17:15 〜 18:45
[MIS08-P01] 下北ジオパークの大間崎エリアに分布する新第三系中新統大間層の有機地球化学分析と堆積環境の復元
キーワード:ジオパーク、下北ジオパーク、中新世、有機地球化学
【導入】
下北半島に位置する下北ジオパークは、東北日本弧を形成する代表的な4つの地質体で構成されている。津軽海峡に面する大間町周辺には、日本海の拡大が終了後の中新世の深海底に堆積した硬質頁岩と、海底火山噴火による貫入岩が分布している。これらの硬く固結した岩体は大間崎から海底へ続く地形的高まり(海脚)をなし、大間沖の豊かな漁場形成に寄与している。
下北半島西部に分布する地質体はこれまで中新世の日本海拡大期からの痕跡を残す地域とされてきたが、近年ではその地史の理解が変わりつつある。従来日本海拡大期のグリーンタフとされてきた仏ヶ浦は、鮮新世初頭の海底カルデラ噴火の噴出物であることが報告された(植田 2023)。他のジオサイトでも形成年代が更新される可能性が指摘されており、下北ジオパークのジオストーリーは大幅な改訂を必要としている。
また、当時の地質活動だけでなく、海洋環境や堆積環境についても情報が不足している。これまで大間層に関する研究例は乏しく、それらも地質構造を対象とした研究である。一方、近年では北日本の中新世の堆積環境復元に関する研究事例も蓄積されつつあり、それらと比較検討することで、当時の下北西部の海洋環境を復元・対比が可能と考えられる。
本研究では、風間浦村北部に位置する大間層の地質調査および有機地球化学分析を行い、中新世下北半島西部の堆積環境の復元を試みた。
【試料と手法】
大間崎周辺に分布する硬質頁岩は、大間層として記載される。大間層上部では上部中新統の易国間安山岩類と同源と考えられる砂質凝灰岩を挟む点から中新世中上部とされ、津軽半島北部の小泊層や北海道南部の八雲層と対比される。大間層は珪質の硬質頁岩と、黄色を呈した変質した凝灰質砂岩の互層で構成されており、下部では軽石凝灰岩が露出する。
本研究では2023年9月に風間浦村北部の大間層の露出する河川から硬質頁岩部と、変質した凝灰質砂岩部を採取し、GC-MSによる遊離態有機分子分析を行った。
【結果と考察】
大間層に含まれる遊離態有機分子の濃度は非常に低く、最も高いn-alkane濃度でも0.12μg/g-sediであった。硬質頁岩からは、HBIアルカンおよびHBIチオフェン、C28ステランが検出され、珪藻の寄与が強く示唆される。一方変質した凝灰質砂岩からは珪藻バイオマーカーを含め、遊離態有機分子はほとんど検出されなかった。これらは、大間層では珪藻主体の堆積物が堆積する環境であり、時折周辺の火山体からもたらされる有機物に乏しい火山性砕屑物が運搬・堆積することで互層が形成されたことを示唆し、先行研究とも調和的である。
有機物の海起源/陸起源比(C27/C27+C29ステラン比)では、0.4~0.63と海洋藻類成分が卓越する値を示し、当時の下北西部はpelagicな堆積環境であったことが示唆される。一方、陸上高等植物に由来する成分も微量ながら検出され、特にFriedelineや減成トリテルペノイドなどの、被子植物に由来する成分が検出された。当時の下北半島西部から北海道南部にかけて、溶岩流を伴う海底火山活動が活発だったことが指摘されており、火山活動により形成された火山島から被子植物成分が運搬された可能性が示唆される。
堆積時の酸化還元状態を示すPr/Phは平均0.6と非常に還元的な値を示した。一方、ホモホパン指標は高々0.05であり、やや酸化的な値を示した。秋田堆積盆での先行研究では、ホモホパン指標とPr/Phでの傾向の違いは、pristaneの前駆物質であり陸上高等植物に多く含まれるα-トコフェロールの供給量に起因し、特にpelagicな環境では供給量の減少によりPr/Phがより還元的な値へシフトする可能性が指摘されている(Asahina et al.,2021)。大間層でも陸上高等植物の寄与が低い点や、硬質頁岩中に保存される有機物量が少ないことなどから、当時の堆積環境は、やや酸化的な環境であったと解釈した。下北半島の東部地域でも中期中新世に陸成層から泥主体の海成層への遷移が報告されており(工藤ほか, 2020)、当時は広い範囲でpelagicな環境が拡がっていたことが示唆される。
本研究により推測された中新世の下北半島西部の堆積環境は、日本海拡大期が終了した後の静穏期の下北ジオパークのジオストーリーに新たな情報を提供することができると考える。また本研究では、北日本から北海道にかけての硬質頁岩層との有機地球化学特徴の比較検討も行う。
下北半島に位置する下北ジオパークは、東北日本弧を形成する代表的な4つの地質体で構成されている。津軽海峡に面する大間町周辺には、日本海の拡大が終了後の中新世の深海底に堆積した硬質頁岩と、海底火山噴火による貫入岩が分布している。これらの硬く固結した岩体は大間崎から海底へ続く地形的高まり(海脚)をなし、大間沖の豊かな漁場形成に寄与している。
下北半島西部に分布する地質体はこれまで中新世の日本海拡大期からの痕跡を残す地域とされてきたが、近年ではその地史の理解が変わりつつある。従来日本海拡大期のグリーンタフとされてきた仏ヶ浦は、鮮新世初頭の海底カルデラ噴火の噴出物であることが報告された(植田 2023)。他のジオサイトでも形成年代が更新される可能性が指摘されており、下北ジオパークのジオストーリーは大幅な改訂を必要としている。
また、当時の地質活動だけでなく、海洋環境や堆積環境についても情報が不足している。これまで大間層に関する研究例は乏しく、それらも地質構造を対象とした研究である。一方、近年では北日本の中新世の堆積環境復元に関する研究事例も蓄積されつつあり、それらと比較検討することで、当時の下北西部の海洋環境を復元・対比が可能と考えられる。
本研究では、風間浦村北部に位置する大間層の地質調査および有機地球化学分析を行い、中新世下北半島西部の堆積環境の復元を試みた。
【試料と手法】
大間崎周辺に分布する硬質頁岩は、大間層として記載される。大間層上部では上部中新統の易国間安山岩類と同源と考えられる砂質凝灰岩を挟む点から中新世中上部とされ、津軽半島北部の小泊層や北海道南部の八雲層と対比される。大間層は珪質の硬質頁岩と、黄色を呈した変質した凝灰質砂岩の互層で構成されており、下部では軽石凝灰岩が露出する。
本研究では2023年9月に風間浦村北部の大間層の露出する河川から硬質頁岩部と、変質した凝灰質砂岩部を採取し、GC-MSによる遊離態有機分子分析を行った。
【結果と考察】
大間層に含まれる遊離態有機分子の濃度は非常に低く、最も高いn-alkane濃度でも0.12μg/g-sediであった。硬質頁岩からは、HBIアルカンおよびHBIチオフェン、C28ステランが検出され、珪藻の寄与が強く示唆される。一方変質した凝灰質砂岩からは珪藻バイオマーカーを含め、遊離態有機分子はほとんど検出されなかった。これらは、大間層では珪藻主体の堆積物が堆積する環境であり、時折周辺の火山体からもたらされる有機物に乏しい火山性砕屑物が運搬・堆積することで互層が形成されたことを示唆し、先行研究とも調和的である。
有機物の海起源/陸起源比(C27/C27+C29ステラン比)では、0.4~0.63と海洋藻類成分が卓越する値を示し、当時の下北西部はpelagicな堆積環境であったことが示唆される。一方、陸上高等植物に由来する成分も微量ながら検出され、特にFriedelineや減成トリテルペノイドなどの、被子植物に由来する成分が検出された。当時の下北半島西部から北海道南部にかけて、溶岩流を伴う海底火山活動が活発だったことが指摘されており、火山活動により形成された火山島から被子植物成分が運搬された可能性が示唆される。
堆積時の酸化還元状態を示すPr/Phは平均0.6と非常に還元的な値を示した。一方、ホモホパン指標は高々0.05であり、やや酸化的な値を示した。秋田堆積盆での先行研究では、ホモホパン指標とPr/Phでの傾向の違いは、pristaneの前駆物質であり陸上高等植物に多く含まれるα-トコフェロールの供給量に起因し、特にpelagicな環境では供給量の減少によりPr/Phがより還元的な値へシフトする可能性が指摘されている(Asahina et al.,2021)。大間層でも陸上高等植物の寄与が低い点や、硬質頁岩中に保存される有機物量が少ないことなどから、当時の堆積環境は、やや酸化的な環境であったと解釈した。下北半島の東部地域でも中期中新世に陸成層から泥主体の海成層への遷移が報告されており(工藤ほか, 2020)、当時は広い範囲でpelagicな環境が拡がっていたことが示唆される。
本研究により推測された中新世の下北半島西部の堆積環境は、日本海拡大期が終了した後の静穏期の下北ジオパークのジオストーリーに新たな情報を提供することができると考える。また本研究では、北日本から北海道にかけての硬質頁岩層との有機地球化学特徴の比較検討も行う。