[M-AG33] 原爆による「黒い雨」領域の推定に関する基礎的研究

[MAG33-P07] 長崎原爆による放射性物質降下地域土壌のアーカイブ構築

*福田 直子¹、阿部 香織¹、横田 賢一¹、玉熊 佑紀²、松田 尚樹¹、横山 須美¹ (1.長崎大学原爆後障害医療研究所、2.長崎大学放射線総合センター)

キーワード：放射性降下物、原爆土壌試料、アーカイブ

【はじめに】
長崎大学では、1945年の長崎原爆に起因する放射性降下物の残留放射能の影響調査を目的として、1969年の長崎市内西山地区の水源地土壌の採取を手始めに1981年頃まで主に長崎県内で採取した土壌の放射能測定を行ってきた。特に1976年および1978年の「広島、長崎の残留放射能調査報告書」（財団法人日本公衆衛生協会 発行）では、爆心から半径約30kmの98地点で土壌採取を実施し放射能測定結果を報告した。
これらの土壌試料は長崎大学原研が管理する倉庫で保管され約半世紀の長きにわたって注目されないままであったが、今般、放射性降下物の拡散状況等の調査プロジェクトの一部として土壌試料の活用に向けた整理およびアーカイブ化を実施する機会を得た。本報告では土壌試料の整理、データベース作成、公開試料室の整備等、長崎原爆土壌試料アーカイブ構築について紹介する。
【方法】
保管されていた土壌試料は、採取年月日、採取地点番号および層位などの情報が記載され、細土試料の状態で個別のタッパー容器に収められ保管されていた。土壌試料の種類は未耕地土壌、農作物土壌（畑で栽培された農作物の周辺土壌）およびレンガ、コンクリート片などであった。先ずはこれらの試料を現存する試料として物理試料番号を付し、新しい容器（広口PPボトル）への詰め替え作業を行った。一方、1980年代には手書きの『土壌採取記録簿』が作成され採取した土壌試料に関する詳細な情報が残されており、これらの記録には記録試料番号を付与した。全ての物理試料および記録試料に関する情報は長崎大学原研の原爆資料データベースに収録されている。物理試料番号と記録試料番号を照合した結果、物理試料の90％以上が記録と一致した。試料の同定および新しい容器への詰替えが完了した全1,283試料は、湿度制御可能な保管庫に棚番号を付けて再保管した。
本学原研の原爆資料データベースに登録された情報は、全体データベースであるDABS（Database of Atomic Bomb Samples）へ収録するデータを処理プログラムで抽出しインポートする。DABSでは地図上における採取場所や放射能の可視化をはじめ測定結果の時系列分析等に供する。
【まとめ】
土壌試料のアーカイブ構築により、新たに本学医学ミュージアム棟に「原爆土壌試料保管室」を設置し、2022年8月に一般公開を開始した。加えて、原爆土壌についての解説ビデオコンテンツを４パターン制作・公開し、修学旅行生等が見学に訪れた際にはビデオ視聴または職員による解説を行っている。
今回アーカイブ構築した原爆土壌試料は今後も長崎大学の責任のもとで維持・管理し、将来的には原爆および放射性降下物の痕跡の新たな分析手法への試料供与にも対応できるよう体制を整えていく。

謝辞：本調査研究は厚生労働省からの受託により進められた。記して感謝します。