日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS14] 生物地球化学

2024年5月30日(木) 10:45 〜 12:00 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:福島 慶太郎(福島大学農学群食農学類)、木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、座長:木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、福島 慶太郎(福島大学農学群食農学類)

11:30 〜 11:45

[MIS14-10] 福島県猪苗代湖における窒素循環の経年変化定量

*中川 書子1、山口 圭一1、松本 佳海1、三歩一 孝1、伊藤 昌稚1角皆 潤1 (1.名古屋大学大学院環境学研究科)

キーワード:窒素循環、三酸素同位体組成、湖沼、同化、硝化

福島県の猪苗代湖の湖水は、近隣の火山地帯から流入する酸性河川水によって1990 年以前はpHが5以下と低く、硝酸などの 窒素栄養塩が豊富であるにも関わらず一次生産が不活発な酸栄養湖に分類されていた。しかし、20 年ほど前からpHが徐々に上昇して中性化が進み、現在は7.3程度と一般湖沼と同程度のpHに達しており、これに伴って一次生産をはじめとした生物活動が湖内で活発化することが予想される。そこで本研究では2022-2023年に湖水調査を実施して湖内の総硝化速度や総同化速度などの窒素循環速度を定量化し、これを2014-2015年の結果と比較することで変化の実態を解明した。
各年とも6月と9月の計2回、湖心の各層と主要な流入および流出河川について採水を行った。試料は、GF/Fフィルターで濾過後、分析まで冷蔵保存した。各水試料中の栄養塩濃度はオートアナライザーを用いて定量し、硝酸の同位体組成 (δ15N値, δ18O値, Δ17O値) は、硝酸を化学還元法によって一酸化二窒素化した後に連続フロー型質量分析システムを用いて質量44,45,46を測定し、さらに一酸化二窒素を酸素化した後に質量32,33,34を測定することにより定量した。総同化速度および総硝化速度 は、Tsunogai et al. 2018 の手法を用いて算出した。
湖水中の硝酸の鉛直分布から求めた6月の硝酸総量は、2015年では82 Mmolあったものが、2022年には52 Mmol、2023年には 49 Mmolと約30 Mmol減少しており、徐々に窒素制限環境に近づきつつあることが確認された。一方、Δ17O 値の観測結果は、2014-2015 年が平均+3.3 ‰、2022-2023 年が平均+3.1‰と、僅かに減少した。このΔ17O値は全溶存硝酸に占める大気沈着由来の硝酸の割合が2 %程度減少したことを意味し、8年の間に硝化が活発化していることを示唆した。本研究で算出した湖内の窒素循環速度を比較すると、年間の総硝化速度は 2014-2015 年が平均36±10 kmol/dayに対して2022-2023年が平均34±3 kmol/dayと有意な経年変化は見られなかったが、年間総同化速度は、2014-2015年の平均34±10 kmol/dayに比べて2022-2023年は平均62±10 kmol/dayと増加したことが明らかになった。このことから猪苗代湖の一次生産は活発化しているが、硝化は未だに活発化しておらず、湖水中に豊富だった窒素栄養塩の多くは有機態窒素となって堆積物に蓄積しているものと考えられた。