および49.5%(198人中99人)であった.当日,御嶽山へ登山に訪れた登山者の約半数が,この訓練に参加したと推定される.しかし,今回の避難訓練では,役場から防災行政無線機で呼びかけた避難放送の一部が,実際の現場で流れなかったトラブルが発生した.木曽町は訓練後,その原因がヒューマンエラーであったことを解明し,既に改善策を施した.したがって,避難訓練は防災対策の有効性と脆弱性を検証する上で極めて役立つことが明らかになった.また,訓練や研修,点検の実施が,災害発生時の対応におけるヒューマンエラー減らす上で基盤とされる.なお,今回の音声の問題は訓練の進行に大きな影響を与えなかった.
3.2.剣ヶ峰エリア:避難行動を映像で確認すると,ほとんどの登山者が,神社奥社の建物および避難壕に避難した.ただし,2022年の訓練をアンケートで確認すると,8人の登山者(56人中)が,避難施設の中ではなく,建造物の陰および岩の陰に避難していることが明らかになった.なお2023年の訓練では,神社の神職が登山者を避難させる誘導を行った.
3.3.登山道エリア:登山者の行動は,多様であった.2022年と2023年の調査では,それぞれ,その場に留まる人や避難しなかった人が31.0%および20.4%,岩の陰や建造物の陰に避難した人が32.9%および26.5%,建物や避難壕の中に避難した人が15.8%および22.4%,下山・登山を続けた人(登山を中止し,下山を含む)が19.0%および20.4%であった.2022年の調査では,避難しなかった理由として,「何をしたら良いのかが分からなかった」ことを20人(19.9%)が挙げている.避難壕に避難した人は,時間的に5分程度の距離であり,また山頂に避難壕があることを知っていたため,頂上を目指した.映像には,歩き続ける人,立ち止まる人,ヘルメットを被り始める人,周囲の様子を見計らう人が記録されていた.
3.4.山小屋エリア:アンケートによると,サイレン音が聞こえにくかった傾向が認定された.特に,石室山荘と二ノ池ヒュッテでは,サイレン音が聞こえなかったとの報告があった.
4.考察と結論
アンケートの結果から,山頂と山小屋周辺では,避難施設が良く見えたため,多くの人が施設内へ避難したと推定される.他方で,登山道では,避難施設が見えにくい傾向が導かれた.また登山道は自然の中にあり、登山者は不安や戸惑いを感じることが認められた.登山道では,身を隠す場所が少ないと考えられる.ほとんどの登山者は登山に集中しており,火山噴火のリスクを感じながら登山する人は半数程度と推定される.
