日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS21] 地球流体力学:地球惑星現象への分野横断的アプローチ

2024年5月29日(水) 10:45 〜 12:00 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:伊賀 啓太(東京大学大気海洋研究所)、吉田 茂生(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、柳澤 孝寿(国立研究開発法人海洋研究開発機構 海域地震火山部門)、相木 秀則(名古屋大学)、座長:伊賀 啓太(東京大学大気海洋研究所)

11:30 〜 11:45

[MIS21-04] 惑星内部計算を目指した高精度な粒子法の開発と数値安定性解析

*菖蒲迫 健介1吉田 茂生2川田 佳史3中島 涼輔4 (1.九州大学 大学院理学府 地球惑星科学専攻、2.九州大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門、3.海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 海底資源センター、4.九州大学 大学院理学研究院)

キーワード:数値流体計算、SPH法、数値不安定、粒子法、惑星内部

惑星進化の全貌を解読するには,全球的なダイナミクス諸過程を連続的に取り扱うことが重要である.このうち,惑星内部の物理化学進化は惑星形成期の衝突条件や出発組成に強く依存するため[1],惑星形成と惑星内部進化を切り離して考えることはできない.しかしながら,大変形を伴う混相流を精確に表現しつつ,異なる空間的・時間的スケールを同時に扱うことが可能な数値流体計算法は確立されておらず,計算ツールの欠如が惑星進化の解明を妨げる要因となっている.

惑星形成と惑星内部進化の連続的な取り扱いを実現するため,これまでに我々は粒子法による惑星進化フレームワークの作成に取り掛かってきた.具体的には,複数相と大変形に有利とされ,集積計算で広く用いられる Smoothed Particle Hydrodynamics method (SPH法[2,3])を,惑星コア形成やマントル対流計算に適用してきた[4,5].しかしながら,標準的なSPH法の離散式は粒子の均等配置を仮定して導出されるため,粒子配置に乱れが生じると計算精度が劇的に悪化することが,近年の研究[6]により判明した.そこで,我々は先行研究[7,8]を参考に,粒子の対称配置を仮定しない高精度なSPH法を開発した.添付の図は従来のSPH法(ST0, CSPH)と開発した手法(LSSPH)の収束性を確認した図で,横軸が粒子間隔,縦軸が解析解との二乗平均平方根誤差を表し,各図のタイトルにあるイプシロンは均等配置からのずれを表す.この結果から,新たに開発した手法が粒子配置の対称性に関わらず高精度であることを確認できる.

従来のSPH法では計算を進めるにつれて粒子の団状化を発症することが古くから知られている[9,10].この団状化は非物理的な不安定(数値不安定)に依るもので,実効的な解像度を下げるだけでなく,本来の歪み(応力)を正しく計算することも出来ないため計算発散を招きかねない.この種の不安定は音波の不安定化が原因であると考えられており,天文分野では Dehnen and Aly [9]によって "paring instability" という名として,計算工学分野では Swegle et al. [10]によって "tensile instability" という名で知られている.従来の数値安定性解析は既存の低精度なSPH法に限定された話であり,高精度な方法に適用した場合の議論は為されていない.そこで,これらの線形論を開発した手法に適用し,不安定領域がどのように変化するかを調べた.本発表では,開発した手法の重要なコンセプト,および,その数値安定性解析の結果について報告する.

Reference
[1] D. C. Rubie, et al., Earth Planet. Sci. Lett., 205, 2003
[2] R.A. Gingold, J. J., Monaghan, Mon. Notices Royal Astron. Soc., 181, 1977
[3] L. B.Lucy, Astron. J., 82, 1977
[4] K. Shobuzako, et al., JpGU2022, Chiba, Japan, May 2022
[5] K. Shobuzako, et al., the Japanese Society for Planetary Sciences, Hiroshima, Japan, October 2023
[6] M. Asai, Comput. Methods Appl. Mech. Eng., 415, 2023
[7] T. Tamai, S. Koshizuka, Computational Particle Mechanics, 1, 2014
[8] S. Yamamoto, J. Makino, Publ. Astron. Soc. Jpn., 69, 2017
[9] W. Dehnen, H. Aly, Mon. Notices Royal Astron. Soc., 425, 2012
[10] J. W. Swegle, et al., J. Comput. Phys., 116, 1995