日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM03] 地形

2024年5月28日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:岩橋 純子(国土地理院)、齋藤 仁(名古屋大学 大学院環境学研究科)、高波 紳太郎(明治大学)、Newman R Newman(Hokkaido University)


17:15 〜 18:45

[HGM03-P01] 笠野原台地における河成段丘の形成時期

*高波 紳太郎1 (1.明治大学)

キーワード:火砕流台地、河成段丘、シラス、入戸火砕流、下刻作用、串良川

1.笠野原台地の地形
笠野原台地は九州南部を代表する火砕流台地であり、肝属平野に流入した入戸火砕流(3万年前)および阿多火砕流(11万年前)の堆積物が肝属川や串良川といった河川の侵食を受けたものである。当地域の入戸火砕流堆積物は非溶結で、溶結凝灰岩が主体の阿多火砕流堆積物とは対照的に、河川侵食を受けやすい特徴をもつ。台地の平坦面は入戸火砕流堆積面を含む高位段丘面が大部分を占め、残りは河谷沿いの小規模な低位段丘面群からなる。横山(2000)によれば、高位面のうち笠野原面を構成する砂礫層は角礫を主体とする布状洪水の堆積物で、東部にのみ分布する新堀面の段丘構成層は笠野原面よりも粗粒で円磨された河川堆積物である。これらの段丘面は入戸火砕流堆積後における串良川の下刻過程を示している。

2.研究目的
 笠野原台地を構成する各段丘面は、入戸火砕流堆積後に生じた河川の急速な下刻作用によって、いずれも短期間のうちに形成されたものと考えられてきた。しかしながら、先行研究からは笠野原における段丘の形成時期が入戸火砕流の堆積直後であることを示す年代資料が確認できない。本研究は段丘面を覆うローム層の下部に含まれるテフラおよび古土壌の年代に基づいて、特に低位段丘面の形成時期を明らかにし、河川が大規模火砕流堆積後の下刻に要した期間の長さについて検討する。

3.調査手法
 低位段丘面の4地点(鹿屋市上高隅町浦石原と鶴峰、串良町細山田の平瀬、東串良町岩弘中)および新堀面の2地点(串良町細山田の中野・串良町有里の中郷)で表層の露頭を観察し、堆積物を記載した。浦石原と鶴峰、平瀬の3地点では砂礫層との境界部およびテフラ直下の各2点で古土壌を採取し、前処理を含む放射性炭素年代測定(AMS法)を株式会社パレオ・ラボに依頼した。14Cの半減期はLibbyの5568年とし、IntCal20を用いて歴年代に較正した。また、中郷を除く5地点でテフラを採取し(位置は図1を参照)、火山ガラスに含まれる主要9元素(Na, Mg, Al, Si, K, Ca, Ti, Mn, Fe)の酸化物について、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(JEM-6390LA、日本電子株式会社)を用いて試料あたり20-30点で重量比を測定した。対比のために垂水市堀切の露頭で採取した鬼界アカホヤテフラ(K-Ah)、桜島薩摩テフラ(Sz-P14)および桜島高峠6テフラ(Sz-P17)の火山ガラスについても同様に測定した。

4.各露頭の観察結果と試料分析結果
 新堀面の2地点と低位段丘面の浦石原および鶴峰では、黄白色で最大3 cm程度の軽石からなる層厚10-50 cmの降下軽石層がみられ、これらの化学組成はSz-P14のものと近い結果を示した。岩弘では前述の軽石層を欠き、数mmの軽石を含む橙色のガラス質火山灰層が観察された。この火山灰からはK-Ahと共通した結果が得られた。平瀬でもこれに似た特徴をもつ火山灰層を確認したが、化学組成はガラスごとのばらつきが大きく、一部がK-Ahと重なった。
 古土壌の較正年代は、砂礫層と降下テフラに挟まれた部分について上端と下端の値を総合すると、浦石原で13300-9800年前、鶴峰で15500-10500年前、平瀬では10300-9200年前という結果であった。

5.低位段丘面の形成時期
 火山ガラスの分析結果から、浦石原と鶴峰でみられた降下軽石層はSz-P14に、岩弘の火山灰層はK-Ahにそれぞれ対比できる。平瀬の火山灰層はK-Ahと他のテフラを含む、再移動による堆積物と考思われる。古土壌の年代を加味した各段丘の形成時期は、上流側(浦石原・鶴峰)で1.3万~1.6万年前、下流側では1.0万~0.73万年前と推定され、入戸火砕流の堆積直後であった可能性は小さい。串良川の下刻が遅れた理由として、埋没した阿多溶結凝灰岩が侵食に抵抗したことが考えられる。

文献 横山勝三 2000.鹿児島県笠野原台地の地形と生成過程.地形 21: 277-290.
謝辞 化学分析に際し、東京大学大学院新領域創成科学研究科の須貝俊彦教授にはSEM-EDSを使用させていただき、同研究室の皆様に大変お世話になった。感謝申し上げます。本研究は科研費(19J20125)の補助を受けた。