日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS12] 古気候・古海洋変動

2024年5月30日(木) 10:45 〜 12:00 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:山崎 敦子(名古屋大学大学院環境学研究科)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、長谷川 精(高知大学理工学部)、小長谷 貴志(東京大学大気海洋研究所)、座長:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

11:30 〜 11:45

[MIS12-19] マイクロX線CT法による過去400万年にわたる北大西洋炭酸塩循環の復元を目指して

*武田 沙蘭1,2、木元 克典3岩崎 晋弥4原田 尚美2、IODP 第395次航海 乗船研究者一同 5 (1.東京大学大学院 新領域創生科学研究科、2.東京大学 大気海洋研究所、3.海洋研究開発機構、4.北海道大学大学院 地球環境科学研究院 、5.テキサスA&M大学)

キーワード:浮遊性有孔虫、海洋酸性化、有孔虫殻密度、X線マイクロコンピューター断層撮影法、北大西洋

約2.7 Maの北半球の氷河拡大期(intensification of Northern Hemisphere Glaciation; iNHG)は、大気中のCO2濃度の低下とともに、それまで続いた温暖気候から両極に巨大な氷床が存在する現代に近い気候への変化をもたらした重要な気候移行期である(e.g. CenCO2PIP et al., 2023)。この時代の大気中のCO2濃度変動に海洋が炭素リザーバーとして果たした役割を理解するためには、当時の海洋深層における炭酸塩循環の解明が求められる。
海洋深層水の炭酸イオン([CO32-])濃度は、溶存無機炭素(DIC)量とアルカリ度に依存する。また海洋炭酸塩堆積物の主要な構成要素である浮遊性有孔虫化石の溶解・保存は深層水[CO32-]によって決まるため、堆積物中に保存された浮遊性有孔虫化石の殻溶解度を測定することで、氷期/間氷期変動下における海洋炭素貯蔵量を復元できると考えられてきた。しかし、従来用いられてきた有孔虫の殻重量や破片率などの炭酸塩溶解指標は、生息環境による殻サイズや殻壁厚の違いにより値が歪められるため、深層水[CO32-]濃度変化を定量的に復元するには限界があった。そこで近年、これらの問題を改善しようとマイクロフォーカスX線CT装置(MXCT)を用いて浮遊性有孔虫の殻密度を定量的かつ高空間分解能で測定する手法が確立され(e.g. Iwasaki et al., 2019; Kimoto et al., 2023)、さらにこの手法を有孔虫殻溶解指標として応用することにより、過去の深層水[CO32-]を定量的に復元する指標が開発された(Iwasaki et al., 2022; Iwasaki et al., 2023)。この新しい殻溶解指標は殻サイズや殻壁厚に依存しないため、炭酸塩溶解測定による深層水 [CO32-]指標としては、現段階における唯一の定量的な手法と言える。
本研究では、国際深海科学掘削計画(IODP) 第395次航海で採取されたアイスランド沖ガーダードリフトとグリーンランド沖エーリックドリフト(北大西洋高緯度の深層水形成場近傍)の堆積物コア試料を用いて、MXCTによる浮遊性有孔虫(G. bulloides)の殻内部構造の観察および殻密度の測定を計画し、最終的には、iNHGをカバーする過去4 Ma間にわたる深層水[CO32-]を浮遊性有孔虫の殻溶解度変動をもとに定量的に復元することを目標としている。本発表では、主に研究計画の概要やMXCT手法について紹介するとともにプレリミナリーではあるがこれまで得られた結果について報告する。