[H-QR06] 地球惑星科学へのルミネッセンス・ＥＳＲ年代測定の応用

[HQR06-02] 最終氷期の河成段丘堆積物のOSL年代測定－山形県尾花沢盆地で採取した試料の測定例－

*林崎 涼¹ (1.一般財団法人電力中央研究所)

長石の光ルミネッセンス（OSL）年代測定法は，地層の年代決定に有効な手法であるが，国内での適用事例が少ないため年代値の信頼性が低く，適用性が明らかになっていない．年代値の信頼性向上と年代測定法の適用性を検証するためには，年代既知の地層での測定事例を増やす必要がある．本研究では，山形県尾花沢盆地の最終氷期の河成段丘堆積物で長石のOSL年代測定法を実施し，調和的な年代値が得られるか検証した．
尾花沢盆地では，最も広く分布する河成段丘（低位Ⅰ面）の段丘堆積物から，約3万年前の放射性炭素年代値と姶良Tn火山灰層が報告されている．このため，低位Ⅰ面の段丘堆積物は最終氷期に堆積したと考えられている．本研究では，低位Ⅰ面の4露頭から河成段丘堆積物を5試料採取し，長石のOSL年代測定法であるpIRIR法（pIR50IR290法とpIR200IR290法）で年代値を求めた．
XRD分析と偏光顕微鏡観察の結果，OSL年代測定用試料（密度2.53～2.58g/cm3の粒子）は石英が主体で僅かに斜長石を含むことが明らかになった．pIR50IR290法は全ての試料で年代値が得られた．一方，pIR200IR290法は，斜長石の割合が比較的大きい1試料を除いてOSL信号が測定されず，年代値が得られなかった．これは，石英主体だと測定される長石のOSL信号が弱くなること，斜長石のOSL信号強度がカリ長石より弱いこと，pIR200IR290法で得られるOSL信号強度がpIR50IR290法より弱いことなどが影響していると考えられた．
pIRIR法で得られた年代値は全ての試料で既知の年代より古かった．また，pIR50IR290法とpIR200IR290法でOSL信号が得られた試料では，それぞれの信号から求められた年代値が誤差の範囲内で一致した．太陽光への曝露が不十分な試料では，OSL信号がリセットされていないため，OSL年代測定で真の年代よりも古い年代値が得られる．pIR200IR290法で得られるOSL信号は，pIR50IR290法よりも太陽光への曝露でリセットしにくい．このため，pIR50IR290法とpIR200IR290法の年代値が一致することは，試料が太陽光に十分曝露されたことを示す．本研究で既知の年代より古い年代値が得られたことは，pIR50IR290法とpIR200IR290法の年代値が誤差の範囲内で一致しているため，太陽光への曝露が原因でないと推察される．pIRIR法は主にカリ長石を含む試料で実施されており，斜長石での適用性が明らかでない．カリ長石を含まない河成段丘堆積物では，pIRIR法で正確な年代値が得られないことが示された．