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[HQR05-P07] 基質の岩種組成から考える相模川上流域での富士相模川ラハール堆積物の特徴
キーワード:ラハール堆積物、富士相模川泥流、相模川、桂川、凝集粒子
はじめに
相模川(上流では桂川)は富士山東麓の山中湖を水源とし,丹沢山地北部-東部の縁辺部を時計回りに流下して,相模湾中央部に注ぐ全長約100 kmの河川である.相模川沿いでは,上流域の都留市から下流域の座間市付近まで,約2.2万年前に発生した富士相模川泥流(ラハール)堆積物が分布する(例えば,町田,2009).ラハールは火山砕屑物が水と共に流れ下る現象の総称であり,火山噴火や山体崩壊後も降雨などにより繰り返し発生する.桂川上流域(大月より上流側)の富士相模川ラハール堆積物(FSLD)の基質の岩種組成から,2次的なラハールの発生など,ラハールの流下の様相を捉えることができるか検討した.
地域概要
FSLDは富士吉田付近では新しい溶岩に完全に覆われ,西桂町付近より下流から,桂川の谷の北端を流れる支流の柄杓流(しゃくながれ)川沿いにて高さ20m近くの谷壁で観察できるようになる.柄杓流川と桂川との合流点付近からは,桂川の谷壁にもFSLDは露出するが(例えば,相模原市地形・地質調査会,1990),近年多くの部分がコンクリート製擁壁などに覆われている.リニア実験線が桂川谷を横切る都留市大原地区やその下流の田野倉地区では,FSLDより若い溶岩は低位の段丘面のみ覆うようになり,FSLDはより高位の地形面を形成しているが(例えば,相模原市地形・地質調査会,1990;高田ほか,2016),地形面上の都市化のため,FSLDを観察できるのは主に桂川の谷壁のみに限られる.柄杓流川から相模川下流の相模原市・座間市にかけ,FSLDは大部分が無構造の中礫層と認識されてきたが,桂川上流域から中流域の四方津付近にかけては,中礫層の下位に無構造の巨礫層が存在することが確認され, FSLDが下部の巨礫層と上部の中礫層からなることがわかった(Shirai et al., 2022など).この巨礫層の上限高度は現在の桂川の河床高度とほぼ一致し,下限を確認することは至難であるが,都留市北端(田野倉地区北端)では例外的に厚さ10mの巨礫層の最下部まで観察することが可能である.
試料採取および試料処理
基質の岩種組成を検討するため,FSLD上部の中礫層のほぼ全体を観察できる都留市南西部の柄杓流川の谷壁(Site-1)において中礫層試料(下位からユニット1〜7)を,唯一巨礫層最下部を確認できる都留市北端の露頭(Site-2)において中礫層試料(上部,下部)と巨礫層試料(上部,中部,下部,基底部)を採取した.都留市大原地区(Site-3)においても巨礫層が比較的厚く露出しており,アプローチ可能であった巨礫層中部の2層準で試料を採取した.またSite-1とSite-3の間の3ヶ所(Sites-A〜C)で,谷底に露出する巨礫層がFSLDの一部か確認するため,試料を採取した(図).
試料には超音波洗浄を4〜12時間施し,合間に試料を指でほぐした後,篩分けにより十分な個数が確保できる径 2〜1 mm の粒子を選別し,乾燥後に鏡下で岩種の同定を行った(1試料200粒前後).
結果および考察
基質の径2〜1mmの粒子(極粗粒砂相当)には玄武岩片,スコリア,基盤岩片(凝灰岩など)の他に,中粒砂程度の大きさの鉱物粒子や岩片が多数凝集した粒子が認められた.これは細粒分を含むFSLDが再堆積したものと考えられ,2次的なラハールの指標となり得る.各地点での基質の岩種組成の変化および,各地点間の比較から,以下が推定された.(ⅰ)凝集粒子の含有率は,例外もあるものの巨礫層より中礫層で高く,中礫層が2次的なラハール堆積物であることを示唆する.(ⅱ)中礫層の凝集粒子の含有率はSite-1よりSite-2で高く,流下に伴いラハール堆積物の再移動・再堆積が生じていると考えられる.(ⅲ)Site-1の巨礫層下部では凝灰岩など基盤岩片が大量に含まれるのに対し,巨礫層中上部では基盤岩片の含有率が減少し,巨礫層の下部が既に桂川の谷全体に広がっていたことを示唆する.iv) 凝集粒子の含有率を測定することにより,桂川中流域に分布するFSLD巨礫層が初生的なラハールイベントの産物か2次的なラハールの産物か判別できると期待される.
謝辞:本研究の一部には東京都立大学火山災害研究センター(現・島嶼火山都市災害研究センター)の研究費を使用した.
引用文献:
町田洋(2009)相模原市史自然編.pp.159-165.相模原市.
相模原市地形・地質調査会(1990)相模原の地形・地質調査報告書(第4報).63p,相模原市.
Shirai et al. (2022) 21st International Sedimentological Congress Abstract Book, T3-40859.
高田亮ほか (2016). 富士火山地質図(第2版).産総研地質情報センター.
相模川(上流では桂川)は富士山東麓の山中湖を水源とし,丹沢山地北部-東部の縁辺部を時計回りに流下して,相模湾中央部に注ぐ全長約100 kmの河川である.相模川沿いでは,上流域の都留市から下流域の座間市付近まで,約2.2万年前に発生した富士相模川泥流(ラハール)堆積物が分布する(例えば,町田,2009).ラハールは火山砕屑物が水と共に流れ下る現象の総称であり,火山噴火や山体崩壊後も降雨などにより繰り返し発生する.桂川上流域(大月より上流側)の富士相模川ラハール堆積物(FSLD)の基質の岩種組成から,2次的なラハールの発生など,ラハールの流下の様相を捉えることができるか検討した.
地域概要
FSLDは富士吉田付近では新しい溶岩に完全に覆われ,西桂町付近より下流から,桂川の谷の北端を流れる支流の柄杓流(しゃくながれ)川沿いにて高さ20m近くの谷壁で観察できるようになる.柄杓流川と桂川との合流点付近からは,桂川の谷壁にもFSLDは露出するが(例えば,相模原市地形・地質調査会,1990),近年多くの部分がコンクリート製擁壁などに覆われている.リニア実験線が桂川谷を横切る都留市大原地区やその下流の田野倉地区では,FSLDより若い溶岩は低位の段丘面のみ覆うようになり,FSLDはより高位の地形面を形成しているが(例えば,相模原市地形・地質調査会,1990;高田ほか,2016),地形面上の都市化のため,FSLDを観察できるのは主に桂川の谷壁のみに限られる.柄杓流川から相模川下流の相模原市・座間市にかけ,FSLDは大部分が無構造の中礫層と認識されてきたが,桂川上流域から中流域の四方津付近にかけては,中礫層の下位に無構造の巨礫層が存在することが確認され, FSLDが下部の巨礫層と上部の中礫層からなることがわかった(Shirai et al., 2022など).この巨礫層の上限高度は現在の桂川の河床高度とほぼ一致し,下限を確認することは至難であるが,都留市北端(田野倉地区北端)では例外的に厚さ10mの巨礫層の最下部まで観察することが可能である.
試料採取および試料処理
基質の岩種組成を検討するため,FSLD上部の中礫層のほぼ全体を観察できる都留市南西部の柄杓流川の谷壁(Site-1)において中礫層試料(下位からユニット1〜7)を,唯一巨礫層最下部を確認できる都留市北端の露頭(Site-2)において中礫層試料(上部,下部)と巨礫層試料(上部,中部,下部,基底部)を採取した.都留市大原地区(Site-3)においても巨礫層が比較的厚く露出しており,アプローチ可能であった巨礫層中部の2層準で試料を採取した.またSite-1とSite-3の間の3ヶ所(Sites-A〜C)で,谷底に露出する巨礫層がFSLDの一部か確認するため,試料を採取した(図).
試料には超音波洗浄を4〜12時間施し,合間に試料を指でほぐした後,篩分けにより十分な個数が確保できる径 2〜1 mm の粒子を選別し,乾燥後に鏡下で岩種の同定を行った(1試料200粒前後).
結果および考察
基質の径2〜1mmの粒子(極粗粒砂相当)には玄武岩片,スコリア,基盤岩片(凝灰岩など)の他に,中粒砂程度の大きさの鉱物粒子や岩片が多数凝集した粒子が認められた.これは細粒分を含むFSLDが再堆積したものと考えられ,2次的なラハールの指標となり得る.各地点での基質の岩種組成の変化および,各地点間の比較から,以下が推定された.(ⅰ)凝集粒子の含有率は,例外もあるものの巨礫層より中礫層で高く,中礫層が2次的なラハール堆積物であることを示唆する.(ⅱ)中礫層の凝集粒子の含有率はSite-1よりSite-2で高く,流下に伴いラハール堆積物の再移動・再堆積が生じていると考えられる.(ⅲ)Site-1の巨礫層下部では凝灰岩など基盤岩片が大量に含まれるのに対し,巨礫層中上部では基盤岩片の含有率が減少し,巨礫層の下部が既に桂川の谷全体に広がっていたことを示唆する.iv) 凝集粒子の含有率を測定することにより,桂川中流域に分布するFSLD巨礫層が初生的なラハールイベントの産物か2次的なラハールの産物か判別できると期待される.
謝辞:本研究の一部には東京都立大学火山災害研究センター(現・島嶼火山都市災害研究センター)の研究費を使用した.
引用文献:
町田洋(2009)相模原市史自然編.pp.159-165.相模原市.
相模原市地形・地質調査会(1990)相模原の地形・地質調査報告書(第4報).63p,相模原市.
Shirai et al. (2022) 21st International Sedimentological Congress Abstract Book, T3-40859.
高田亮ほか (2016). 富士火山地質図(第2版).産総研地質情報センター.