日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS17] 歴史学×地球惑星科学

2024年5月30日(木) 15:30 〜 16:45 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:加納 靖之(東京大学地震研究所)、芳村 圭(東京大学生産技術研究所)、岩橋 清美(國學院大學)、玉澤 春史(東京大学生産技術研究所)、座長:芳村 圭(東京大学生産技術研究所)、岩橋 清美(國學院大學)

16:00 〜 16:15

[MIS17-06] GIS(e-コミマップ)を用いた歴史地震史料整理の重要性

*山中 佳子1 (1.名古屋大学大学院環境学研究科)

キーワード:歴史地震、GIS、南海トラフ

はじめに
歴史地震の破壊過程を考えるには,史料に書かれた情報を面的に把握する必要がある.これまでに多くの歴史地震史料が収集されて,近年ではさまざまな検索システムもあるが,それらの史料がどこの情報なのかについては一つ一つ地名をチェックしながら確認しなければならない.震度分布や津波高分布はある意味,史料からの情報を面的に表示することでその地震の特徴をつかむことができるが,数値化しているため史料に書かれた多くの情報を落としている.また数値化も研究者によって判断が異なることも多く,震源過程を考える上では元史料に書かれた内容を面的に理解することが必要になる.
そこで史料そのものをGISを使って整理することを考え,南海トラフ巨大地震の解明に向け,史料の面的整理を始めた. フリーGIS e-コミマップの活用 ここではフリーのWEB-GISであるe-コミマップを用いる.すでに収集された刊行されている歴史地震史料集から南海トラフ地震の史料を抽出し書かれた情報の場所特定まで行うことは時間的に不可能なので,地方史や郷土資料,論文等の史料を収集し,それらの整理を試みた.揺れによる被害,津波被害,地殻変動等の被害,避難行動などその他の情報に大きく分けてマークを変えて整理し,揺れと津波被害については目安のために被害の大きさによって3段階に色の濃さを変えた.また地震毎に色を変え,どの地域にどの地震の情報があるのかが一目でわかるようにした.
整理は三重県から始めたが,現在は愛知県,静岡県,和歌山県,高知県についても着手している.
GISによる面的史料整理のメリット
◎年代を超えた比較が可能:地図上に史料を整理していることから,年代を超えた同地域で発生した地震の被害状況の比較がしやすい.たとえば,宝永地震と安政東海地震の津波到達時間に着目すると,三重県紀北以南の地域では宝永地震では揺れがおさまってから津波が来るまでに飯を炊くくらいの時間があったが,安政地震ではすぐにやってきていることがわかる.
◎地理空間情報を考慮した史料理解:表層地盤の揺れやすさ,微地形,活断層,旧版地形図など様々な地理空間情報と併せて史料を読むことができるため,災害の誘因を考えやすい.旧版地形図と表層地盤の揺れやすさを比較すると,明治期には多くの場合,地盤の揺れにくいところに人々が住んでいることがわかる.一方地盤の悪い村では,震源から遠いにもかかわらず大きな被害がでていることもすぐに把握でき,地盤情報を考慮した史料の理解が可能となる.
◎近年の解析結果を考慮した史料理解:最近の観測解析結果を重ねることもできる.近年,海底地殻変動観測から南海トラフのアスペリティ(地震前に固着している領域)の分布が見えてきている.安政東海地震では全般的に三重県沿岸域で大きな津波被害を被っているが,南伊勢市東部では比較的被害が少ないことが指摘されていたが,これらはアスペリティの分布に関係がありそうであることも見えてくる.アスペリティ分布と史料内容を合わせることで,過去の地震でどのアスペリティが滑ったのかを推定することも可能になってきた.
◎避難行動の地域的特徴:高知県ではどの地域でも,大きな揺れを感じるとすぐに高台に逃げるので,津波の人的被害が比較的少ないが,三重県や和歌山県の一部の地域では,揺れを感じた後すぐに浜に集まり評議し,そこへ津波がやってくることを繰り返している地域があることもわかった.こういった地域的特徴を意識した防災啓発も今後重要かもしれない.