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[HDS11-09] 千島海溝および日本海溝沿いで発生する地震津波の長期評価に基づく2海域統合確率論的ハザード評価(その2)
キーワード:津波、地震、確率論的津波ハザード評価、長期評価
1.はじめに
地震調査委員会は日本列島周辺で発生する海溝型地震の発生領域、地震規模、発生確率等に関する長期評価を公表している。以前、我々は、千島海溝および日本海溝沿いの地震活動の長期評価(地震調査委員会、2017、2019)に基づき、長期評価された地震のうち概ねM7.8程度以上の地震を対象とした2海域統合版の確率論的津波ハザード評価(PTHA)について報告した(平田・他、SSJ2022)。今回我々は、平田・他が対象としなかったM7.8程度未満の地震も含め、上記2海域それぞれの長期評価で発生確率、発生領域、地震規模が評価/言及されている地震すべてを網羅した、M7以上の地震に対する2海域統合版PTHA(現時点でのハザード評価)を試算したので報告する。
2.波源断層モデル群の構築
長期評価で設定された千島海溝および日本海溝沿いの地震発生領域に、沈み込む太平洋プレートの三次元形状モデルを用いて、プレート間地震(超巨大地震、プレート間巨大地震、ひとまわり小さいプレート間地震、津波地震)およびプレート内地震(アウターライズ地震、スラブ内地震)の特性化波源断層モデル群を設定した。プレート間地震の波源断層モデルは約5 km×5 kmの要素断層の集合として表現した。構築した波源断層モデルはMw7.0からMw9.2までの合計7,357個である。
3.津波伝播遡上計算
Okada (1992) とTanioka & Satake (1996) の方法を用いて初期水位を計算し、最小50 m計算格子の陸上・海底地形データのネスティング・グリッドを用いて、移流項、海底摩擦項、全水深項を含む非線形長波方程式に、陸側に遡上境界条件、海側に透過境界条件を設定し、差分法を適用して津波伝播遡上計算を実施した。構築した波源断層モデルすべてに対して、北海道から沖縄県までの海岸(太平洋岸、オホーツク海岸、東シナ海岸等)に設定したハザード評価点(約56万地点)における最大水位上昇量を計算した。
4.地震発生確率モデル
基本的に長期評価(地震調査委員会、2017、2019)がそれぞれの地震に対して適用した地震発生確率モデルを採用した。長期評価で発生領域あるいは地震規模が評価対象とされたが、発生確率の言及がない地震に対する地震発生確率モデルは、当該地域の標準的なGR則を仮定し、定常ポアソン過程に従うと考えた。
5.確率論的統合
千島海溝および日本海溝沿いそれぞれで発生する地震の津波伝播遡上計算結果を確率論的に統合するため、以下のように考えた。
1) 基本的に地震は互いに独立に発生する。
2-a) 【震源を予め特定して長期評価された地震の場合】地震が実際に発生する前は、その震源域(巨視的波源断層モデル)の位置および形状は多様な状態のものが起こり得ると考えられるため、その地震が発生した時に起こり得ると考えられる、異なる位置・形状を持つ震源域同士は互いに排反である。
2-b) 【震源を予め特定しにくい地震の場合】異なる位置・形状を持つ震源域同士は互いに独立である。
3) 地震が実際に発生する前は、地震のすべり量分布は多様な状態のものが起こり得ると考えられるため、その地震が発生した時に起こり得ると考えられる、異なるすべり不均質パターンを持つ波源断層モデル(微視的波源断層モデル)同士は互いに排反である。
6.確率論的津波ハザード評価結果
現時点でのハザード評価結果の一例として、北海道から静岡県における、今後30年間で海岸の最大水位上昇量が3mを超える30年超過確率分布図を示す。北海道襟裳岬以東の太平洋岸の多くの地点で30年超過確率が20%以上と推定され、根室半島付近では60%に達する地点も見られた。東北地方太平洋岸では多くの地点で10%程度以上と推定され、40%に達する地点も見られた。平田・他の試算結果と比較すると、北海道の太平洋岸においては概ね数%、最大で10%程度の違いが見られ、概して本稿の30年超過確率が高くなる傾向にあった。
本稿のPTHAは、長期評価で評価された地震が発生した場合に限定される、条件付きのPTHAである。今後、長期評価で評価されていないが、科学的に発生し得ると考えられる地震なども考慮した、現時点でのハザード評価および長期間での平均的なハザード評価を実施する予定である。
本研究は防災科研の研究プロジェクト「自然災害のハザード・リスクに関する研究開発」の一環として実施している。
地震調査委員会は日本列島周辺で発生する海溝型地震の発生領域、地震規模、発生確率等に関する長期評価を公表している。以前、我々は、千島海溝および日本海溝沿いの地震活動の長期評価(地震調査委員会、2017、2019)に基づき、長期評価された地震のうち概ねM7.8程度以上の地震を対象とした2海域統合版の確率論的津波ハザード評価(PTHA)について報告した(平田・他、SSJ2022)。今回我々は、平田・他が対象としなかったM7.8程度未満の地震も含め、上記2海域それぞれの長期評価で発生確率、発生領域、地震規模が評価/言及されている地震すべてを網羅した、M7以上の地震に対する2海域統合版PTHA(現時点でのハザード評価)を試算したので報告する。
2.波源断層モデル群の構築
長期評価で設定された千島海溝および日本海溝沿いの地震発生領域に、沈み込む太平洋プレートの三次元形状モデルを用いて、プレート間地震(超巨大地震、プレート間巨大地震、ひとまわり小さいプレート間地震、津波地震)およびプレート内地震(アウターライズ地震、スラブ内地震)の特性化波源断層モデル群を設定した。プレート間地震の波源断層モデルは約5 km×5 kmの要素断層の集合として表現した。構築した波源断層モデルはMw7.0からMw9.2までの合計7,357個である。
3.津波伝播遡上計算
Okada (1992) とTanioka & Satake (1996) の方法を用いて初期水位を計算し、最小50 m計算格子の陸上・海底地形データのネスティング・グリッドを用いて、移流項、海底摩擦項、全水深項を含む非線形長波方程式に、陸側に遡上境界条件、海側に透過境界条件を設定し、差分法を適用して津波伝播遡上計算を実施した。構築した波源断層モデルすべてに対して、北海道から沖縄県までの海岸(太平洋岸、オホーツク海岸、東シナ海岸等)に設定したハザード評価点(約56万地点)における最大水位上昇量を計算した。
4.地震発生確率モデル
基本的に長期評価(地震調査委員会、2017、2019)がそれぞれの地震に対して適用した地震発生確率モデルを採用した。長期評価で発生領域あるいは地震規模が評価対象とされたが、発生確率の言及がない地震に対する地震発生確率モデルは、当該地域の標準的なGR則を仮定し、定常ポアソン過程に従うと考えた。
5.確率論的統合
千島海溝および日本海溝沿いそれぞれで発生する地震の津波伝播遡上計算結果を確率論的に統合するため、以下のように考えた。
1) 基本的に地震は互いに独立に発生する。
2-a) 【震源を予め特定して長期評価された地震の場合】地震が実際に発生する前は、その震源域(巨視的波源断層モデル)の位置および形状は多様な状態のものが起こり得ると考えられるため、その地震が発生した時に起こり得ると考えられる、異なる位置・形状を持つ震源域同士は互いに排反である。
2-b) 【震源を予め特定しにくい地震の場合】異なる位置・形状を持つ震源域同士は互いに独立である。
3) 地震が実際に発生する前は、地震のすべり量分布は多様な状態のものが起こり得ると考えられるため、その地震が発生した時に起こり得ると考えられる、異なるすべり不均質パターンを持つ波源断層モデル(微視的波源断層モデル)同士は互いに排反である。
6.確率論的津波ハザード評価結果
現時点でのハザード評価結果の一例として、北海道から静岡県における、今後30年間で海岸の最大水位上昇量が3mを超える30年超過確率分布図を示す。北海道襟裳岬以東の太平洋岸の多くの地点で30年超過確率が20%以上と推定され、根室半島付近では60%に達する地点も見られた。東北地方太平洋岸では多くの地点で10%程度以上と推定され、40%に達する地点も見られた。平田・他の試算結果と比較すると、北海道の太平洋岸においては概ね数%、最大で10%程度の違いが見られ、概して本稿の30年超過確率が高くなる傾向にあった。
本稿のPTHAは、長期評価で評価された地震が発生した場合に限定される、条件付きのPTHAである。今後、長期評価で評価されていないが、科学的に発生し得ると考えられる地震なども考慮した、現時点でのハザード評価および長期間での平均的なハザード評価を実施する予定である。
本研究は防災科研の研究プロジェクト「自然災害のハザード・リスクに関する研究開発」の一環として実施している。