[M-IS22] 海底のメタンを取り巻く地圏-水圏-生命圏の相互作用と進化

[MIS22-04] 間隙水Li同位体比を用いた日本海メタンハイドレート分布域での深部流体検出

*宮嶋 佑典¹、阪井 康真²、井尻 暁²、山岡 香子¹、荒岡 大輔¹、井川 怜欧¹、吉岡 秀佳¹ (1.産業技術総合研究所　地質調査総合センター、2.神戸大学)

キーワード：日本海、リチウム同位体、ガスハイドレート、酸素同位体、間隙水

前弧域や横ずれ断層帯のガスハイドレート分布域では、粘土鉱物脱水や海洋地殻・マントルウェッジの変質に由来する流体の供給がよく見られる（Scholz et al., 2009; Nishio et al., 2015）。しかしながら、背弧海盆のガスハイドレート形成に流体が果たす役割はよくわかっていない。本研究では、日本海北東縁の上越沖、酒田沖のメタンハイドレート分布域において、海底下深部由来の流体を検出しその起源を明らかにするため、堆積物間隙水のリチウム（Li）濃度と安定同位体比を調べた。地盤調査船「POSEIDON-1」および地球深部探査船「ちきゅう」を用いて、ハイドレート胚胎サイトと参照サイトの水深約530～980 mより6本の堆積物コアを採取した。海底下1～140 mまでのコア堆積物より間隙水を抽出し、元素濃度分析とLiの分離精製・同位体比分析を行った。参照サイトでは、間隙水のLi濃度はコア最上部1～9 mで海水に近い値（22 μM）から14 μMまで減少し、より深部では深度方向に増加して最大48 μMに達した。このことから、深部堆積物にLiに富む流体が存在すると考えられる。胚胎サイトのLi濃度は参照サイトよりも高く、深度方向に最大78 μMまで増加する傾向が顕著であった。参照サイトと胚胎サイトのどちらでも、間隙水のLi同位体比（δ⁷Li値）は28.7‰から19.0‰の範囲であった。δ⁷Li値は上越では上部30 m、酒田では上部60 mの堆積物で深度方向に低下し、さらに深部ではほぼ一定であった。Li濃度と同位体比の深度プロファイルより、研究地域ではメタンハイドレートの有無にかかわらず、⁶Liに富む流体の移流があると考えられる。Cl/Li比とδ⁷Li値が正の相関を示すことから、海水に近い組成の間隙水とClに乏しい深部流体の2成分混合が想定できる。胚胎サイトについて、海水と間隙水のCl/Li比とδ⁷Li値の直線回帰を外挿すると、深部流体の端成分δ⁷Li値は7.2–16.1‰と計算できる。深部流体が堆積物（0‰）とのLi同位体分別を経験したならば、Li端成分は約40～180°Cで生成したと考えられ（Hindshaw et al., 2019）、これは地温勾配より海底下約1000～3000 mに相当する。同様な深部Li端成分は、西尾ほか（2009）による上越の海底下浅部コア間隙水とハイドレート融解水を用いた先行研究でも推定されている。上越の胚胎サイトを除き、δ⁷Li値はδ¹⁸O値と正の相関を示し、これは粘土鉱物の脱水では説明できない。Li端成分は、中新統～鮮新統の堆積物の変質、あるいはより深部の火成岩類からの溶出に由来すると考えられる。
本研究は、経済産業省のメタンハイドレート研究開発事業の一部として実施した。