09:30 〜 09:45
[MZZ40-03] 地球近傍小惑星リュウグウ表面岩塊サイズ分布の時間進化

キーワード:リュウグウ、近地球小惑星、岩塊、サイズ分布進化
地球近傍小惑星リュウグウの表面では微小天体衝突や熱疲労による岩塊の破壊・細粒化が起きていると考えられている。これは小惑星の質量損失や惑星への物質供給に寄与すると同時に、大きなサイズから小さなサイズに質量を移動させて小惑星表面の岩塊サイズ分布を変化させるため、岩塊サイズ分布から小惑星の表面進化に迫ることができると考えられる。1m以下サイズの小惑星表面粒子についてはサイズ分布進化の数値シミュレーションが行われているものの[1]、1m以上の岩塊からの質量移動が1m以下サイズでのサイズ分布進化に影響している。そのため、リュウグウ表面の大部分を占め質量移動の起点となる1m以上の岩塊のサイズ分布進化が重要である。
岩塊破壊プロセスには岩塊を破壊するために必要な単位質量あたりのエネルギーである衝突破壊強度が影響し、これは小惑星表面で起こる衝突破壊や母天体の衝突破壊を理解する上で基礎的な情報である。小惑星リュウグウでは岩塊物性に関して熱赤外観測による熱物性・空隙率・機械強度推定[2-3]や帰還試料の熱物性・機械強度測定[4]が行われている。しかし、衝突破壊は複雑なプロセスであることから、リュウグウ表面岩塊の衝突破壊強度は定量的には評価されていない。
そこで本研究では地球近傍での天体衝突頻度[5]と天体衝突の室内実験・数値計算研究に基づく破壊モデル(e.g., [6])を用いて、近地球ラブルパイル小惑星表面での岩塊サイズ分布進化の数値モデルを構築した。このモデルを用いて、岩塊破壊のタイムスケールと岩塊強度の関係を調査した。また、はやぶさ2探査機の光学航法カメラ (ONC) 画像を用いて、直径10 m以上の岩塊に対するカタストロフィック破壊を受けた岩塊の割合を求めシミュレーション結果と比較して岩塊強度を制約した。
数値シミュレーションから、岩塊強度が大きくなると岩塊破壊のタイムスケールが長くなること、カタストロフィック破壊を経験した岩塊の割合が岩塊強度に反比例することが明らかになった。ONC画像の解析領域内にはカタストロフィック破壊を受けた可能性がある10 m以上の岩塊の候補が11個発見され、同領域に存在する10 m以上の岩塊 (291個) に対する存在割合は3.8%以下であると推定された。シミュレーションで得られた岩塊強度とカタストロフィック破壊を経験した岩塊の割合の関係から、リュウグウ表面岩塊の衝突破壊強度は1mサイズで200 J/kg以上であることが推定された。この強度範囲で1mサイズ以上の岩塊を破壊するために必要なタイムスケールは8×107年以上となり、近地球小惑星の典型的寿命(107年)[7]やサンプルの宇宙線照射年代[8]よりも長いことが明らかになった。このため、1mサイズ以上の岩塊はリュウグウが近地球軌道に移動した後にほとんど衝突破壊を受けず、サイズ分布が保たれている可能性がある。
文献:[1] Hsu et al., 2022, Nat. Astron., 6, 1043-1050. [2] Grott et al., 2019, Nat. Astron., 3, 971-976. [3] Hamm et al., 2020, MNRAS, 496(3), 2776-2785. [4] Nakamura et al., 2023, Science, 379(6634), eabn8671. [5] Brown et al., 2002, Nature, 420, 294-296. [6] Petit & Farinella, 1993, Celest. Mech. Dyn. Astron., 57, 1-28. [7] Gladman et al., 2000, Icarus, 146(1), 176-189. [8] Okazaki et al., 2023, Science, 379(6634), eabo0431.
岩塊破壊プロセスには岩塊を破壊するために必要な単位質量あたりのエネルギーである衝突破壊強度が影響し、これは小惑星表面で起こる衝突破壊や母天体の衝突破壊を理解する上で基礎的な情報である。小惑星リュウグウでは岩塊物性に関して熱赤外観測による熱物性・空隙率・機械強度推定[2-3]や帰還試料の熱物性・機械強度測定[4]が行われている。しかし、衝突破壊は複雑なプロセスであることから、リュウグウ表面岩塊の衝突破壊強度は定量的には評価されていない。
そこで本研究では地球近傍での天体衝突頻度[5]と天体衝突の室内実験・数値計算研究に基づく破壊モデル(e.g., [6])を用いて、近地球ラブルパイル小惑星表面での岩塊サイズ分布進化の数値モデルを構築した。このモデルを用いて、岩塊破壊のタイムスケールと岩塊強度の関係を調査した。また、はやぶさ2探査機の光学航法カメラ (ONC) 画像を用いて、直径10 m以上の岩塊に対するカタストロフィック破壊を受けた岩塊の割合を求めシミュレーション結果と比較して岩塊強度を制約した。
数値シミュレーションから、岩塊強度が大きくなると岩塊破壊のタイムスケールが長くなること、カタストロフィック破壊を経験した岩塊の割合が岩塊強度に反比例することが明らかになった。ONC画像の解析領域内にはカタストロフィック破壊を受けた可能性がある10 m以上の岩塊の候補が11個発見され、同領域に存在する10 m以上の岩塊 (291個) に対する存在割合は3.8%以下であると推定された。シミュレーションで得られた岩塊強度とカタストロフィック破壊を経験した岩塊の割合の関係から、リュウグウ表面岩塊の衝突破壊強度は1mサイズで200 J/kg以上であることが推定された。この強度範囲で1mサイズ以上の岩塊を破壊するために必要なタイムスケールは8×107年以上となり、近地球小惑星の典型的寿命(107年)[7]やサンプルの宇宙線照射年代[8]よりも長いことが明らかになった。このため、1mサイズ以上の岩塊はリュウグウが近地球軌道に移動した後にほとんど衝突破壊を受けず、サイズ分布が保たれている可能性がある。
文献:[1] Hsu et al., 2022, Nat. Astron., 6, 1043-1050. [2] Grott et al., 2019, Nat. Astron., 3, 971-976. [3] Hamm et al., 2020, MNRAS, 496(3), 2776-2785. [4] Nakamura et al., 2023, Science, 379(6634), eabn8671. [5] Brown et al., 2002, Nature, 420, 294-296. [6] Petit & Farinella, 1993, Celest. Mech. Dyn. Astron., 57, 1-28. [7] Gladman et al., 2000, Icarus, 146(1), 176-189. [8] Okazaki et al., 2023, Science, 379(6634), eabo0431.