日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI29] 計算科学が拓く宇宙惑星地球科学

2024年5月29日(水) 13:45 〜 14:45 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:大淵 済(神戸大学)、牧野 淳一郎(国立大学法人神戸大学)、亀山 真典(国立大学法人愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、堀田 英之(名古屋大学)、座長:亀山 真典(国立大学法人愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)

14:00 〜 14:15

[MGI29-08] 不連続ガラーキン法を用いた全球大気力学コアの開発: 乱流モデルの導入と検証実験

*河合 佑太1、富田 浩文1 (1.理化学研究所 計算科学研究センター)

キーワード:高精度全球大気力学コア、ラージエディション、惑星境界層乱流の理想化実験

はじめに
格子幅が O(10 m)の高解像度大気計算を念頭において, Kawai & Tomita (2021, MWR) は大気ラージエディシミュレーションで必要とされる力学コアの離散精度を格子点法の枠組みで検討し, 従来的な 2 次精度よりずっと高い精度が要求されることを示唆した. そのため, 高精度化が単純であり, 計算の局所性が高い特徴を持った不連続ガラーキン法(DGM)に注目している. 大気計算に対する適用性を調べるために, DGM に基づく大気力学コアを構築し, その数値特性の理解を深めつつある. Kawai & Tomita (2023, MWR) (以後, KT2023)では, DGM の枠組みで LES で必要とされる離散精度の数値指標を検討し, 展開多項式の次数(p)が 4 以上必要であることを示唆し, その妥当性を領域大気 LES モデルを用いた理想化実験で確認した. その後, 物理過程等を含む実実験に向けて, DGM での枠組みで湿潤過程の導入や山岳の考慮(JpGU2023 で報告)等も取り組んできた. 最近では, 将来的な全球湿潤 LES を見据え, 全球高精度力学コアの構築および乱流モデルの導入を試みつつある. 本発表ではその定式化とテスト計算の初期的結果を示す.

DGMに基づく全球力学コアを用いた大気境界層乱流の LES
[計算方法] 力学過程の支配方程式は, 完全圧縮非静力学方程式系である. 球面幾何を扱うために, 等角投影に基づく立方球面座標を用いる. 浅い大気近似を基本的に適用するが, この近似を外した計算も本モデルで可能である. 乱流過程は Smagorinsky-Lilly 型の乱流モデル(Brown et al., 1994 等)によって表現する. 水平座標系の基底が局所的に直交しないため, 渦粘性項の導出手順はやや複雑であるが, テンソル解析を用いて見通し良く導出する. 空間離散化は, nodal DGM (Hesthaven and Warburton, 2007 等) を適用する. 計算領域は六面体要素を用いて分割し, 離散精度の必要次数に応じて要素内に (p+1)3 の 自由度をおく. 要素境界の数値フラックスには, 非粘性項に Rusanov フラックス, 渦粘性項に中心フラックスを使用する. さらに, 数値安定化のために, 32 次の modal フィルタを用いて高次の展開モードを減衰させる. 本発表のテスト計算では, 時間スキームとして, 完全陽的な 4 次精度の Runge=Kutta 法を用いる.

[実験設定] 全球大気 LES モデルの妥当性を検証するために, Nishizawa et al. (2015) に基づく理想化した惑星境界層乱流の理想化実験の設定を全球計算領域へと拡張した. 現実地球の惑星サイズでは膨大な計算資源が必要なため, 本テスト計算では惑星半径を 3.4 km に設定する. 初期は無風であり, 安定成層した大気に温位擾乱を与える.モデル下端で 200 W/m2 の熱フラックスを与え, 4 時間積分する. KT2023 と同様に, エネルギースペクトルに対する展開多項式の次数の影響を調べるために, 有効格子幅を約 10 mに固定して , p=3,4,7 に設定した実験を行う.

[計算結果] 図 (a) に示されるように, 平面の領域モデルの場合と同様に, 水平スケールが数 km 程度のオープンセル型の対流セルが全球計算でも得られた. 図 (b)に, 最後の 30 分間で時間平均した惑星境界層の鉛直構造を示す. 比較のために, KT2023 の結果を灰色のシェードを用いて表している. 浅い大気近似を用いた場合の境界層の鉛直構造は, 平面の領域モデルの結果とよく似ていることが分かる. 図 (c) は, 境界層内部の三次元速度のエネルギースペクトルを示している. KT2023 と同様の観点で, 8 格子より短波長側のエネルギースペクトルに注目すると, 全球領域の実験においても展開多項式の次数が 4 以上必要であることが確認できた. 浅い大気近似を外した場合には, 境界層の成長は遅く, 鉛直風の分散やエネルギースペクトルが小さくなる傾向が見られた(図 (b), (c)の緑線). これは球殻の体積が高度とともに拡大する効果を反映していると考えられる. 本理想化実験の設定や計算結果の知見は, 乱流モデルを導入した全球力学コアのベンチマークテストとして役立つと期待される.