日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM03] 地形

2024年5月28日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:岩橋 純子(国土地理院)、齋藤 仁(名古屋大学 大学院環境学研究科)、高波 紳太郎(明治大学)、Newman R Newman(Hokkaido University)


17:15 〜 18:45

[HGM03-P13] 林野火災焼損域における土砂流出量とその規定要因―岩手県尾崎半島の事例―

*佐藤 穂岳1高橋 直也2太田 凌嘉3,4 (1.国立大学法人東北大学、2.東北大学大学院理学研究科地学専攻、3.中央大学理工学研究所、4.日本学術振興会特別研究員)

キーワード:林野火災、土砂流出量、航空レーザ測量データ

林野火災の発生頻度や規模は,気候変動や土地利用の変化によって増加しており,今後さらに増加すると予測されている.林野火災が発生すると,その影響は地形学的,水文学的,生態学的プロセスの多岐にわたる.火災の影響により地表においては,樹冠の減少,土壌撥水性の増加,表層被覆の喪失,土壌有機物の消費といった状態変化が起こる.これらの変化は,地表流の増加や表面侵食の加速のような水文学的,地形学的プロセスに影響を与える.その結果として,林野火災によって土砂流出量が増加することが示されてきた.これまで,林野火災後の土砂流出量に様々な要素が影響を与えることが示されてきたが,どの要素が土砂流出量に対して相対的に大きな影響力を持つかを定量的に示した事例は見られない.そのため,本研究では,現地調査と国土地理院から提供を受けたALS(航空レーザ測量)データの解析により,火災後の土砂流出量を推定し,土砂流出量の規定要因を明らかにすることを目的とした.
調査対象は岩手県釜石市尾崎半島で2017年に発生した林野火災とした.現地調査では,ハンドオーガーを用いて土層厚の測定を行った.土層厚と地形曲率は線形的な負の相関関係を示すことが確認されている.そこで,焼損域と対照域において測定した土層厚とALSデータを用いて算出した地形曲率との対応関係を求め,対照域と焼損域の土層厚を比較した.その結果,焼損域の土層厚がより薄く,火災によって土砂流出量が増加したことが推測された.その上で,ALSデータから作成した火災前後の数値地形モデルを用いて土砂流出量を算出した.その結果,火災後3年間における1 m2あたりの土砂流出量は対照域では0.08 m,焼損域では0.22 mであった.したがって,火災後3年間には焼損域において土砂流出量が2.82倍に増大したことが推測される.土砂流出量の規定要因を検討するために,火災後の土砂流出量を目的変数,諸要素(焼損度,伐採の有無,標高,傾斜,地形曲率,傾斜方位)を説明変数とした重回帰分析を行い,各説明変数の標準化偏回帰係数を比較した.その結果,土砂流出量に強く影響した要素は焼損度,伐採の有無,地形曲率であり,伐採地であり焼損度が高いほど地形曲率の影響力は大きい傾向があった.また,火災前後の地形量変化を検出するために,火災前後の地形量差分と火災後の土砂流出量の相関係数を求めた.その結果,土砂流出量と地形曲率変化の間にはやや強い正の相関が見られた.これらのことから,高程度の焼損と伐採による地表の状態変化によって土砂流出量が増加したと考えられる.また,土砂流出量が増加すると,土砂移動は地形曲率に一定程度従って発生し,火災後には地形曲率に規定された山地の従順化が起こった可能性がある.以上のように,ALSデータの解析から推測される林野火災後の土砂動態の全体的な傾向は,拡散方程式型のモデルからの予測と概ね一致していた.