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[MGI28-P03] 組成データ解析・多変量解析を用いたオマーンオフィオライトにおけるマントルプロセスの解釈

キーワード:オフィオライト、組成データ解析、独立成分分析、マントル、オマーン、微量元素
主成分分析や独立成分分析などの多変量解析手法は,火成プロセスの理解において有益であり,多次元の化学組成データから火成プロセスを抽出し定量化する研究が報告される(Ueki and Iwamori, 2017).しかし,多変量解析を用いたマントルかんらん岩から最上部マントルプロセスの抽出に関する先行例は限られており(Nishio et al., 2022),オフィオライトの全岩化学組成への適用例はない.オフィオライトは海洋リソスフェアの層序を示す岩体であり,その特徴的な露出形態から初期島弧環境における最上部マントルプロセスへのアナログとされる.特に,オマーンオフィオライトは全長500km,幅80kmと世界最大規模で,それらの情報を良く保存する.そこで,本研究では,オマーンオフィオライトの最上部マントルかんらん岩の全岩微量化学組成に対し,独立成分分析による多変量解析を行い,その有用性の検討と,マントルプロセスの抽出を目的とした.
今回は独立成分分析により,オマーンオフィオライト北部のFizh岩体と南部のWadi Tayin岩体の全岩化学組成(Ga,Rb,Sr,Y,Cs,Ba.La,Ce,Nd.Sm,Eu,Gd,Tb.Dy,Ho,Er,Yb,Lu,Hfの計169個のデータ)を解析した.主成分分析の寄与率を元に4本の成分で解析を行った.化学組成データは変数の数より次元が1つ低い単体空間に存在する.この制約を解決するために対数比変換法であるAdditive Log Ratioを使用した.計算は元素濃度をSiO2で規格化して自然対数を取った.
解析の結果,得られた成分は無相関かつ非線形関係もなく独立な成分である.各独立成分において,異なるマントルプロセスを示す特徴が見られた.第一独立成分はかんらん石モードに正の相関,輝石モードと負の相関があり,全ての微量元素と負の相関がある.また,スピネルCr#と正の相関がある.第二独立成分はかんらん石モードと弱い正の相関,輝石モードと弱い負の相関がある.また,LILEに正の相関,不適合なHFSEに正の相関,LREEに正の相関,HREEに負の相関がある.第三独立成分は,SrとBaに強い負の相関がある.第四独立成分は,Cs,Rb,Ba,ThのLILEと強い正の相関がある.
これらの結果に基づき,4つのマントルプロセスの地質学的意味を検討した.第一独立成分は加熱もしくは減圧による部分溶融,第二独立成分はスラブ流体の供給によるフラックス溶融,第三独立成分は低温下の蛇紋岩化作用によるSrとBaの濃縮,第四成分はスラブ流体の付加作用である.これらの成分を地質図と断面図にプロットすることでマントルプロセスの空間分布を把握できた.加熱もしくは減圧による部分溶融度はマントル基底部で低くモホ付近で高くなり,高温領域で部分溶融度が高くなる傾向がある.フラックス溶融はマントル内で不均質に起こり,Kanke and Takazawa(2014)で報告された高枯渇帯とモホ面付近で顕著な傾向にある.蛇紋岩化によるSrとBaの濃縮は低温変形域と中温変形域の境界で高い傾向にある。一方,LILE元素に富む流体は、基盤から1.7kmの高さ付近まで浸透した可能性がある。
本研究は,4つの独立成分がオマーンオフィオライトにおけるマントルプロセスの大部分を説明できることを示した.また,それらの独立成分を地理情報と結びつけることでマントルプロセスの空間的な分布を捉えることが可能である.これらの結果は,組成データ解析と独立成分分析に基づくオフィオライトマントルかんらん岩の全岩化学組成に対する多変量解析の有効性を確認するものである.
1. Ueki, K., Iwamori, H., 2017. Geochemical differentiation processes for arc magma of the Sengan volcanic cluster, Northeastern Japan, constrained from principal component analysis. Lithos 290–291, 60–75.
2. Nishio, I., Itano, K., Waterton, P., Tamura, A., Szilas, K., Morishita, T., 2022. Compositional Data Analysis (CoDA) of Clinopyroxene From Abyssal Peridotites. Geochem Geophys Geosyst 23.
3. Kanke, N., Takazawa, E., 2014. A kilometre-scale highly refractory harzburgite zone in the mantle section of the northern Oman Ophiolite (Fizh Block): implications for flux melting of oceanic lithospheric mantle. Geological Society, London, Special Publications 392, 229–246.
今回は独立成分分析により,オマーンオフィオライト北部のFizh岩体と南部のWadi Tayin岩体の全岩化学組成(Ga,Rb,Sr,Y,Cs,Ba.La,Ce,Nd.Sm,Eu,Gd,Tb.Dy,Ho,Er,Yb,Lu,Hfの計169個のデータ)を解析した.主成分分析の寄与率を元に4本の成分で解析を行った.化学組成データは変数の数より次元が1つ低い単体空間に存在する.この制約を解決するために対数比変換法であるAdditive Log Ratioを使用した.計算は元素濃度をSiO2で規格化して自然対数を取った.
解析の結果,得られた成分は無相関かつ非線形関係もなく独立な成分である.各独立成分において,異なるマントルプロセスを示す特徴が見られた.第一独立成分はかんらん石モードに正の相関,輝石モードと負の相関があり,全ての微量元素と負の相関がある.また,スピネルCr#と正の相関がある.第二独立成分はかんらん石モードと弱い正の相関,輝石モードと弱い負の相関がある.また,LILEに正の相関,不適合なHFSEに正の相関,LREEに正の相関,HREEに負の相関がある.第三独立成分は,SrとBaに強い負の相関がある.第四独立成分は,Cs,Rb,Ba,ThのLILEと強い正の相関がある.
これらの結果に基づき,4つのマントルプロセスの地質学的意味を検討した.第一独立成分は加熱もしくは減圧による部分溶融,第二独立成分はスラブ流体の供給によるフラックス溶融,第三独立成分は低温下の蛇紋岩化作用によるSrとBaの濃縮,第四成分はスラブ流体の付加作用である.これらの成分を地質図と断面図にプロットすることでマントルプロセスの空間分布を把握できた.加熱もしくは減圧による部分溶融度はマントル基底部で低くモホ付近で高くなり,高温領域で部分溶融度が高くなる傾向がある.フラックス溶融はマントル内で不均質に起こり,Kanke and Takazawa(2014)で報告された高枯渇帯とモホ面付近で顕著な傾向にある.蛇紋岩化によるSrとBaの濃縮は低温変形域と中温変形域の境界で高い傾向にある。一方,LILE元素に富む流体は、基盤から1.7kmの高さ付近まで浸透した可能性がある。
本研究は,4つの独立成分がオマーンオフィオライトにおけるマントルプロセスの大部分を説明できることを示した.また,それらの独立成分を地理情報と結びつけることでマントルプロセスの空間的な分布を捉えることが可能である.これらの結果は,組成データ解析と独立成分分析に基づくオフィオライトマントルかんらん岩の全岩化学組成に対する多変量解析の有効性を確認するものである.
1. Ueki, K., Iwamori, H., 2017. Geochemical differentiation processes for arc magma of the Sengan volcanic cluster, Northeastern Japan, constrained from principal component analysis. Lithos 290–291, 60–75.
2. Nishio, I., Itano, K., Waterton, P., Tamura, A., Szilas, K., Morishita, T., 2022. Compositional Data Analysis (CoDA) of Clinopyroxene From Abyssal Peridotites. Geochem Geophys Geosyst 23.
3. Kanke, N., Takazawa, E., 2014. A kilometre-scale highly refractory harzburgite zone in the mantle section of the northern Oman Ophiolite (Fizh Block): implications for flux melting of oceanic lithospheric mantle. Geological Society, London, Special Publications 392, 229–246.