17:15 〜 18:45
[MGI31-P01] 四万十帯須崎地域の付加体岩石の物理特性:地震発生帯上盤の実態解明に向けて
キーワード:地震波速度構造、南海トラフ、高速度層
地震波速度構造は、沈み込み帯における岩石、応力、流体、地震発生の性質を理解する上で基本的かつ重要な情報である。近年の高密度な反射法地震探査や地震学的観測により、地震発生帯やそれよりも深い場所まで、地震学的構造の空間的分布や不均質性を正確に解明することができるようになったが、得られた地震波速度構造を解釈するためには、岩石の物理的特性を仮定する必要がある。科学掘削では、検層技術によって地震波速度を直接測定し、また深部から直接岩石を採取することができるが、海底下約3kmより深い深度に到達することは、現在のところ技術的に困難である。そのため、過去に地震発生帯を経験した陸上付加体の岩石を用いてその物理的特性を測定することは、地震発生帯の地球物理学的観測結果を解釈するための有効なアプローチとなる。
本研究では,横浪メランジュに近い四万十帯の高知県須崎地域(板場ほか, 2014)から採取した、過去の最高被熱温度が約200℃のプレート境界断層近傍の深度を経験した砂岩と泥岩のコア試料を用い、試料の空隙率および大気圧下における乾燥および含水条件下でのP波およびS波速度(VpとVs)を測定した。砂岩は空隙率が低い(0.5-1.2%)一方で、泥岩は空隙率が高かった(1.6-3.7%)。砂岩のVp(乾燥時:4.6-5.8 km/s、含水時:5.4-6.1 km/s)とVs(乾燥時:3.1-3.5 km/s、含水時:3.1-3.4 km/s)は泥岩のVp(乾燥時:4.5-5.5 km/s、含水時:4.9-5.9 km/s)とVs(乾燥時:2.6-3.4 km/s、含水時:2.5-3.3 km/s)より高い傾向があった。これらの結果は、これまでに南海トラフ付加体や四万十帯の岩石試料から構築された経験的なVpと空隙率の関係よりも高かった。
これらの高いVpとVsは、本研究で用いた岩石が、現在の南海トラフにおけるプレート境界断層の上盤に存在する、地震発生帯深度近くの高速度帯に相当する可能性を示唆している。プレート境界断層の上盤は地震間にひずみエネルギーを蓄積するため、ひずみエネルギーの解放プロセスである海溝型巨大地震のダイナミクスを理解するためには、この岩石の物性を今後詳細に検討していくことが有効である可能性がある。そのために現在、岩石の内部構造や鉱物学的情報についての考察を進めている。
板場智史・梅田康弘・小泉尚嗣・渡辺寛・中山伸朗・酒井誠志 (2014),GSJコア須崎大谷観測点資料,地質調査総合センター研究資料集, 595, 産業技術総合研究所地質調査総合センター.
本研究では,横浪メランジュに近い四万十帯の高知県須崎地域(板場ほか, 2014)から採取した、過去の最高被熱温度が約200℃のプレート境界断層近傍の深度を経験した砂岩と泥岩のコア試料を用い、試料の空隙率および大気圧下における乾燥および含水条件下でのP波およびS波速度(VpとVs)を測定した。砂岩は空隙率が低い(0.5-1.2%)一方で、泥岩は空隙率が高かった(1.6-3.7%)。砂岩のVp(乾燥時:4.6-5.8 km/s、含水時:5.4-6.1 km/s)とVs(乾燥時:3.1-3.5 km/s、含水時:3.1-3.4 km/s)は泥岩のVp(乾燥時:4.5-5.5 km/s、含水時:4.9-5.9 km/s)とVs(乾燥時:2.6-3.4 km/s、含水時:2.5-3.3 km/s)より高い傾向があった。これらの結果は、これまでに南海トラフ付加体や四万十帯の岩石試料から構築された経験的なVpと空隙率の関係よりも高かった。
これらの高いVpとVsは、本研究で用いた岩石が、現在の南海トラフにおけるプレート境界断層の上盤に存在する、地震発生帯深度近くの高速度帯に相当する可能性を示唆している。プレート境界断層の上盤は地震間にひずみエネルギーを蓄積するため、ひずみエネルギーの解放プロセスである海溝型巨大地震のダイナミクスを理解するためには、この岩石の物性を今後詳細に検討していくことが有効である可能性がある。そのために現在、岩石の内部構造や鉱物学的情報についての考察を進めている。
板場智史・梅田康弘・小泉尚嗣・渡辺寛・中山伸朗・酒井誠志 (2014),GSJコア須崎大谷観測点資料,地質調査総合センター研究資料集, 595, 産業技術総合研究所地質調査総合センター.