日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS22] 海底のメタンを取り巻く地圏-水圏-生命圏の相互作用と進化

2024年5月26日(日) 09:00 〜 10:30 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:宮嶋 佑典(産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門 地圏微生物研究グループ)、井尻 暁(神戸大学)、ジェンキンズ ロバート(金沢大学理工研究域地球社会基盤学系)、戸丸 仁(千葉大学理学部地球科学科)、座長:戸丸 仁(千葉大学理学部地球科学科)、井尻 暁(神戸大学)

09:30 〜 09:45

[MIS22-03] 日本海酒田沖及び上越沖表層型メタンハイドレート胚胎域での掘削調査

*佐藤 幹夫1鈴木 清史2吉岡 秀佳1、PS21 乗船研究者一同、CK22-03C 乗船研究者一同、CK23-02C 乗船研究者一同 (1.産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門、2.産業技術総合研究所 エネルギープロセス研究部門)

キーワード:表層型メタンハイドレート、酒田沖、上越沖、掘削調査、地盤強度調査、地球深部探査船「ちきゅう」

産総研では、経済産業省からの委託により、表層型メタンハイドレート(MH)の開発に向けた海洋調査を実施している。表層型メタンハイドレートは海底面下の比較的浅い未固結堆積物中に賦存していることから、生産・回収方法として直接堆積物を掘削する手法が提案されており、堆積物の強度に関する情報が重要である。このため、表層型メタンハイドレート胚胎域での海底地盤強度把握のための掘削調査を、2021年8月に山形県酒田沖海域(PS21調査航海)、2022年9月に新潟県上越沖海域(CK22-03C調査航海)、2023年8月に山形県酒田沖及び新潟県上越沖海域(CK23-02C調査航海)で実施した。本発表では、3年に亘り実施した掘削調査概要について報告する。
掘削調査は、地盤調査船「POSEIDON-1」(深田サルベージ建設(株)所有)及び地球深部探査船「ちきゅう」(JAMSTEC所有)を用いて行われ、酒田沖の酒田海丘、上越沖の上越海丘南部と海鷹海脚北部の計3海域で、それぞれ「ガスチムニー構造」が認められるMH胚胎地点(MHサイト)と「ガスチムニー構造」が認められない参照地点(REサイト)の対を選定し、計3対6地点、及び酒田海丘でPS検層のみ実施した1地点を加えた合計7地点で計10孔の掘削を行った(やり直し孔と再堆積把握のための2m孔を除く)。掘削深度は、酒田海丘胚胎地点(SK-MH;水深532.5m)及び酒田海丘参照地点(SK-RE;水深556.0m)ではともに海底下160m、上越海丘胚胎地点(JK-MH;水深981m)では海底下155m、上越海丘参照地点(JK-RE;水深984m)では海底下200m、海鷹海脚胚胎地点(UTN-MH;水深916m)では海底下122m、海鷹海脚参照地点(UTN-RE;水深925m)では144mで、いずれも推定されるMH安定領域下限深度より深い。これら6地点(PS検層のみの地点を除く)の掘削孔で、地質試料(堆積物コア)採取とワイヤライン(WL)検層を実施した。酒田沖2地点のコア採取は、海底下61mまではPS21航海で、それ以深はCK23-02C航海で実施した。また酒田沖の2地点では、CPT計測(コーン貫入試験)を実施した(浅部のみ)。2022年および2023年の掘削では、ROVによる海底観察で過去の掘削孔を視認し、そこから適切な位置関係(距離及び方位)を保った地点を最終的な掘削位置として確定した。
地質試料は、MHが賦存しない通常の堆積物の地質性状(強度を含む)を明らかにすることを目的とし、胚胎地点ではMH賦存区間を除外してコアを採取したことから、採取コア長はSK-MH地点で計約30m、JK-MH地点で計約32m、UTN-MH地点では計約12mであった。一方、MHがほとんど賦存しない参照地点では、上越沖では海底面からJK-RE地点で99m、UTN-RE地点で90mの連続コアを採取したが、その後は時間の制約によりそれぞれ最深部で1本分(9m)のみ採取した。また酒田沖のSK-RE地点では、PS21航海で海底面から41mまでの連続コアと海底下60-61mの1mのコアを、CK23-02C航海で海底下70mから114mまでの44mの連続コアを採取した。
採取した堆積物コアは、「ちきゅう」CK22-03C及びCK23-02C航海では船上に回収後直ちにガス及び間隙水分析用試料採取を行い、その後X線CTスキャン及びMSCLによる非破壊測定を行った。XCT画像から室内土質試験等用のwhole round コアと半割用コアの仕分けを行い,whole round コアは下船後に室内土質試験を実施、半割コアは、簡易土質試験(ベーン剪断試験及び貫入抵抗試験)、古地磁気測定、コア写真撮影、記載、各種分析用のサブサンプリングを実施した。「POSEIDON-1」PS21航海では、船上でガス及び間隙水分析用試料採取を行った後は,採取コアは金属製のシェルビーチューブに入ったまま保管・陸揚げし、下船後に陸上のラボにてCTスキャン以降の作業を行なった。
WL検層は、全掘削点で実施し、検層ツールの不具合や時間の制約によりツール長相当の増掘りができなかったこと等により一部項目や区間で欠測があるものの、速度、比抵抗、自然γ線、NMR、密度等の項目について、海底下110〜170mまでのほぼ連続したデータを取得することができた。
海底地盤強度は、船上での簡易土質試験、下船後の室内土質試験、WL検層データ、CPT計測データ(酒田沖の浅部のみ)の結果を総合的に解釈して地盤強度の評価を行っている。また採取したガス、間隙水、堆積物等の地質試料は、化学分析や年代測定(テフラ、微化石、炭素同位体等)等を実施中であり、これらの結果により把握した地質状況は地盤強度分布解釈のバックグラウンドデータとして用いる予定である。
本研究は、経済産業省のメタンハイドレート研究開発事業の一部として実施した。