[M-IS22] 海底のメタンを取り巻く地圏-水圏-生命圏の相互作用と進化

[MIS22-09] 淡水湖沼における底生動物群集を支える化学合成一次生産

★招待講演

*大西 雄二¹、山中 寿朗²、木庭 啓介³ (1.総合地球環境学研究所、2.東京海洋大学、3.京都大学生態学研究センター)

キーワード：底生動物、栄養源、琵琶湖、硫化物

水域生態系において、底生動物の栄養源を評価することは生態系における物質循環や生態系構造を理解する上で重要である。淡水湖沼における底生動物の栄養源としては、湖表層における植物プランクトンによる光合成産物が沈降粒子として堆積物中に蓄積したものが主であるが、堆積物中の微生物活動に由来する有機物も重要な栄養源である。例えば、堆積物中のメタン酸化細菌も重要な栄養源の一つであることが知られている。さらに、近年の研究では、湖沼堆積物中での硫黄酸化細菌による化学合成一次生産が湖底の底生動物の栄養源として利用されている可能性が指摘されているものの、底生動物群集への化学合成産物の寄与を定量的に調査した研究は行われていなかった。そこで本研究では、硫黄安定同位体比を用いて、日本最大の淡水湖である琵琶湖における底生動物群集の栄養源に対する、化学合成産物の寄与の評価を行った。
調査は湖水の成層構造が発達する夏季（９月）に、琵琶湖北湖の第一湖盆中央部（水深約90 m）と彦根沖の多景島付近（水深約50 m）で行われた。琵琶湖では湖水が貧酸素化する夏季〜冬季に、湖底に硫黄酸化細菌のバクテリアマットが確認されている。それぞれのサイトで湖水、堆積物コア、底生動物試料が採取された。得られた堆積物コアは3~5 cm間隔でスライスされ、間隙水中の硫酸イオン濃度、酸揮発性硫化物態硫黄(AVS)濃度とそれらの硫黄同位体比、底生動物の硫黄同位体比を測定した。
堆積物中には高濃度のAVSが検出され、そのδ³⁴S値は湖水の硫酸イオンよりも低い値であったことから、微生物による硫酸還元が行われていることが示唆された。湖水硫酸イオン、堆積物中AVS、底生動物のδ³⁴S値から、各動物種の硫黄栄養源に占めるAVS由来硫黄の寄与率を算出した。その結果動物種ごとの寄与率は、ヨコエビの0%から、高い生物量を持つエラミミズの100%まで、さまざまであった。これらの結果は、淡水環境であっても、深層水に貧酸素状態が発達する成層期には、堆積物中の微生物による硫黄サイクルが進行しており、底生動物の栄養源に影響を及ぼしていることを示している。