日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR05] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

2024年5月30日(木) 09:00 〜 10:30 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:白井 正明(東京都立大学)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 )、吾妻 崇(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、里口 保文(滋賀県立琵琶湖博物館)、座長:白井 正明(東京都立大学)、石輪 健樹(国立極地研究所)

09:00 〜 09:15

[HQR05-01] 気候条件に対する世界的な人口分布の変遷

*津田 和樹1佐野 太一1沖 大幹1 (1.東京大学)

キーワード:人間居住圏、人口密度、ケッペンの気候区分、歴史的変遷

人類がどのような気候条件に居住しているかを表すhuman climate nicheの研究では、対象の気候条件に当てはまる総人口を対象の気候条件に当てはまる総面積で割った密度を用いて分析が行われてきた。代表的なものとしてXuら(2020)の研究は、この密度を用いて人類の年平均気温に対するhuman climate nicheのモデル化を行うとともに、人類が居住する場所は年平均気温条件、年降水量条件に厳しく制限されており、それは過去から変わっていないということを示した。
 しかしながら、この研究では対象の気候条件下の総人口を同じ気候条件下の総面積で割った密度を用いて分析が行われているため、対象の気候条件下にある個々の地域の人口密度自体を評価することはできていない。気候条件と人口密度の関係に関しては、Blancら(2008)がサブサハラ地域を対象に降水量と人口密度の関係を分析しているが、これは特定の降水量条件下に存在するグリッドの人口密度の分布がどのようであるかを調べたもので、人口密度ごとにその気候条件を調べた研究は行われていないようである。
 本研究では、災害リスクの高さなどを考慮すると人口密度が高い地域の気候条件に関する知見は重要であることをふまえて、人口密度がその年代で相対的に高い地域の気候条件を調べ、その歴史的変遷(850-2000)を明らかにした。過去の気候データとしてCMIP5に貢献するためのPMIP3下にあるpast1000プロジェクトで行われた複数の気候モデルの計算結果を、人口データとしてHistorical Database of the Global Environment Population (HYDE)(Klein,2017)を利用している。気候条件の分類の際には、ケッペンの気候区分を用いた。
 その結果、各年代の総人口の10%を含む最も人口密度が高いクラスの気候区分は、現代にかけて多様化してきていることが明らかになった。例えば、850年、1350年、1700年の各年代の総人口の10%を含む最も人口密度が高いクラスの存在する条件に、亜寒帯の気候区分はなかったが、1850年には最も人口密度が高いグリッドの約20%を占めるようになり、その後の時代も一定の割合を占める。熱帯湿潤気候Afは各年代の総人口の10%を含む最も人口密度が高いクラスの存在する気候条件のわずかな割合しか占めてこなかったが、1950年以降10%弱占めるようになる。
 気候のデータを2000年のものに統一して各年代の分析を行っても、傾向は変わらなかったことから、このような多様化の大部分は、人口分布の変遷で説明できると思われる。例えば、1850年に、総人口の10%を含む最も人口密度が高いクラスの気候条件に亜寒帯が含まれるようになる理由は、それ以前の時代に総人口の10%を含む最も人口密度が高いクラスに入っていたグリッドの気候条件が寒冷化したからではなく、総人口の10%を含む最も人口密度が高いクラスに入っていたグリッドの場所が中国や欧州などのそれまでよりも高緯度帯にシフトしたからである。
 この研究は、気候が人類の発展できる場所をどう制約してきたのかを考えるうえで、助けになるだろう。人類全体の居住圏はあまり変わってきていないかもしれないが、人類が発展する気候条件は広がってきたのである。