14:30 〜 14:45
[MIS18-03] 含水ケイ酸塩メルトからの気相成長:ディクティタキシティック組織の再現実験
キーワード:結晶化実験、蒸発凝縮、シリカ多形、ディクティタキシティック組織、溶岩ドーム
火山岩に見られる岩石組織は,マグマの上昇,結晶化,噴火という一連のプロセスを記録している.溶岩ドームやブルカノ式噴火の火山灰の一部には,長石のマイクロライトが網目状に配列し,その微細な隙間をガラスが埋めずに角張った空隙となっている組織―ディクティタキシティック組織が観察される (e.g. Gaunt et al. 2016; Kushnir et al. 2016).この微細な空隙のネットワークは,マグマの上昇および噴火の最終段階において非局所的な脱ガスを可能にするため,噴火の爆発性を制御する可能性がある (Kushnir et al. 2016).一方で,ディクティタキシティック組織にはほとんどの場合クリストバライトやトリディマイトといったシリカの高温多形が伴っており,それらがガスの浸透率を下げる可能性も指摘されている (Horwell et al. 2013; Boudon et al. 2015).しかし,こうした高温シリカ多形およびディクティタキシティック組織の組み合わせが形成されるメカニズムや条件,および形成時間はまだ分かっていない.そこで,我々は水熱実験によりディクティタキシティック組織の再現を試みた.
出発物質として,石基が主にガラス (SiO2 = 72.5 wt.%) で構成されている桜島大正噴火軽石を用いた.軽石を実験条件において飽和するような量の水とともに金カプセルに封入し,2.5–40 MPa,750–950°Cで,6–384時間加熱した.出発物質および加熱試料の組織観察および組成分析には,走査型電子顕微鏡 (JEOL JSM-7100F, JCM-7000) およびエネルギー分散型X線分析 (JEOL JED-2300F) を用いた.晶出相の同定には,顕微ラマン分光 (JASCO NRS-5100) を用いた.また,Rhyolite-MELTSによって実験条件における相平衡計算を行った.
ディクティタキシティック組織は,10–20 MPa,850°Cの条件で,4–8日程度加熱した試料において形成が確認された.このP-T条件は,Rhyolite-MELTSを用いて計算された出発物質のガラス組成に対するソリダス条件 (19 MPaで850°C, 10 MPaで870°C) とほとんど一致している.また,これらの実験では,軽石試料から離れた金カプセル内壁にクリストバライトおよびアルカリ長石の析出が見られた.このことは,これらの鉱物が実験中に気相成長したことの証拠であり,ソリダスに近いケイ酸塩メルトが効率的に蒸発したことを示している.ソリダスより高温では,メルトが安定に存在できるため,低温では過冷却度が大きいためにメルト中で細粒のナノライトあるいはウルトラナノライトの晶出が卓越するため,気相成長が駆動されず,結果としてディクティタキシティック組織が形成されない.これまで,ディクティタキシティック組織の形成には (1) ハロゲンによる腐食,(2) ガス駆動フィルタープレスによる融液偏析といったメカニズムが提案されてきた.これらは同時に起こるうるものの,メルトの蒸発凝縮だけでもディクティタキシティック組織が形成可能であることがわかった.これらの知見は,溶岩ドームや浅いマグマ貫入のアウトガスを制約し,地球上の含水マグマの結晶化の最終段階に関する新たな知見を提供する.
また,本発表では,実験試料との比較として十和田火山の御倉山溶岩ドームに見られるディクティタキシティック組織を紹介する.本試料は10–50 µm程度の長石マイクロライトからなるディクティタキシティックな石基と,空洞に析出した自形のトリディマイトが特徴である.興味深いことに,トリディマイト表面にはステップ間隔が数ミクロンの渦巻成長パターンが見られる.実験試料にはこうしたパターンは見られない.これは,御倉山溶岩ドーム形成時のガス中のシリカ過飽和度が非常に低く,蒸発凝縮作用が実験に比べて非常にゆっくりと進行した可能性を示唆している.
出発物質として,石基が主にガラス (SiO2 = 72.5 wt.%) で構成されている桜島大正噴火軽石を用いた.軽石を実験条件において飽和するような量の水とともに金カプセルに封入し,2.5–40 MPa,750–950°Cで,6–384時間加熱した.出発物質および加熱試料の組織観察および組成分析には,走査型電子顕微鏡 (JEOL JSM-7100F, JCM-7000) およびエネルギー分散型X線分析 (JEOL JED-2300F) を用いた.晶出相の同定には,顕微ラマン分光 (JASCO NRS-5100) を用いた.また,Rhyolite-MELTSによって実験条件における相平衡計算を行った.
ディクティタキシティック組織は,10–20 MPa,850°Cの条件で,4–8日程度加熱した試料において形成が確認された.このP-T条件は,Rhyolite-MELTSを用いて計算された出発物質のガラス組成に対するソリダス条件 (19 MPaで850°C, 10 MPaで870°C) とほとんど一致している.また,これらの実験では,軽石試料から離れた金カプセル内壁にクリストバライトおよびアルカリ長石の析出が見られた.このことは,これらの鉱物が実験中に気相成長したことの証拠であり,ソリダスに近いケイ酸塩メルトが効率的に蒸発したことを示している.ソリダスより高温では,メルトが安定に存在できるため,低温では過冷却度が大きいためにメルト中で細粒のナノライトあるいはウルトラナノライトの晶出が卓越するため,気相成長が駆動されず,結果としてディクティタキシティック組織が形成されない.これまで,ディクティタキシティック組織の形成には (1) ハロゲンによる腐食,(2) ガス駆動フィルタープレスによる融液偏析といったメカニズムが提案されてきた.これらは同時に起こるうるものの,メルトの蒸発凝縮だけでもディクティタキシティック組織が形成可能であることがわかった.これらの知見は,溶岩ドームや浅いマグマ貫入のアウトガスを制約し,地球上の含水マグマの結晶化の最終段階に関する新たな知見を提供する.
また,本発表では,実験試料との比較として十和田火山の御倉山溶岩ドームに見られるディクティタキシティック組織を紹介する.本試料は10–50 µm程度の長石マイクロライトからなるディクティタキシティックな石基と,空洞に析出した自形のトリディマイトが特徴である.興味深いことに,トリディマイト表面にはステップ間隔が数ミクロンの渦巻成長パターンが見られる.実験試料にはこうしたパターンは見られない.これは,御倉山溶岩ドーム形成時のガス中のシリカ過飽和度が非常に低く,蒸発凝縮作用が実験に比べて非常にゆっくりと進行した可能性を示唆している.