日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS11] 山の科学

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部フィールド科学人材育成プログラム)、西村 基志(信州大学 先鋭領域融合研究群 山岳科学研究拠点)

17:15 〜 18:45

[MIS11-P13] 八幡平菰ノ森地すべり内の長沼の発達過程が示唆する大規模地すべりにおける湿地の多様性保持機構

*佐々木 夏来1須貝 俊彦2、南 裕介3 (1.明治大学、2.東京大学、3.産業技術総合研究所)

キーワード:陸化型湿原、地形場、排水、大規模地すべり、第四紀火山

八幡平火山北西に位置する大規模地すべり地内に形成された長沼を対象として,掘削調査をおこなって,長沼の発達過程を明らかにするとともに,同一地すべり地内の大谷地との発達過程の違いについて考察した。放射性炭素年代測定および堆積物分析の結果から,長沼は約7000年前以前に湖沼として形成され,その後,南側から湿地の陸化が進行し,約2000年前頃には現在のように北側に水域を残す湿地景観になったと考えられる。さらに,有機質シルト層の広い深度帯で抽水植物の花粉が出現したことは,長期間にわたって水深の浅い沼であったことを示唆する。長沼が長期にわたって水域を保持してきた理由として,湧水の存在だけでなく,周辺地形が比較的安定した土塊上部に位置し,土塊の侵食に伴う開析前線が長沼にまで到達していないことが考えられる。一方で,長沼の南西800 mの地すべり土塊縁辺部に位置する高層湿原の大谷地では,8600年前以前に地すべり性凹地形が形成されたのち,湿地が森林へと遷移する途中で約5500年前に河川の堰き止めによると考えられる湖が出現し,約3300年前には排水により湿原化したことが既存研究で報告されている。以上のことから,菰ノ森地すべり地では,大規模地すべり活動によって湿地が成立後,長沼のように周辺地形が安定的な場所では,水域が長期にわたって存続する一方で,大谷地のように,侵食や斜面崩壊による河川のせき止めといった局所的な地形変化を受けやすい場所では,湿地発達の急速な進行や,湿原から湖沼へと戻るような発達過程の逆行が確認されている。つまり,大規模地すべり地内に形成された湿地は,周辺の地形条件によって発達速度や発達過程が異なるために,大規模地すべり地は,地すべり土塊内に発達段階の異なる複数の湿地が共存する多様な湿地環境を育む場となっている。