17:15 〜 18:45
[MIS11-P12] 杓子岳北東斜面における土砂移動の経年変化
キーワード:雪渓、土石流、崩落、飛彈山脈
1. はじめに
飛驒山脈北部の杓子岳北東斜面において,2013年8月23日に斜面に堆積した土砂が1時間雨量55㎜の集中豪雨により土石流として流出した.城ヶ﨑ほか(2014)によると,土石流は白馬大雪渓上を約 1km 流下し,雪渓上では約 141,000m3の土砂が堆積した.前年の 2012 年に撮影された空中写真では,土石流発生地点に多量の土砂が堆積していたことが確認された.この土石流による被害はなかったが,人気登山ルートである白馬大雪渓では,土石流の発生条件の把握は災害軽減につながる重要な課題である.杓子岳北東斜面は,新第三紀中新世に白馬岳層に貫入した珪長岩で構成される(中野ほか,2002).珪長岩の岩壁には多くの 節理が発達しており,節理密度の大きい場所では削剥が盛んである(苅谷ほか,2006).そのため,北東斜面では多くの落石や崩落が発生しており,生産された多量の土砂は谷筋や斜面基部に貯留する.この斜面では土砂生産が継続的に生じており,多量の土砂が貯留した状況で豪雨があれば再び土石流が発生する可能性がある.しかしながら,杓子岳北東斜面に毎年堆積する土砂量や土石流の発生条件は明らかでない. そこで本研究では,杓子岳北東斜面を対象に,土砂堆積量,土石流化する雨量基準などを明らかにするため,北東斜面の土砂堆積量の経年変化を調べた.
2. 方法
杓子岳北東斜面における土砂堆積量は,ArcGIS Pro を用いてDEM やDSM の差分解析から算出された.差分解析には,国土地理院の2011年,2012年,2017年の航空レーザー測量データから作成したDEM,2016年,2018年,2019年,2022年のセスナ空撮画像から作成したDSMを用いた.土砂堆積量を調べるために,ArcGISProを用いて,使用した全てのDEMとDSMから最小値を抽出し,土砂を除く基盤地形の DEM(最小標高値 DEM)を作成した.杓子岳北東斜面では土砂生産が盛んな大きな谷筋が2つあり,それぞれ V1と V2とした(図 1).最小標高値 DEMと各年の DEMや DSMとの差分から,杓子岳北東斜面における谷筋~基部の堆積土砂量とその経年変化を調べた.
3. 結果
図2は 2011~2022年の V1と V2の谷筋(基部含めず)の土砂堆積量の経年変化である.土砂量は毎年大きく変動しており, V1 と V2 の谷筋では継続的に土砂が貯留・排出されていることが確認された.V1と V2の谷筋の土砂量は,毎年大きく異なる年もあれば,同じ年もあった.多くの年で谷筋の土砂量は 10,000m3以下であった.
4.考察
谷筋の土砂量の経年変化をみると,V1で2017年に多量の土砂量が確認された.DEMおよびDSMの差分から,2016~2017年に V1上流の岩盤斜面において大きな崩落が確認されたため,急激な土砂量の増加は,岩盤斜面の崩落が関与しているものと考えられる.各谷筋の土砂堆積量の違いは岩盤斜面からの土砂生産量や土砂堆積の許容量であると考えられる.そのため,V1は V2より土砂堆積の許容量が大きく,より土砂を溜めやすい地形だと考えられる.今後は,基部の土砂量の経年変化を求め,谷筋の土砂量と合わせた評価を進める予定である.
飛驒山脈北部の杓子岳北東斜面において,2013年8月23日に斜面に堆積した土砂が1時間雨量55㎜の集中豪雨により土石流として流出した.城ヶ﨑ほか(2014)によると,土石流は白馬大雪渓上を約 1km 流下し,雪渓上では約 141,000m3の土砂が堆積した.前年の 2012 年に撮影された空中写真では,土石流発生地点に多量の土砂が堆積していたことが確認された.この土石流による被害はなかったが,人気登山ルートである白馬大雪渓では,土石流の発生条件の把握は災害軽減につながる重要な課題である.杓子岳北東斜面は,新第三紀中新世に白馬岳層に貫入した珪長岩で構成される(中野ほか,2002).珪長岩の岩壁には多くの 節理が発達しており,節理密度の大きい場所では削剥が盛んである(苅谷ほか,2006).そのため,北東斜面では多くの落石や崩落が発生しており,生産された多量の土砂は谷筋や斜面基部に貯留する.この斜面では土砂生産が継続的に生じており,多量の土砂が貯留した状況で豪雨があれば再び土石流が発生する可能性がある.しかしながら,杓子岳北東斜面に毎年堆積する土砂量や土石流の発生条件は明らかでない. そこで本研究では,杓子岳北東斜面を対象に,土砂堆積量,土石流化する雨量基準などを明らかにするため,北東斜面の土砂堆積量の経年変化を調べた.
2. 方法
杓子岳北東斜面における土砂堆積量は,ArcGIS Pro を用いてDEM やDSM の差分解析から算出された.差分解析には,国土地理院の2011年,2012年,2017年の航空レーザー測量データから作成したDEM,2016年,2018年,2019年,2022年のセスナ空撮画像から作成したDSMを用いた.土砂堆積量を調べるために,ArcGISProを用いて,使用した全てのDEMとDSMから最小値を抽出し,土砂を除く基盤地形の DEM(最小標高値 DEM)を作成した.杓子岳北東斜面では土砂生産が盛んな大きな谷筋が2つあり,それぞれ V1と V2とした(図 1).最小標高値 DEMと各年の DEMや DSMとの差分から,杓子岳北東斜面における谷筋~基部の堆積土砂量とその経年変化を調べた.
3. 結果
図2は 2011~2022年の V1と V2の谷筋(基部含めず)の土砂堆積量の経年変化である.土砂量は毎年大きく変動しており, V1 と V2 の谷筋では継続的に土砂が貯留・排出されていることが確認された.V1と V2の谷筋の土砂量は,毎年大きく異なる年もあれば,同じ年もあった.多くの年で谷筋の土砂量は 10,000m3以下であった.
4.考察
谷筋の土砂量の経年変化をみると,V1で2017年に多量の土砂量が確認された.DEMおよびDSMの差分から,2016~2017年に V1上流の岩盤斜面において大きな崩落が確認されたため,急激な土砂量の増加は,岩盤斜面の崩落が関与しているものと考えられる.各谷筋の土砂堆積量の違いは岩盤斜面からの土砂生産量や土砂堆積の許容量であると考えられる.そのため,V1は V2より土砂堆積の許容量が大きく,より土砂を溜めやすい地形だと考えられる.今後は,基部の土砂量の経年変化を求め,谷筋の土砂量と合わせた評価を進める予定である.