17:15 〜 18:45
[HTT16-P10] 耳石Sr同位体を用いた琵琶湖固有魚による出生地回帰の高空間解像度推定

キーワード:ストロンチウム安定同位体、耳石、出生地回帰、回遊、ニゴロブナ、琵琶湖
ニゴロブナ(Carassius buergeri grandoculis)は、琵琶湖の沖合で回遊生活する固有魚である。本種の産卵は湖岸の氾濫原で行われるが、水田も代替的な産卵適地として利用されてきた。しかし、圃場整備以降、水田への産卵遡上が阻害されたことにより、本種個体群は激減した。生物多様性保全を目的として、滋賀県は、2006年より「魚のゆりかご水田」事業を開始した。
滋賀県水産試験場は、魚のゆりかご水田に放流した標識魚がピンポイントで放流水田へ産卵回帰することを報告した。発表者らは、先行研究により、生息環境のトレーサーとして有効なストロンチウム安定同位体比(87Sr/86Sr)を用いて、水田へ産卵遡上した野生個体の耳石と環境水の同位体比を測定することにより、仔稚魚期に形成される耳石核と環境水の87Sr/86Srが一致することを示した。一連の研究は、ニゴロブナ野生集団が出生地へ産卵回帰する習性を有することを強く示唆する。
しかし、野生魚がどの程度の空間解像度で出生地を識別して産卵回帰できるか、その回遊生態の詳細は解明されていない。先行研究では、琵琶湖流域内の様々な水域で採集した稚魚耳石と環境水の87Sr/86Srを比較することによって、仔稚魚期の生育地を集水域レベルで推定できることを明らかにした。本研究では、集水域内のより高解像度の空間スケール、すなわち、水田・水路などの生息地スケールで出生・生育地を特定できる可能性を検討することを目的とした。
滋賀県彦根市田附地区において、水田への産卵遡上が可能な「魚のゆりかご水田」に接続する用排水路A、および、産卵遡上できない慣行水田のみに接続する用排水路Bにて稚魚の採集調査を実施した。同時に、各排水路の環境水、集水域を涵養する愛知川の河川水と地下水、魚のゆりかご水田の田面水と土壌、および、湖東域沿岸の湖水を採水した。魚類耳石および各種環境試料の87Sr/86Srを地球研共同利用施設のTIMSを用いて計測した。
集水域内の各種環境水試料は、固有の87Sr/86Srを示した。用排水路の環境水87Sr/86Srは、愛知川の河川水よりもむしろ湖水の値と重複し、水路間の値に有意な差はみられなかった。湖辺水田は、逆水灌漑によって河川水ではなく湖水が揚水されるため、用俳水路の87Sr/86Srは湖水に由来すると考えられる。一方、魚のゆりかご水田の田面水は、他の環境水試料より低い87Sr/86Srを示した。灌漑水が田面に滞留中に低い同位体比をもつ水田土壌由来のSrが混合した可能性が推測される。
稚魚耳石の87Sr/86Srは、概ね用排水路水と田面水の値の範囲内で変異した。用排水路Aで採集した稚魚は、用排水路Bの稚魚に比べて、耳石87Sr/86Srが有意に低い値が示した。本結果は、魚のゆりかご水田に接続する水路で採集された個体の一部がその水田内で出生・生育した可能性を示唆する。
以上より、水文学的な水の挙動を反映して、環境水の87Sr/86Srには、集水域内でさえ高い空間異質性が存在し、魚のゆりかご水田で出生・生育した個体を特定できる可能性を示すことができた。結論として、耳石Sr安定同位体は、ニゴロブナ野生集団の出生地を高空間解像度で推定する手法として有効である。
滋賀県水産試験場は、魚のゆりかご水田に放流した標識魚がピンポイントで放流水田へ産卵回帰することを報告した。発表者らは、先行研究により、生息環境のトレーサーとして有効なストロンチウム安定同位体比(87Sr/86Sr)を用いて、水田へ産卵遡上した野生個体の耳石と環境水の同位体比を測定することにより、仔稚魚期に形成される耳石核と環境水の87Sr/86Srが一致することを示した。一連の研究は、ニゴロブナ野生集団が出生地へ産卵回帰する習性を有することを強く示唆する。
しかし、野生魚がどの程度の空間解像度で出生地を識別して産卵回帰できるか、その回遊生態の詳細は解明されていない。先行研究では、琵琶湖流域内の様々な水域で採集した稚魚耳石と環境水の87Sr/86Srを比較することによって、仔稚魚期の生育地を集水域レベルで推定できることを明らかにした。本研究では、集水域内のより高解像度の空間スケール、すなわち、水田・水路などの生息地スケールで出生・生育地を特定できる可能性を検討することを目的とした。
滋賀県彦根市田附地区において、水田への産卵遡上が可能な「魚のゆりかご水田」に接続する用排水路A、および、産卵遡上できない慣行水田のみに接続する用排水路Bにて稚魚の採集調査を実施した。同時に、各排水路の環境水、集水域を涵養する愛知川の河川水と地下水、魚のゆりかご水田の田面水と土壌、および、湖東域沿岸の湖水を採水した。魚類耳石および各種環境試料の87Sr/86Srを地球研共同利用施設のTIMSを用いて計測した。
集水域内の各種環境水試料は、固有の87Sr/86Srを示した。用排水路の環境水87Sr/86Srは、愛知川の河川水よりもむしろ湖水の値と重複し、水路間の値に有意な差はみられなかった。湖辺水田は、逆水灌漑によって河川水ではなく湖水が揚水されるため、用俳水路の87Sr/86Srは湖水に由来すると考えられる。一方、魚のゆりかご水田の田面水は、他の環境水試料より低い87Sr/86Srを示した。灌漑水が田面に滞留中に低い同位体比をもつ水田土壌由来のSrが混合した可能性が推測される。
稚魚耳石の87Sr/86Srは、概ね用排水路水と田面水の値の範囲内で変異した。用排水路Aで採集した稚魚は、用排水路Bの稚魚に比べて、耳石87Sr/86Srが有意に低い値が示した。本結果は、魚のゆりかご水田に接続する水路で採集された個体の一部がその水田内で出生・生育した可能性を示唆する。
以上より、水文学的な水の挙動を反映して、環境水の87Sr/86Srには、集水域内でさえ高い空間異質性が存在し、魚のゆりかご水田で出生・生育した個体を特定できる可能性を示すことができた。結論として、耳石Sr安定同位体は、ニゴロブナ野生集団の出生地を高空間解像度で推定する手法として有効である。