日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS23] 地質学のいま

2024年5月31日(金) 09:00 〜 10:30 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:辻森 樹(東北大学)、山口 飛鳥(東京大学大気海洋研究所)、尾上 哲治(九州大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、座長:小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、尾上 哲治(九州大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)

09:15 〜 09:30

[MIS23-02] CO2流体が引き起こす地殻―マントル境界の反応―破壊―物質移動の動的相互作用

★招待講演

*岡本 敦1大柳 良介2沖野 峻也1 (1.東北大学大学院環境科学研究科、2.国士舘大学)

キーワード:CO2流体、マントル、沈み込み帯、地化学モデリング

毎年、莫大な炭素が沈み込み帯から地球内部に持ち込まれている。しかし、よく研究されているH2O流体に比べて、CO2やCH4を含む流体の発生・岩石との反応や変形への影響はよくわかっていない。マントル岩石はCO2流体と高い反応性を持ち、オマーンなどでは山全体が炭酸塩+石英のリストベナイトに変化していたりする。一方、沈み込み帯のマントルウェッジにおいてどれほど炭酸塩化しているのかは、大規模な炭素循環のミッシングリンクとされている。CO2を吸収する反応は岩石の膨張反応であるが、マントルウェッジで可能なのだろうか?本講演では、三波川変成帯から見出された炭酸塩脈が発達した蛇紋岩体の産状を軸に、最近進めているマントルウェッジ条件での反応実験や地化学シミュレーションを合わせて、沈み込み帯のマントルウェッジ深度での炭酸塩化のプロセス、特に物質移動―体積変化―亀裂形成について考察する。
三波川帯の高変成度地域には多くの超塩基性岩の岩体やブロックが存在し、マントルウェッジ起源であると考えられている。その1つである関東山地長瀞の樋口蛇紋岩体は、アンチゴライトからなる小規模な蛇紋岩体であり、多くの炭酸塩+滑石脈が発達している[1]。最も細かいマグネサイト+滑石脈、露頭でもっとも顕著なドロマイト+滑石脈、大きな方解石+ドロマイト脈である。また、周囲の泥質片岩との境界にはアクチノ閃石+緑泥石片岩(蛇紋岩側)と緑泥石岩(泥質片岩側)の反応帯が発達している。マスバランスを考えると、CO2とSi, Caが地殻からマントルに移動することで蛇紋岩体の炭酸塩化による脱水反応が起こり、H2OとMgがマントルから地殻へ移動したことがわかる。地殻およびマントル岩石と平衡な流体組成を計算すると、三波川帯のような温かい沈み込み帯においては、マントル岩石と平衡な溶液のMg濃度は、地殻岩石と平衡な溶液のSi濃度よりも高くなり、移動度が大きくなっていることと調和的である[2]。深部での蛇紋岩の炭酸塩化はマントル岩石の体積増加を伴わず、むしろ減少することで亀裂を形成し、自己促進的に進行していると考えられる。また、炭素が入っている系では、Si交代作用よりもCO2交代作用によって沈み込み帯の地殻―マントルに滑石が形成していることがわかった。マントルウェッジ条件での地殻―マントル境界を模擬した500˚C, 1GPaの反応実験でも、同様のMg、SiとCO2の挙動を確認している。また、西南日本と東北日本の沈み込み帯に沿った地化学モデリングでは、マントルウェッジの顕著な炭酸塩化は冷たい温度構造の東北日本では起こらず、温かい西南日本の沈み込み帯で顕著に起こることがわかった。蛇紋岩化したマントルの炭酸塩化は、間隙水圧の上昇を伴う脱水反応であり、また、共に生成する滑石は最も摩擦強度が小さいマントル鉱物であり、沈み込み帯での地震発生領域から非地震性の定常クリープへの変化や、その遷移領域で起こる深部スロー地震の発生にも影響している可能性がある。
参考文献
[1] Okamoto, A., Oyanagi, R., Yoshida, K., Uno, M., Shimizu, H., Satishkumar, M., 2021. Rupture of wet mantle wedge by self-promoting carbonation. Communications Earth & Environment, 2, 151.
[2] Okamoto, A., Oyanagi, R., 2023. Si- versus Mg-metasomatism at the crust–mantle interface: Insights from experiments, natural observations and geochemical modeling. Progress in Earth and Planetary Science (PEPS), 10, no. 39.